大江貞広 おおえのさだひろ 生没年未詳

羽前国長井荘を本拠とする長井氏の出。権中納言大江匡房の裔。関東執権広元の玄孫。宮内権大輔時秀の子。兄の宗秀も歌人として名がある。左将監従五位下。六波羅評定衆。
京極派の武家歌人。出羽一宮歌を勧進(『俊光集』)。玉葉集初出。勅撰入集は五首。ほかに冷泉為相撰『柳風抄』に二首採られている。

春の歌の中に

もろくちる花をばかろく吹きなして柳におもき春の夕風(玉葉255)

【通釈】脆くも散った花は軽々と吹きやって、一方枝垂れ柳には重たげに吹きつける、春の夕風よ。

【補記】同じ風が、桜と柳とでは全く異なる感じに吹いていることに着目。それを軽さ重さとして表現した。

【主な派生歌】
雨そそく柳の糸に露かけてなびくもおもき春の夕風(後崇光院)

題しらず

山もとのすそ野の木かげまだくらしわがすむ峰を月出づるほど(玉葉641)

【通釈】私の住む峰から月が昇る頃になっても、山麓の裾野の木蔭にある我が庵のあたりはまだ暗いことだ。

【補記】「わがすむ峰」は、「私がその麓で庵を営む峰」の意であろう。山の頂き近くにある庵から麓を眺めての作とも取れないことはないが、厳しい修行者でもない限り、庵は風雪をしのぐ山陰に結ぶのが普通。玉葉集秋歌に入るが、山家の趣を主とした歌。

【参考歌】「後鳥羽院御集」
都には山のはとてやながむらんわがすむ峰をいづる月かげ
  飛鳥井雅有「隣女集」
たが里にまづうつろひてながむらん我がすむ峰をいづる月かげ

題しらず

ながめしほれ秋のあはれも思ひ出でぬ雨しづかなる春の夕暮(玉葉1853)

【通釈】雨が静かに降る春の夕暮、つくづく景色を眺め暮らしているうちに、心は沈み、挙句秋の悲しさまで思い出してしまった。

【参考歌】「伏見院御集」
ながめしほるやよひのすゑの雨の中に花もなごりとちりみだれつつ


最終更新日:平成15年02月18日