水無月 みなづき(みなつき) Sixth month of the lunar calendar

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水無月は陰暦六月、晩夏。旧暦と新暦ではおおよそ一ヵ月から一ヵ月半程のずれが生じるので、水無月の始まりは今のカレンダーで言えば七月半ば頃にあたることが多く、本州ではそろそろ梅雨が明けようかという頃。溜池などが満々と水を湛えている時季なので、「()の月」すなわち「()な月」と呼ぶようになったものらしい。「神月」を「神月」と言い、後世「神無月」と書くようになったのと同じで、「水無月」もまた原義とは正反対となってしまう当て字なのである。
もっとも、陰暦六月は酷暑の季節であり、しばしば日照りによる被害を人々にもたらしたので、この点から言えば「水無月」の用字も肯けないことはない。

『万葉集』 日に寄す 作者未詳

みな月の土さへ裂けて照る日にも我が袖()めや君に逢はずして

土さえ裂ける日照りにあっても、涙に濡れる我が袖は乾かないと、恋人に逢えない悲しみを激しく歌い上げている。干害は秋の収穫に直結するので、古人にとって「みな月」は一年で最も恐ろしい月でもあったろう。

『六帖詠草』 夏河 小沢蘆庵

水無月の照る日にかれて踏みわたるさざれもあつき夏の山川

いきなり近世に飛んでしまったが、この歌は日照りで涸れた川を詠んでおり、これなら「水無月」の表記がぴったりと当てはまる。

ところが雅びを旨とした王朝時代の和歌となると、酷暑の辛さを言い立てることは滅多になく、「みな月」の風物にもっぱら涼感を探っている。

『堀河百首』 氷室 源顕仲

みな月の空のけしきもかはらねどあたり涼しき氷室山かな

『玉葉集』 夏歌に 大僧正行尊

みな月のてる日といへど我がやどの楢の葉かげは涼しかりけり

一首目、「氷室山」は氷室(氷を保存する室)のある山で、平安京の近くでは鷹峰西北の氷室山が名高い。二首目は自身の結ぶ庵が楢の葉陰にあるので、水無月の日照りの下でも涼しいという歌。楢は大きな葉を密生させるので、木陰に涼を求めるにはあつらえ向きの樹であった。

さて水無月も終りに近づけば、朝夕の風は秋めき、夜空に星の輝きが戻って来る。

後鳥羽院御集』 夏

みな月や竹うちそよぐうたた寝の覚むる枕に秋風ぞ吹く

『桂園拾遺』 夏天象 香川景樹

山の端にすばるかがやく六月(みなづき)のこの夜はいたく更けにけらしな

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  『万葉集』(詠不尽山歌) *高橋虫麻呂
富士の嶺に降りおく雪は六月(みなつき)(もち)()ぬればその夜降りけり

  『金葉集』(六月二十日頃に立秋の日人のもとにつかはしける) *藤原忠通
みな月の照る日のかげは射しながら風のみ秋のけしきなるかな

  『遠島百首』(夏) *後鳥羽院
呉竹の葉ずゑかたより降る雨に暑さひまある水無月の空

  『*如願法師集』(夏)
みな月のなかばに消えし白雪のいつしか白き富士の山風

  『草根集』(夏風) *正徹
学び得よこひねがはしきみな月の風のすがたを大和ことのは

  『六帖詠草』(夏眺望) *小沢蘆庵
山陰の青みな月の江の水に釣する小舟すずしげにみゆ

  『石上稿』(ふみよみ百首より) *本居宣長
六月に風にあつとてとり出ればやがて読ままくほしき書ども


公開日:平成21年9月10日
最終更新日:平成21年09月10日

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