惟宗広言 これむねのひろこと/ひろとき 生没年未詳(?-1187以後)

日向守基言の子。代々大宰府府官の家柄の出。大宰少監を経て、文治二年(1186)、五位筑後守。後白河院に今様の名人として近仕した(梁塵秘抄口伝集)。
俊恵の歌林苑の会衆として活動し、承安二年(1172)の広田社歌合、治承二年(1178)の別雷社歌合、文治二年(1186)の大宰権帥吉田経房主催の歌合などに出詠。藤原教長などとの交流が知られる。文治三年(1187)七月の貴船社歌合への出詠が最終事跡。
私撰集『言葉集』を編纂。家集『惟宗広言集』がある。千載集初出(五首)。勅撰集には計六首入集。

霞歌十首よみ侍りし中に

見わたせばあしたの原の薄がすみ薄きや春のはじめなるらん(惟宗広言集)

【通釈】朝(あした)の原を見わたすと、薄霞が立ちこめている。この薄さが、まだ春の初めということなのだろう。

【語釈】◇あしたの原 大和国の歌枕。今の奈良県北葛城郡香芝町・王寺町あたり。地名に「朝の原」の意を掛ける。

互恨恋といふことを

恨むるも我がならひにぞたのまるる恋しきことのあるかと思へば(玉葉1800)

【通釈】あの人が私を恨むのも、自分の場合を例に考えれば、期待できるってことなんだ。恨むのは要するに恋しい気持ちがあるからだろうと思うので。私だって、あの人が恋しいからこそ恨んでしまうのだもの。

【語釈】◇恨む 相手の態度を不満に思い、心の中では相手を責めながらも、堪え忍ぶ。または、その不満をあらわして恨み言を言う。この歌の場合、後者。◇ならひ 慣例・習慣・しきたりなど。◇たのまるる 期待される。あてにできる。

寝人恋人 歌林苑

きぬぎぬにならむ歎きといひなしてあらぬ涙を君にかけつる(惟宗広言集)

【通釈】もうじき夜が明けて、きぬぎぬの別れになってしまう。それを歎いているのだと言いつくろって、流すべきでない涙を貴男の袖にかけてしまいました。

【語釈】◇寝人恋人 人と寝て人を恋ふ。ある人と寝ながら、別の人を恋うている、という状況設定の恋。言葉集の題は「一夜ねて人を恋ふといふ恋」。◇きぬぎぬ 衣々。後朝とも書く。恋人同士は、脱いだ互いの衣を重ね合わせて同衾するという風習があった。そして翌朝、それぞれの衣を着て別れたのである。その別れの時を「きぬぎぬ」と言った。◇いひなして 本心とは違うことを言って、その場をつくろう。◇あらぬ涙 不適当な涙、その場に相応しくない涙。この「涙」は、人と寝床を共にしつつ、本心で恋い慕う別の人を思いやって流した涙である。

【補記】女の立場で詠んだ歌。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日