小野貞樹 おののさだき 生没年未詳

石見王の子という。嘉祥二年(849)、春宮少進。斉衡二年(855)、従五位上。貞観二年(860)、肥後守。古今集に二首。

題しらず        小野小町

今はとてわが身時雨にふりぬれば言の葉さへにうつろひにけり

【通釈】時雨が降って木の葉の色が変わるように、今はもう我が身は古び飽きられて、あなたのお気持も以前約束した言葉から変わってしまったのです。

かへし

人を思ふこころ木の葉にあらばこそ風のまにまに散りもみだれめ(古今783)

【通釈】あなたは、人を思う心は木の葉のように変わってしまうとおっしゃる――そうであるなら、たしかに風の吹くままに散り乱れてしまうでしょう。しかし、私があなたを思う心は、そんなに軽々しいものではありません。散り乱れることなど決してありませんよ。

【補記】時雨に濡れて木の葉が色を変えることに言寄せて心変わりを咎めた小町の歌に対し、人の心は木の葉とは違うと応じた。流布本系『小町集』では小町の歌の詞書が「わすれぬるなめりとみえし人に」とあり、同じ返歌を載せるが、作者名を記していない。

【他出】小町集、定家八代抄

【主な派生歌】
契りおきし心この葉にあらねども秋風ふけば色かはりけり(法印頼舜[新後撰])
色かはるこころ木の葉に跡たえてかよひし庭ぞ霜になりゆく(覚助法親王[続後拾遺])

甲斐の守に侍りける時、京へまかりのぼりける人につかはしける

みやこ人いかがととはば山たかみはれぬ雲ゐにわぶとこたへよ(古今937)

【通釈】都人が私はどうしていると尋ねたら、甲斐は山が高く、雲が晴れることがないように、絶えず憂鬱な思いをしながら、この遥かな遠国で侘びしく暮らしていると答えて下さい。

【語釈】◇雲ゐ 雲のあるところ。また、遥か遠い場所の意にもなる。

【補記】甲斐の国守の地位にあった時、京へ上る人に贈った歌という。古今集巻十八雑下、世の中を憂える歌のグループにある。『古今和歌集目録』によれば、作者は嘉祥四年(851)に甲斐守に任ぜられた。

【他出】古今和歌六帖(作者名不明記)、定家八代抄

【主な派生歌】
とはれねばはれぬ雲井にわぶとだに都にたれかおもひしるべき(藤原隆祐)
今更にわぶともいはじ山高みはれぬ雲ゐにのがれこし身を(頓阿)
山たかみはれぬ雲井にほととぎす啼くと都の人につげばや(宗良親王)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成22年03月18日