やまとうたQ&A集


Q1-6.古今集巻七の巻頭歌と、国歌「君が代」を番って合わせたとして、貴方が判者ならばどちらを勝とするか?

A.
  左     よみ人しらず
 わが君は千よにやちよにさざれいしのいはほとなりてこけのむすまで
  右     よみ人しらず
 君が代は千よにやちよにさざれいしのいはほとなりてこけのむすまで

歌の優劣を論じるにも、様々な基準があり得るので、なかなか難しいと思います。例えば歌合では、
  • 歌合という場、すなわち晴の舞台に相応しい歌であるかどうか。
  • 歌が題意を満たしているかどうか。
  • 歌が歌病を犯していないかどうか。
といった点が優劣を判定する際に重要視されました。しかし、ここで上に挙げた二首を比較する場合、これらの基準は意味をなさないでしょう。
そこで、仮に今、私は「無名性」ということに重点を置いて両首を比較してみたいと思います。「無名性」というのは、たとえ作者が判っていても、「読人不知」とするのが相応しい歌――そうした歌の属性ということです。
長久の時間をあらわすのに石を以てしたのは、当時としてもごく常識的な発想だったでしょうが、科学的な物の見方を知った現在の私たちから見ても適確な喩えでしょう。普遍化・抽象化し抜いた、ラジカルな(根底的な)賀歌だと思います。個人的な感慨や個性的なイメージなどは、こうした歌にとっては夾雑物でしかありません。ましてや固有名詞で作者名が記されていたりしたら、歌としての価値が下がってしまう。ゆえに「無名性」ということを重視したいのです。
古今集賀部の巻頭歌としては、もちろん左歌が相応しい。「わが君」が醍醐天皇を指し、賀部巻末、皇太子誕生を祝う歌と首尾呼応するからです。
右歌は一人称代名詞所有格を外し、「君が代は」にしたことによって作者の無名性がいっそう推し進められてます。また、「よ」が上句に三遍繰り返されることになり、声調はなめらかになっています。無名性の賀歌としては、より完成されていますから、今二つの歌を並べて判ぜよと仰るなら、私は躊躇なく右の勝にします。


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最終更新日:平成15年1月2日
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