中臣武良自 なかとみのむらじ 生没年未詳

伝不詳。『中臣氏系図』(群書類従第五輯)に祭主正六位上中臣広見の子として掲げる尾張掾正六位上武良士と同一人物か(『万葉集私注』)。とすれば中臣清麻呂の甥、中臣宅守の従兄弟にあたる。万葉集に一首のみ。

中臣朝臣武良自の歌一首

時は今は春になりぬとみ雪降る遠山の()に霞たなびく(万8-1439)

【通釈】季節は今は春になったとて、雪が降り積もる遠山のあたりに霞がたなびいている。

【補記】霞を春の訪れの徴候として詠んだ先例としては、万葉集巻十所載の人麻呂歌集歌がある(【参考歌】)。武良自の歌は雪の残る山に霞を配して、既に王朝の立春歌を先取りしている観がある。新古今集などに「よみ人しらず」、第四句を「遠き山辺に」として入集。

【他出】古今和歌六帖、綺語抄、和歌童蒙抄、新古今集、秀歌大躰

【参考歌】柿本朝臣人麻呂家集出「万葉集」巻十
久方の天の香久山この夕べ霞たなびく春立つらしも

【主な派生歌】
み雪ふる尾上の霞たちかへり遠き山べに春は来にけり(藤原知家[続拾遺])
時は今は冬になりぬとしぐるめりとほき山べに雲のかかれる(宗尊親王)
時は今はまだき木の芽も春の色に霞のそむる四方の山かな(中院通村)


公開日:平成20年05月28日
最終更新日:平成20年05月28日