藤原国経 ふじわらのくにつね 天長四頃〜延喜八(827?-908)

権中納言・贈太政大臣長良(ながら)の長男。基経・高子の異母兄。蔵人頭・皇太后宮大夫などを経て、元慶六年(882)二月、参議。寛平六年(894)五月、権中納言。同九年、中納言に転じ、延喜二年(902)、大納言に至る。同三年正月、正三位。同八年六月二十九日、薨。八十一歳。
元慶六年(882)と延喜六年(906)の日本紀竟宴和歌に出詠。勅撰入集は古今集に一首、続古今集に一首。

題しらず

明けぬとて今はの心つくからになど言ひ知らぬ思ひ添ふらむ(古今638)

【通釈】夜が明けたので、「今はもう」との心が決まると同時に、どうして言いようもない思いが添わってくるのだろう。

【語釈】◇今はの心 今はもう(帰らなければならない)との気持。◇心つく 心が決着する。決心がつく。◇からに 理由・原因などをあらわす接続助詞としてはたらく。掲出歌の場合は「と同時に」「と共に」ほどの意。

【補記】古今集巻十三、恋三。女の家に泊り、翌朝帰る時の心。いわゆる後朝(きぬぎぬ)の歌である。「極度の感傷と、それに理知的な眼を向けて、分解を試みようとするところが、この当時の新風だったのである」(窪田空穂『古今和歌集評釈』)

【他出】古今和歌六帖、古来風躰抄、定家八代抄

【主な派生歌】
春といへば今はの心つくからに峯をはるかに帰る雁がね(藤原隆信)
世の中を今はの心つくからに過ぎにしかたぞいとど恋しき(慈円[新古今])
忘れずよ今はの心つくばねの峯の嵐に有明の月(藤原家隆)
かへる雁いまはの心ありあけに月と花との名こそ惜しけれ(*九条良経[新古今])
しののめも思ひならひぬ暮れぬとていまはの心花につくより(契沖)


公開日:平成20年11月22日
最終更新日:平成20年11月22日