黒沢翁満 くろさわおきなまろ 寛政七〜安政六(1795-1859) 号:葎居(むぐらい)

寛政七年(1795)、伊勢国桑名に生まれる。実名は重礼。通称、八左衛門。文政六年(1823)、藩侯松平家の転封に従い武州忍(おし)(藩庁所在地は現在の埼玉県行田市)に移住する。晩年には大坂堂島の忍藩蔵屋敷の留守居役を勤め、安政六年(1859)四月二十九日、大坂に没す。六十五歳。墓は大阪市天王寺区の珊瑚寺にある。
藩務のかたわら国学・和歌をほぼ独学で習得したという。学問は賀茂真淵本居宣長などに私淑したが、和歌は概して平明な古今調と評される。家集は『葎居(むぐらい)集』(埼玉県立図書館デジタルライブラリーにpdf文書がある)と『葎居後集』。和歌関連の著書には『万葉集大全』『古今集大全』『源氏百人一首』『難波職人歌合』などがある。他の著書には『随意稿』『酒席酔話』『藐姑射秘言(はこやのひめごと)』など。
以下には『葎居集』より二首を抄出した。

 

夏月

少女子(をとめご)が夏の衣のうすものを(とほ)りて白き月のかげかな

【通釈】少女の薄織りの夏衣を透けて白々と照る月の光であるよ。

【補記】「うすもの」は紗など、透き目が粗く、薄い織物。夏衣を透して少女の白い肌に射す月影のエロティシズム。

【参考歌】九条良経「新古今集」
かさねてもすずしかりけり夏衣うすき袂にやどる月かげ

夕立風

夕立の雲にきほひて吹きすさむ風より雨の音になりゆく

【通釈】夕立の雲と先を争うように吹き荒ぶ風――その風の音がやがて雨の音へと変わってゆく。

【補記】夕立が降る前には強い風が吹く。その風音が雨音に変わってゆく機微を捉えた。

【参考歌】本居宣長「鈴屋集」
夕立の雲にきほひて涼しさのますげかたよるそがの河風


公開日:平成20年01月31日
最終更新日:平成20年02月01日