季刊カステラ・2000年夏の号

◆目次◆

方法的怠惰
プリンプリン物語大辞典
軽挙妄動手帳
奇妙倶楽部
インモラル物語
編集後記

『方法的怠惰』

●ちょっと素敵な記事●

「花見の会社員、屋形船から飛び込み行方不明」
 東京都江戸川区東葛西3丁目の旧江戸川で12日午後8時50分ごろ、屋形船に乗り、会社の同僚らと花見をしていた埼玉県大井町亀久保の会社員宮崎智行さん(25)が川に飛び込み、行方不明になった。警視庁葛西署や東京消防庁が周辺を捜索している。
 調べでは、現場は浦安橋の上流400メートル。宮崎さんは会社の同僚ら27人と、花見を兼ねて新入社員を歓迎する宴会に出席していた。宮崎さんは酒に酔っており、カラオケで歌いながら川に飛び込んだらしい。
(朝日新聞)

●ちょっと似てるシリーズ●

蓄膿症と畜生脳。
ふたり と ふたなり(ふたなりはひとりだけど)
伝家の宝刀 と 殿下の放蕩
肥満児 と 閑人
イマジン と閑人

●東北のオランダ人●

その心は、自分のことを「おら」、yesのことを「んだ」と言う。
様酔える。

●ちょっと違うシリーズ●

隠し味 と 味隠し はちょっと違う。

●エイプリルフール●

まあ、一年に一度くらい嘘をつかない日があってもよいのではないかと。

●大喜利・伝来編●

【出題】フランシスコ・ザビエルが初めて日本に持ち込んだ意外なものとは。
【回答】超一流のヨクデキマシタ。
【回答】出し物「ここが変だよ日本人」。
【回答】腐乱しす子。
【回答】増えるワカメ。
【回答】ひげ眼鏡。
【回答】変身ポーズ(胸の前で手を交差させる)。
【回答】生理用品(昔はどうしていたんですか?)。
【回答】コンドーム(昔は…間引いていたんですかね)。
【回答】マルチ商法。
【回答】コーラン。そして300年後、一度失われたコーランは山口淑子によって再びもたらされる。リコーラン、なんちゃって。
【回答】食いタンなしのローカルルール。
【回答】ゼロからはじめるインターネット錬金術
【回答】デイブ=スペクター著「おもしろアメリカンジョーク」

●大喜利・皇位継承編●

【出題】ジパング国のエンペラーが突然「息子に譲って庶民になる」と言い出しました。そのきっかけとは何。
【回答】次の衆院選に出馬(皇居一区)。
【回答】動物占いによるとエンペラーには向かない性格。
【回答】皇居内にマクドナルドとコンビニを作ってくれと要求するも宮内庁に拒否された。ならば、吉野家と駄菓子屋でも良いと譲歩するもこれも拒否。予算がないならともかく、皇居にふさわしくないなどという曖昧かつ恣意的な理由だったので切れた。今後は皇室暴露本を執筆予定。水面下では出版社間の壮絶な出版権獲得競走が始まっている。

●大喜利・政治家編●

【出題】ジパング国の首都エド市の市長は、度重なる問題発言で知られていますが、またもやジパング国民をあきれさせた大問題発言とは何。
【回答】僕のお母さんはヤドカリです。
【回答】外国人と田舎者は嫌いなんだよ。
【回答】ところで、阿片吸ってもいい?
【回答】オレには語らせろ。でもオマエはオレを語るな。オレは自分の政策を語るけど、オマエはオレの政策を語るな。
【回答】先生、フォアグラはおやつに入るんですか?
【回答】私は中森明菜を支持する。負けるな明菜。頑張れ明菜。私がついている。
【回答】差別、差別とうるさい奴だな。そんなに差別好きならば、差別王国にでも行き給え。そこは差別大王が統べる帝国で、草木も全て差別で出来ている。
【回答】専制! われわれはスポーツマンシップを乗っ取り……
【回答】二葉亭四迷!
【回答】関西人が暴動を起こした場合、自衛隊に治安出動を……

●大喜利・透視編●

【出題】特にこれといってからだの不調は感じない吉岡さん。ところが人間ドックのCTスキャンで胸部に映し出された意外なものとは。
【回答】メールアドレス。
【回答】地縛霊。
【回答】スタンド(レッドホットチリペッパー)。
【回答】JR吉岡さんの胸駅。
【回答】対人方向性地雷。
【回答】臓器移植ドナー意思表示カード。
【回答】燃える導火線。
【回答】あたかもそこに壁があるかのような動きをする男。
【回答】走っている虫酸。
【回答】段だら模様。

●大喜利・透視編●

【出題】伝説の楽園“ビーチ”を求めて冒険にでかけた青年たちが発見した楽園とはどんなもの。
【回答】背の低い人ばかり。
【回答】篠原ともえが女王として君臨している。
【回答】役所がない。

●大喜利・天気予報編●

【出題】天気予報では天候や大気の状態を感覚的に表す言葉として、「肌寒い一日」「汗ばむ陽気」「寝苦しい夜」「傘を持って出かけましょう」といった表現を使いますが、今回新たに採用された表現とはどんなもの。
【回答】マルキ・ド・サド日和。
【回答】脳内物質日和。
【回答】アドバイス日和。
【回答】活動断層日和。
【回答】通貨儀礼日和。
【回答】気位の高い一日となるでしょう。

●大喜利・金週編●

【出題】どんなゴールデンウィークでしたか。
【回答】脳梗塞三昧。
【回答】バスジャック三昧。
【回答】新宿ホームレス体験。
【回答】電車で碁。

●大喜利・秀樹感激編●

【出題】ローラが傷だらけなのはなぜ。
【回答】脱皮に失敗した。

●大喜利・すこやか編●

【出題】この夏流行の新しい健康法とは?
【回答】強い自動ドアにはさまる。
【回答】略奪健康法。一日一回。
【回答】かかと健康法。かかとしか食べてはいけない。動物は何でも良い。
【回答】自殺健康法。一日一回。もっとも二日目はない。どんな病気にもかからない。
【回答】出社拒否健康法。仕事をやめればたいていの病気は治る。(冗句でもなんでもないな)
【回答】「愛人よ松方を返せ! 仁科明子号泣会見」健康法。
【回答】ビールを飲みます。たくさん飲みます。ひたすら飲みます。やがて「自分は冷蔵庫と便所を繋ぐ管である」ということがわかる瞬間が来ます。それが健康です。

●大喜利・清き一票編●

【出題】自他共に認める選挙通の青木さん、彼が語る本当の選挙の楽しみ方とは。
【回答】宇宙人による候補者の拉致。
【回答】とりあえずオッズ表を作る。それから、立候補者の顔写真の入った「候補者トランプ」の作成に取りかかる。遊び方はいろいろ。

●大喜利・埋葬編●

【出題】西アフリカのある部族に伝わる奇妙な葬儀の風習とはどんなもの?
【回答】UFO葬。天空からの飛行物体が死体を連れさっていく。
【回答】埋葬前の議論。死体がなかなか死んだ事を認めないのでみんなで説得する。

『プリンプリン物語大辞典』

らぶほ【ラブホ】
ラブホーダイの略。
ぎふとしょっぷ【ギフトショップ】
贈り物用の店舗。
あーるでこ【アールデコ】
額の曲率。
ぷりんす【プリンス】
プリンの複数形。

『軽挙妄動手帳』

●不定形俳句●

男女七歳にして性器をオナニーせず
紅茶はとどまる、公衆トイレは逃げ去る
もし女の子だったら『山田直輸入販売』
もし女の子だったら『山田自己組織化』
はに丸供養
星座不信
クォークをかみつぶしたような
ウルサイのとウルサクナイのとがある場合には、ウルサクナイ方の膣痙攣
あんまりのグランプリ
リンパ系すり合うも他生の縁(わかりにくい下ネタ)
便秘殺人
ここにはモーニングサービスが無尽蔵にある
外部性欲ユニット
中原中也カルタ
巡礼だけ集められた教室
子ども風の男
洪水5級
永久シャンプー障害
想像妊娠解禁
自分だけの悪寒を出版してくれる出版社
全国商品ケア協同組合風の全国漁業協同組合
勝機が来た、と思った、いまなら私はコーヒーに勝てる
いざとなりゃあ、一気に、筋電図、さ
日常ファンの皆さん、こんにちは
最初の掃除、紀元前4208年
家庭×家庭(家庭の二乗)
愛子117歳

『奇妙倶楽部』

●空想発明展覧会・オーラが写るデジタルカメラ●

 必ずブルーバックで御使用ください。また、青いものを身に付けていると、その部分にもオーラが写ってしまいます。

●空想発明展覧会・エクトプラズマ発生薬●

 まず薬品A(粉末)を口に含みます。次に薬品B(液体)を口に含み、うがいの容量で混ぜ合わせてください。たちまち細かい泡状になり、体積が200倍ほどになります。この物質は空気に触れると固まりますから、口を上に向けて開いていれば、ふわふわとした白い塊が口の中から立ち上ります。暗いところでは青白い光を発します。また、数分で分解し気化しますので、神秘的なムードは満点です。
 御注意:決して飲み込まないでください。胃が破裂することがあります。

●空想発明展覧会・イタコちゃん●

 死者を呼び出す口寄せソフト「イタコちゃん」
お呼びになりたい方の名前とあなたとの関係を入力するだけで、亡くなった方とのチャット(パソコン通信を利用した文字による会話)ができます。
(正体は単なる会話プログラム)

●発明じゃないんだけど●

 人間の牡も去勢するとおとなしくなるのかなあ。
 中国の宦官とかどうだったんでしょう。
 男性ホルモンが少なくなったらかえって狂暴になったりして。
 いかん、セクハラ発言か?
 いや、最近のすぐに「むかつく」「きれる」お子様たちのことを考えていて、ちょっと……。
 我ながらひどいことを考える。

●空想発明展覧会・口寄せシステム「イタコちゃん2」●

 御好評いただいております口寄せソフト、イタコちゃんがバージョンアップいたしました。今回の特徴は、死体の頭に専用のアダプタヘルメットを装着し、強力な磁場により刺激を与えて脳を活性化、それをスキャンして死者の生前の思考パターンを再構築し、コンピュータでシミュレーションするというスグレモノです。さらに今回、音声入出力デバイスに対応。コンピュータディスプレイの中に故人がよみがえります。磁場の刺激によって死体が生き返ったという嬉しいお便りもいただいております。(宣伝用パンフレットより)
 もちろんその正体はただの会話プログラムである。生きている人にヘルメットを被せようが、やかんに被せようが結果は同じである。

●空想発明展覧会・貧乏を治す薬●

 これは俺が考えたんじゃなくて『金魂巻』とかいう本を書いたイラストレーターが言ってたんだ。『貧乏は切れば治るか。いや、薬で散らせ』とか変なこと。
「ああ、『マル金マルビ』ってやつですね。貧乏を治してくれるお医者はいないでしょうねえ。でも、ブラックジャックならあるいは…」
 法外な治療費取られるぞ。
「だってそのお金がないんだから」
 馬鹿を治す薬も欲しいよなあ。
「切実ですね」
 馬鹿は感染症らしい。

●空想発明展覧会・人力UFO●

 操縦方法。
 操縦席に座ったら、正面左右にあるハンドルを両手でひとつずつにぎり、ペダルに足をかけてください。二秒で一回転の速度で、右ハンドルを時計回りに、左ハンドルを反時計回りに回してください。同時に二枚のペダルを交互に漕ぎます。漕ぐ速度は三秒に一回(踏んで戻して一回と数えます)です。したがってハンドルを回す手の位置と、ペダルを漕ぐ足の位置は、六秒に一度同じところに来ることになります。これが正確にできるように練習してください。メトロノーム等の持ち込みは可能ですが、生体エネルギーを利用していますので、機械などで操作しても操縦はできません。必ず人間の手足で操作してください。
 これを七日間、休み無く続けると機体が三センチほど浮くはずです。浮かない場合は当社のサービスセンターに御連絡ください。

●私は発明する(される)ものか発見する(される)ものか。●

 世界は発明するものか発見するものか。
 愛は発明するものか発見するものか。
発明と発見というのは実は同義ではないか、
ということを発見した。
あるいは発明した。

●空想発明展覧会・舌先三寸●

 よく「釣った魚に餌はやらない」などと申しますが、釣りの道具でルアーというのがありますね。ニセモノの餌。恋愛だとアレは何にあたるのでしょうね。元手がかかっていなくて実質がともなわない言葉でしょうか。ニセモノの愛情。いかにも美味しそうに見える。
 口下手で女性がうまく口説けないとお悩みのあなたに、舌に装着するだけで、歯の浮くような台詞が立て板に水、彼女が聞くだけであなたの子種が欲しくなる口からでまかせが溢れ出る新商品、その名も「舌先三寸」新発売。
 愛撫が苦手な方には、姉妹品「二人羽織」もございます。
 シラノ・ド・ベルジュラックだな。品がなくてすまぬ。

●空想発明展覧会・セルフサービス病院●

 入り口から正面に廊下が延びている。廊下の両側の壁には、診察室、手術室、分娩室、薬局、集中治療室などのドアが並ぶ。診察室の中に入ると、テーブルの上に聴診器、血圧計、カルテの用紙などが山積みにされており、患者は自分で診断する。コインレントゲンは一回五〇〇円。診断方法、病状判断などがわからない時は、コンピュータ診断システム「あかひげくん」が利用できる。チャート式にイエス、ノーを選択し、指示にしたがうだけで、自分の病状がわかる。正確に言うとわかったような気になる。一件につき一〇〇〇円。感染力の強い伝染病と診断された患者は自分で隔離病棟へ行く。
 次に患者は自分で治療を行う。ベッドの横には消毒済みの注射器が山積みにされている。自動販売機で薬品を購入して使用する。上手な注射の仕方を図解した貼り紙が壁にはってあるので初心者でも安心である。痛み止めのモルヒネの消費量が異常に多い。しかし、診断書があるので問題はない。薬を処方する場合には薬局に薬品の自動販売機があるので、飲み薬、塗り薬、座薬など自由に購入できる。こちらでは睡眠薬の消費量が異常に多い。
 手術の必要がある患者は手術室へ向かう。脳波計、心電図などの各種計測器と、メス、鉗子などの器具はそろっているので患者は自分で手術を行う。決して全身麻酔は行わないように、と書かれた貼り紙がしてある。美容整形を行う人は、学生の時の図工の成績を考慮しましょう、と書かれた貼り紙もある。患者は空いている手術台を探して横たわり、自分で手術を行う。空いていない手術台というのは、現在手術中のものと、出血多量などの理由で手術を途中で諦めた患者が乗ったものである。手術中の患者が多い時は、うめき声、悲鳴、「痛い痛い痛い」「誰か俺の腎臓を拾ってくれ」「心電図が止まった」「脳波がない」などの叫び声で、大変賑やかな状態になる。手術を途中で諦めた患者に関しては、週に三回専門の業者が引取に来る。その時息があれば医者のいる病院に運ばれるが、たいていの場合は霊安室へ運ばれ、家族に連絡が取られる。
 廊下の突き当たりには階段がある。二階は入院用の大部屋と個室である。
 清掃、備品の補充、建物の維持管理以外に人件費がまったくかからないため、治療費はただ同然であり、利用者は多い。
 この病院へ毎日清掃に来るおばちゃんは「実は自分は銀河の彼方フォーマルハウト星から派遣された秘密調査員であり、いざという時この掃除機はアンドロイドに変形して戦う」という妄想に取り憑かれているのだが、それはまた別の物語である。

●空想発明展覧会・テーマパーク●

 テーマパーク「空き地に土管が三本」。
 見世物小屋のテーマパークはあっても良い。
 寂れた観光地の「秘宝館」を集めたテーマパークとか。

●空想発明展覧会・時計●

 時計の文字盤の目盛りの部分を書き換えて、一日が四八時間になるようにした。これでどんな仕事も余裕のよっちゃん(死語)だ、と思ったのだが、どういうわけか仕事の能率も二分の一になってしまった。

●空想発明展覧会・シンセサイザー●

 キーボード(シンセサイザー)の練習をするがうまく演奏できない。ミスタッチが多いのだ。バックスペースキーをつければ間違いが取り消せると思い、知り合いのエンジニアに相談する。
 彼は悲しそうな顔で、商品化できません、といった。

●船旅●


 英国南東部の港町ドーバーで18日深夜、フェリーで上陸した大型トラックの荷台から58人の死体が見つかった。地元ケント州警察は英国移住が目的の密航者とみて調べている。
 死体が見つかったのは野菜を運搬する冷凍トラックで、フェリーは同日夕にベルギーのジーブルッヘを出航した。58人は「中国系の東洋人」とみられ、窒息死の可能性が強いという。また、男性2人が生存しているのがわかり、病院に収容されたという。
 バルカン半島やクルド人地域など欧州周辺部で広がる地域紛争を背景に、フランスやベルギーからトラックの荷台などに隠れて英国に密航し、入国後に難民を申請する外国人が1990年代後半から急増。99年には7万人を超え、保守党が難民対策の強化を求める政治問題にもなっている。
(朝日新聞)

 またしても死体の話である。他のことに興味がないのか、俺は。
 荷台から次々と出てくる死体の絵を想像するだけでもシュールだが、58人の死体と共に荷台に詰め込まれてドーバー海峡を越えた、生き残りの二人の気持を考えると、何とも言えぬ味わいがある。

『インモラル物語』

●トマトの缶詰は冷たいよ●

母を亡くした小猫が
真っ赤なトマトの缶詰に身をすりよせている
真っ赤なトマトの缶詰を母親だと思って
トマトの缶詰は冷たいよ
トマトの缶詰は乳をくれない
真っ赤なトマトの缶詰に身をすりよせて
やがて小猫は目を閉じる
真っ赤なトマトの缶詰に身をすりよせて
小猫はもう目を開かない

●トマト缶のママ●

小猫が彼女を望んだ時から
トマト缶のママは存在を始める
真っ赤なトマトの缶詰が猫の母親になったことの
突拍子もなさにトマト缶のママは戸惑う
トマト缶のママは小猫に乳をあげられない
トマト缶のママは小猫を舐めてあげられない
トマト缶のママは優しくニャアと鳴くことができない
それどころか
トマト缶のママは冷たくて小猫の体温を奪う
トマト缶のママは小猫を飢えさせる
トマト缶のママにできることは小猫をいとおしむことだけ
だからトマト缶のママはただ小猫をいとおしむ
トマト缶のママはただひたすら小猫をいとおしむ
小猫はママの愛に応え甘えるように身をすりよせる
この子の命が終るまでの短い間
私はこの子の救いになったかしら
この子は私の救いになったかしら
トマト缶のママにできることは他に何もない
だからトマト缶のママはただひたすら小猫をいとおしむ
小猫の命が終る時
トマト缶のママも存在を止め
トマト缶のママは真っ赤なトマトの缶詰に戻る

●彼らはなぜ殺すのか●

 死は人間社会における儀式として重要なものである、という意識はおそらく後天的に身につくことだろうと思います。それは理屈として学ぶのでなくて、例えば、小さい頃から「盗みはいけない」と教えられて育つと、大人になってから「絶対に誰も見ていないから盗んでも大丈夫」とわかっていても、盗もうとするとドキドキして罪悪感が沸き起こって来る、というような形式で身につくのだろうと思うのです。習うのではなく、周囲の人の言動から「写し取られる」。心理学の用語では幼児体験とか何とか言うのでしょうが、私は「刷り込み」と呼んでおります。
 これに対して、他人を何というか「あわれに思う心」というか、優しくしたいとか、かわいそうだと思う心はある程度先天的なものではないか。これは、例えば「狼に育てられた少年の話」を狼の方からいうと、奴らには「例えた種族の子供であっても、打ち捨てられていればそれをあわれに思う気持」があるということですよね。あるいはロンドンの動物園でノイローゼにかかったゴリラにペットとして小猫を与えたところ大変にかわいがったという話。おそらく、社会性を持った高等哺乳類には、そういう性質が普遍的にある。当然人間にもあるだろう(岸田秀先生なら、人間の本能は壊れている、とおっしゃるかもしれませんが)。
 そう考えると、安易に人を殺す少年たちは、そこのところを後天的に阻害されている可能性が大きいのではないでしょうか。全国で同時多発的に起こっているということは、それは個別的な特殊な問題ではなく、構造的な問題である。つまり、彼らの周囲に手本とすべき、刷り込まれるべきコミュニケーションの形式がなく、逆に「あわれに思う心」を阻害するような状況があった。それは何か。全国で共通の要素としては、「教育の形式」「テレビをはじめとするメディアの内容」「都市の生活環境」などが考えられます。どれかひとつが問題なのではなく、すべてにわたって人情が薄くなっている感じはしますが。
 もうひとつの考え方もあります。彼らが生まれる時期の日本のある「環境」例えば化学物質などの影響で、彼らの脳の一部が最初から壊れていた、という可能性です。
 自我が奇妙に肥大していて柔らかいまま外部に晒されており、それが傷つくのを恐れて衝動的で激烈な行動をする。それから、全般的な一種の「コミュニケーション不全」。原因は何か。アメリカで少年が銃を乱射したりする事件と根は同じなのか。なぜ大人たちは、事件が起こるまで、そもそも「問題があったこと」に気付かないのか。本当に気付かないのか、気付かない振りをしているのか。
 そして、いったいどう対処すればいいのか。
 おそらく、普通にすればいいのである。
しかし、私たちはすでにその「普通」を見失っている。私たちには「健康な社会」がどういうものなのか、わからない。

◆編集後記◆

 ここに掲載した文章は、パソコン通信ASAHIネットにおいて私が書き散らした文章、主に会議室「滑稽堂本舗」と「創作空間・天樹の森」の2000年4月〜6月までを編集したものです。私の脳味噌を刺激し続けてくれた「滑稽堂本舗」および「創作空間・天樹の森」参加者の皆様に感謝いたします。

◆次号予告◆

2000年10月上旬発行予定。
別に楽しみにせんでもよい。

季刊カステラ・2000年春の号
季刊カステラ・2000年秋の号
『カブレ者』目次