季刊カステラ・1999年春の号

◆目次◆

方法的怠惰
プリンプリン物語大辞典
奇妙倶楽部
インモラル物語
かなり重症
編集後記
別冊付録『彼が目覚める時』4

『方法的怠惰』

●不定形俳句●

難解なお役所言葉ポップス・ロック
三度目の嘘吐き
ギターを抱いた渡り蟹
花咲く被害妄想 夢見る疑心暗鬼
ガラスも割れるかという甲高い声の大阪弁でとぎれることなく喋り続ける女
ストーカーキング
「うまい棒」と墓碑銘が刻まれた墓石
幼虫の時代を終えた黒柳徹子はこれからいよいよ蛹になる。
神をPL法で訴える
男女3867人夏物語
約100人くらいの侍
おおおかさんといっしょ
ミリナノうた(いくらなんでも短かすぎる)
カンニング娘。
行列のできる店(客席数1)
今回は特別にこの高枝切りばさみと棺桶が付いて1万円、しかも棺桶には死体が入ってます
ペニスって何? え、陰毛の中? ほんとだ、あった!
所沢のおいしい水
チェルノブイリの天然水
聞いているとすごく楽しくて、切って欲しくないいたずら電話
きびきびとのんき
噛み殺されまいとして必死で抵抗する笑い
3週間ためた便秘を浣腸と下剤で一気に脱糞するイメージトレーニング
無気力野菜
千のコンプレックスを持つ男
千の利休を持つ男

●不定形俳句・国民的●

国民的進化論
国民的うわさ
国民的崖っぷち
国民的パラノイア
国民的女郎
国民的霊魂
国民的フランス人
国民的正月
国民的自殺
国民的神秘主義
国民的〆切り(ずるずる伸びる)
国民的イモ姉ちゃん
国民的河童

●ちょっと似てるシリーズ●

匍匐と葡萄。
水母と水子。

●不定形俳句・探偵●

リードオンリー探偵
 なんじゃこれは。
「読みだし専用」
 書き込めないんじゃ役に立たないじゃん。どうやって使うの。
「火浦功の小説で、ものすごく物忘れがいい探偵が出てくるのがありましたけど。その探偵の名前が、アルツ・ハマー」
 読むだけで発言しない探偵かも知れないよ。
「実は名探偵で、すごく鋭い推理をしているんだけど誰にも教えない」
 沈黙探偵。犯人にだけそっとメモを渡す。『あなたでしょ』って書いて。
「うわー、すごく嫌なやつ」
ガマン探偵
 調査員としてはまったく無能なんだけど、ものすごく我慢強いの。
「黙々と資料をあたり、聞き込みをし、記録を作る」
 でも、まったく真相に近づかない。むしろどんどん離れていく。
「みんなうすうす、この人は探偵に向いていないのではないか、と思っているんだけど、すごく真面目で仕事熱心だから、かわいそうで言えない」
 そしてまた、事件は迷宮のかなたへ消えてゆく。
あと一息探偵
 いつも惜しいところはかするの。でも直前で犯人にたどり着かない。
「ファウルチップみたいなもんですね」
モノレール探偵
「モノレールに詳しいんですか」
 現場がモノレールの時だけ俄然力を発揮する。
「そんな調査滅多にないんじゃないですか」
 うん、だから誰も彼がどんなに優れ探偵か知らないの。
臨時探偵
 一時的に探偵。
「アルバイトの探偵」
 期間限定。調査の途中で急に探偵でなくなったり。
盗撮探偵
 趣味を兼ねた実益。
「犯罪ですけどね」
沈没探偵
「なんですかこれ」
 沈んでるの。
「鬱病?」
 あ、躁鬱病の探偵ってどうかしら。
「躁と鬱が切り替わる時が劇的ですよね」
 被害妄想探偵とか。
「電波探偵とか」
ゴジラ探偵
「何を調査してるんです?」
 さあ?
コスプレ探偵
 目だってしようがない。
「コミケならカモフラージュになりますけど」
科学技術探偵
『怪奇大作戦』って知ってる?
「岸田森も死にましたね」
ノスタルジック探偵
「懐古趣味なんですね」
 対象モダニズムなんだ。
空想探偵
「想像上の探偵ということですか?」
 いや、想像力で事件を解決するの。
「そんな無茶な」
仮想探偵
 バーチャルデテクティヴ。
「こんな小説ありそうですね」
注文の多い探偵局
 宮沢賢治か。
「普通は依頼者の方が注文するのに」
 ここでは探偵が注文する。
「調べるのは依頼者の方なんですね」
 依頼者とイライザはちょっと似てる。
脳内麻薬探偵
 ナチュラルハイ。
「トリップしてる」
肉離れ探偵
 コメントなし。
恍惚老人探偵
 何度もお昼ご飯を食べようとする。
「息子の顔を忘れる」
 夜中に徘徊…してもいいのか、探偵だから。
邪眼探偵
 睨まれると呪われる。
「呪術探偵。みんな、目え合わしたらあかん」
 うろうろ調査なんかされたら困るな。
独裁者探偵
 お前が犯人。俺が今決めた。
幽霊探偵
 いるのかいないのか判らんな。
「イタコが…」
死者探偵
「幽霊探偵とは違うんですか」
 死体なの。
「あ、ボディがある」
 棺桶に入れて持ち歩く。
「それで聞くんですね、どう推理しますか、なんて」
担架探偵
 こっちはまだ息があるの。
服毒探偵
「早く推理を聞かないと」
安楽椅子探偵
「アームチェアデテクティヴの直訳ですね」
 椅子が探偵なんだ。犯人が座ると揺れる。
「ダウジングか。電気椅子探偵はどうです。犯人が座ると電気が…」

●不定形俳句・恐怖症●

幽霊恐怖症
拷問恐怖症
自分の死恐怖症
爪切りで肉をちょっとずつむしり取られること恐怖症
食人恐怖症
目がさめたら全長3メートルの鰐と添い寝恐怖症
目がさめると思い詰めた顔の恋人が、
  包丁を握り締めてベッドの横に立っている恐怖症
妻恐怖症
不倫発覚恐怖症
ものすごく短気で暴れると手が付けられない相撲取りと二人きりで狭いエレベーターに閉じ込められる恐怖症
ふかふかの絨毯かと思ったら、床に隙間なくびっしりと毒蜘蛛恐怖症
かに道楽の看板のあの蟹がなぜか道路にいて、人が走るよりも速い速度でこちらに向かって横這いに這って来る恐怖症
火山性の地震で家屋倒壊、さらに津波にさらわれ、半死半生で陸に上がって来ると目の前に迫って来る溶岩恐怖症
魔女裁判恐怖症
絨毯爆撃恐怖症
自分の呼吸恐怖症
瞬き恐怖症
微笑み恐怖症
愛情恐怖症
ふわふわしていて暖かくて可愛らしいもの恐怖症
恐怖恐怖症
娯楽恐怖症
未来恐怖症
自分恐怖症
幸せ恐怖症
生活恐怖症
プラズマで何でも説明できる恐怖症
重力恐怖症
天井があるのもないのも恐怖症
ひらがなの「ぬ」恐怖症
今までに見たことあるもの全部恐怖症
昔話恐怖症
理性恐怖症
熱いお茶が一杯恐怖症

●鈴木その子 vs メカ鈴木その子●

 鈴木その子はなんとなくメカっぽい。文楽の人形のように、突然口が耳までパカッと割れて、ギザギザの歯が出現したら、子供の心に一生残るトラウマとなるであろう。
 爆笑問題の太田光は、鈴木その子の職業を聞かれて「塗装業」と答えていた。病名は漂白神経症

●不定形俳句・未遂●

正露丸未遂
居直り未遂
人間未遂
誕生未遂
初恋未遂
ダイオキシン未遂
無農薬未遂野菜
殺人を思いとどまること未遂
森繁未遂
DNAシーケンサーの「ーケ」の部分未遂
完全無欠の未遂
青春未遂
一人時代劇お代官様と農民編未遂
猛烈にはしゃぐひなのの横でときおり26歳の男の顔になるIZAM未遂
あきらめ未遂
人生相談未遂
殺虫剤販売促進のための蝿、蚊、ゴキブリの人工繁殖未遂
ダイエット未遂
努力未遂
リバーシブル未遂
MISIAの後頭部未遂
コンピュータネットワークに関連づけることによって古臭い思想を新しく見せ掛ける
こと未遂と言うか失敗
滅亡未遂
擬音でいうなら「むまもらぞぐ」未遂
公園デビュー未遂
悟り未遂
老人未遂
残尿感未遂
妊娠未遂
未遂供養
億万長者未遂
ホームレス未遂(ホームレスよりも惨め)
営業未遂
高野豆腐しか入っていない闇鍋未遂
座布団コレクター未遂
ストラップが本体で携帯電話がアクセサリー未遂
うなじ未遂
説教未遂
謹厳実直未遂
良妻賢母未遂
亭主関白未遂
猫舌未遂
専売未遂
積極的未遂
なんの因果かマッポの手先未遂
正夢未遂
バスガイドの厚化粧破壊未遂
人生未遂
孤独未遂
風呂桶でプリン未遂
超能力未遂
奥歯を前歯の位置に移植未遂
大学病院の教授会で突然「脳死者の脳を他の人の身体に移植すれば脳死体が大量に生産でき移植臓器も不足しないぞ」と思いつき「わしゃ天才じゃ、ぎゃはははははははははははははははははははははははは」と笑い出すこと未遂(それにしても、あのマスコミのはしゃぎぶりはなんだ)

●不定形俳句・猫舌●

猫舌探知機
猫舌小説
形而上学的猫舌
大気中を漂う猫舌因子
猫舌横丁
超高層猫舌
猫舌を満載したワゴン車
猫舌番長

●新作ホラー●

「リンク」貞子はスケートが好きだった。
「らてん」貞子はサルサが好きだった。
「ルーフ」貞子は屋根が好きだった。
「リンク最終章」貞子はネットサーフィンが好きだった。

●不定形俳句・即興●

インプロビゼイションフリー料理
インプロビゼイションフリー手術
インプロビゼイションフリー殺人
インプロビゼイションフリー生活
インプロビゼイションフリー宗教
インプロビゼイションフリー教育(教育はもともとセッションみたいなものか)
インプロビゼイションフリー言語(不定形俳句)
インプロビゼイションフリー講座(習ってどうする)
インプロビゼイションフリー写経
インプロビゼイションフリー史観
インプロビゼイションフリー批評
インプロビゼイションフリー道徳
インプロビゼイションフリー物理学
インプロビゼイションフリー合理主義

●ムツゴロウ王国の王位継承者は誰か●

チベット仏教のように生まれ変わりを捜してはどうか。
あるいは民主的に投票で選ぶ。ただし犬猫にも投票権がある。
あ、動物が王になるのはどう? セイウチかなんか。
実は先王のご落胤である、って言われるとけっこうみんな納得するのでは。
あの娘はセイウチの弟が出来たら喜びそうだよね。

●機内にて●

「お客様の中に、当機を操縦可能な方、いらっしゃいませんか!!」

●不定形俳句・連続事件●

連続エボラ出血熱魔
連続就職面接魔
連続刃物店で出刃包丁を購入して、銀行でお金を借りる魔
連続キャンペーンガールは天童よしみ魔
連続女性の上司が年下の男性の部下に僕ちゃんと呼ぶ魔
連続森田童子の懐かしく無気味な音楽魔
連続古きよき、そして新鮮な新宿の地下魔
連続日航スチュワーデス写真集魔
連続上がり直前にふりだしに戻るドラ魔
連続テレビでは絶対放映されない渋谷実の『気違い部落』魔
連続決して来なかった銀色の未来魔
連続鈴木その子魔
連続棺桶製造魔
連続ためしてガッテン魔
連続いまや誰もがどこでもない場所に立っており、情報の渦のなかで戸惑っている魔
連続チェックだけすませてそれで安心する魔
連続中央線は人身事故魔
連続癒し魔
連続会議プラン/よびかけ魔
連続意味のうすい台詞魔
連続あぶなっかしくて不細工な構造の建物魔
連続独居老人宅の昼間の縁側魔
連続変なテープを送ってくる魔
連続学園ハチャメチャ☆胸キュン♪ラブストーリー魔
連続フィルターに火を付ける魔
連続結婚さえすれば幸せになれるなんて、甘ったれたことを考えている魔

●美しい日本の言葉●

ってゆーかー、カレシがーバンドやっててー、ステージではちょーイケテルんだけどー、マジでちょー貧乏でー。あたしもー、カラオケではー、一応大宮のホイットニーって言われてるんだけどお。それでーぇ、カレシにーぃ、一緒にバンドやらないかって言われるんだけどー、あたしはー、貧乏いやだからーぁ、一応、資料請求とかしちゃって、就職活動気味って感じ。

●不定形俳句・ヒロスエ●

Majiでブラウンモーニングリポートする5秒前
majiで「この会議室内では自分が正しいと信じる事禁止!」5秒前
majiで国外退去5秒前
majiでドアノブ首吊り5秒前
majiでクーデター5秒前
majiで色使いだけゴッホに似てるねという誉め言葉5秒前
majiでふりだしにもどる5秒前
majiで幼稚な理屈と的外れな非難5秒前
majiで闘牛解禁5秒前
majiで退院10秒前だけど、歴史に残る大地震5秒前
majiで賞味期限5秒前
majiで個性尊重教育をしてもいじめはなくならないと判明する5秒前
majiでこの前会ったのは2年と5秒前

●今町屍民謡●

越後今町 男の盛り
跳ねっ返りは
ロボトミー ロボトミー

越後今町 男の盛り
オーケストラは
皆指揮者 皆指揮者

越後今町 男の盛り
ひそひそ話は
デマばかり デマばかり

越後今町 男の盛り
誹謗中傷
花盛り 花盛り

越後今町 男の盛り
正論ばかりで
鼻につく 鼻につく

越後今町 男の盛り
迎え撃つのは
八路軍 八路軍

越後今町 男の盛り
今日も朝から
チャネリング チャネリング

越後今町 男の盛り
同情するなら
金をくれ 金をくれ

越後今町 男の盛り
寝ている間に
進化する 進化する

越後今町 男の盛り
新人類と
フリークス フリークス

越後今町 男の盛り
家の女房が
猫産んだ 猫産んだ

越後今町 男の盛り
町じゃあらかた
鼻がない 鼻がない

越後今町 男の盛り
あとは死ぬのを
待つばかり 待つばかり

●不定形俳句・新理論●

超髪結いの亭主理論(超ひも理論に対抗する新理論)
超精力的試食理論
超ラーメン田辺エージェンシー所属理論
超ジャッキー・チェン、トゥインクルコーポレーション所属理論
超砂丘掃除理論
超高級娼婦引き継ぎ理論
超それはそうと理論
超諸先輩方のおかげで人類滅亡理論
超東京ラスベガス化理論
超ディズニーアニメナサケない理論
超わさわさパン屋理論
超だらだらとどうでもええこと理論
超パチモンイベント理論
超渡辺さん山下さん理論
超いきなり来週で終わり理論
超発積極的展的解消理論
超きりとりせんワンランクアップ理論
超一目惚れ万事解決理論
超世紀末道を踏み外した女理論
超気持ちだけってことで理論
超いつでも世の中、悩みや疑問は尽きません。私の悩みも尽きません。子供の頃、「大人はいっぱい働いて大変だけど大人の人は悩みが少なそうだなあ」となんとなく思っていました。大間違いでしたね。年取っても悩みって減らないんですよ。知ってましたかみなさん。驚いちゃいますね理論

●レストランにて●

割と有名な小噺です。
「レストランで頼んだビールにゴキブリが入ってた。さてどうする」
イギリス人:「珍しいカクテルをありがとう」と皮肉を言う
アメリカ人:顧問弁護士と賠償金の相談をする
オランダ人:飲んだあとで問題にしてただにさせる
ドイツ人:「アルコールで消毒してあるから大丈夫だ」と言う
フランス人:「フランス革命とハエの関係について」の話題になる
スペイン人:店と決闘する
日本人:手をつけず金だけ払う
中国人:ビールを捨ててゴキブリをおいしそうに食べる
アイルランド人:ゴキブリを取り出して絞る。
 こういう国民性嘲笑ネタは大好きなので、皆さんの知っているものを教えてください。
 こういうのもあります。
この世の天国とは、ドイツ人によって社会が運営され、
料理を作るのはイタリア人で、警察官は親切なイギリス人。
この世の地獄とは、イタリア人が社会を運営して、
警察官は冷酷なドイツ人で、料理を作るのはイギリス人。
あるいは、
客船が難破して無人島に漂着した。船客達はそれぞれに生き残るすべを工夫するが、日本人ビジネスマンは、本社の指示を仰ぐため公衆電話を探した。
 欧米のミステリーの不文律に「探偵役が犯人であってはいけない」といったものがありますが、その中に「中国人を登場させてはいけない」というのがあって爆笑したこともあります。行動が予測不可能ということでしょうか。

●不定形俳句・余生●

不定形俳句製造器として余生を送る
レオナルド・ダ・ビンチの伝記として余生を送る(皆さん、私がレオナルド・ダ・ビンチの伝記です)
寺田寅彦の湯呑みとして余生を送る(皆さん、私が寺田寅彦の湯呑みです)
三枝成彰の指揮棒として余生を送る(俺が演奏したいのはこんな曲じゃない)
日野日出志のペン先として余生を送る(怖いよー)
根性という言葉とは無縁に生きてきた、これからも根性という言葉とは無縁な者として余生を送る
病弱な看護婦として余生を送る
ファミリーストーカーの一員として余生を送る
買ったばかりなのに履くと物凄く足が臭くなり、靴自体も異臭を放ち、車の中に置いておこもうものなら車中に異臭が漂うという呪いの黒い靴として余生を送る
ロシアのお土産マトリョーシカ人形として余生を送る
余生は送らない者として余生を送る
バナナはおやつに入らないものとして余生を送る
この実験ではレールとボールの間に摩擦はないものとして余生を送る
興味を持って貰えずに迷惑そうに見られるばかりの布教活動家として余生を送る
死者なのですでに余生は使い果たしているのだが、何とかやりくりをして余生を送る
ソプラノ定食として余生を送る
いちぢく嫁として余生を送る
バナナはおやつに入らないものとして余生を送る(ご好評につき再放送)
忙しいとやりたいことが沢山ある気がするけれど、暇になるとなにもできないでおわ
るとして余生を送ると言うか、いま現在そういう状況だ
ダメニンゲンとゴミニンゲンのハーフとして余生を送る
矢ガモとして余生を送る
ここは一部の常連達が結託して私を排除している閉鎖的なbbsであるという妄想に取り付かれた者として余生を送るが、たまに妄想ではない時がある
スペースシャトルの搭乗員となるが、身体は地球に帰ってきても、心はそのまま何処か遠くに行ったままになった人として余生を送る
クシャおじさんとして余生を送る
なんちゃっておじさんとして余生を送る
電子回路でできた何か案内をするために生まれたような植物として余生を送る
しゃれこうべの額にあいたのぞき穴として余生を送る
パイロットは生まれて二週間目の性別は女で体重は4200グラムとして余生を送る
女の爪先として余生を送る
デロリアンから出てきた老人に「お前の未来が大変なんじゃ」と言われ、その後その老人に拉致され、波乱万丈驚天動地疾風怒涛の余生を送る
マグロ漁船として余生を送る
ハウスマヌカンとして余生を送る
「超指向性スピーカーの仕組みは、空気の非線形性によって超音波の可聴音成分が聞こえるということ」というような話を聞いた事があります。でも今一わかったようでわからないのは、この「非線形性」というのは何と何の関係が非線形なのかという所です。私の疑問は可聴周波数で振幅変調された超音波から人間の耳が可聴成分を聞き取れるかということです。普通に考えれば検波(整流)を入れないと可聴成分は取り出せないはず。とか書いているうちに考えればわかるような気がしてきたので一旦失礼いたします、として余生を送る

●山口洋子の言葉●

「女に取られた男は自分の元に帰ってくることもあるが、男に取られた男は絶対に帰ってこない」

●ミイラ取り(がミイラになる)唄●

何の因果でミイラ取りなろた
カワイヤノーカワイヤノー
いろは黒なる身は痩せる

●不定形俳句・分類●

世の中の物はすべてバナナの河で溺死するものとバナナの河で溺れて藁をつかむものに分類できる。
世の中の物はすべてキャッチフレーズが付けられるものと付けられないものに分類できる。
世の中の物はすべて日本野鳥の会が数えるものと数えないものに分類できる。
世の中の物はすべて正露丸的なものと羅針盤的なものに分類できる。
世の中の物はすべてリボンが似合うものとまわしが似合うものに分類できる。
世の中の物はすべて現実を元にしたフィクションと単なるフィクションに分類できる。
世の中の物はすべてそぼ降るものとうそ寒いものに分類できる。
世の中の物はすべて役に立たないものと邪魔なものに分類できる。
世の中の物はすべて絶望しているものと狂っているものに分類できる。
世の中の物はすべて癌のようなものとエイズのようなものに分類できる。
世の中の物はすべて退廃的なものと破壊的なものに分類できる。
世の中の物はすべて俺の産んだものと神の産んだものに分類できる。
世の中の物はすべて一見必然性があるように見えるものと全く偶然のものに分類できる。
世の中の物はすべて猥褻なものとグロテスクなものに分類できる。
世の中の物はすべて食欲をそそるものと性欲をそそるものに分類できる。
世の中の物はすべてやがて死ぬものと既に死んでいるものに分類できる。
世の中の物はすべて分類できるものと分類できないものに分類できる。
世の中の物はすべて圏外と圏内に分類できる。
世の中の物はすべてぬるぬるなものとねばねばなものに分類できる。
世の中の物はすべて亀の背に乗るものと像の背に乗るものに分類できる。
世の中の物はすべて例外のあることと全く法則に従わないことに分類できる。
世の中の物はすべて覚えられないことと忘れてしまいたいことに分類できる。
世の中の物はすべて私を口汚なく罵るものと私に遠回しな嫌味をいうものに分類できる。
世の中の物はすべて私を憂鬱にさせるものと私を恐怖に陥れるものに分類できる。
世の中の物はすべて私に悪意を持っているものと私を認識しないものに分類できる。
世の中の物はすべて必要ないものと諦めた方が良いものに分類できる。
世の中の物はすべて思いどおりにならないことと悪い予感が当たることに分類できる。
世の中の物はすべてよく分からないものと全く分からないものに分類できる。
世の中に分類できるものは何もない。

●秘密集会●

作文ゲーム…文章の語句を置換してナンセンスな文章を作る遊び。『方法的怠惰』に作品が多数収録されている。

 久しぶりに作文ゲームやってるんだけど、なんか面白いのができぬ。以前は何であんなに面白かったんだろう。
「単純に飽きちゃったんじゃないですか?」
 いや、でも昔作ったやつを今読んでもそこそこ面白いんだよ。たしかに、タモリのハナモゲラなんか今聞くと流行っていた当時ほどは面白くないけど。
「少し考えてみましょうか。『カブレ者』に収録された作文ゲーム作品は、何かを紹介する文章が多いですよね。映画とか」
 レストランとか。コラムや社説でもやってみたことがあるんだけど、こういう『意見を言う文章』はあんまり面白くならないんだよね。論文もやってみたけど、うまくいかないなあ。辞典とか、何かを紹介したり解説したりする様な文章がいいみたい。
「作文ゲームを進めていくと、そこに何かおかしなものが現れるわけですね」
 おかしな意見だってギャグになるはずだけどなあ。
「たぶん、評論や社説だと批評する対象があって、それに対する意見がある。対象と意見と両方ナンセンスだと駄目なんじゃないでしょうか」
 あ、そうか。どっちか『固定』してやると面白いかも知れないな。作文ゲームという方法ではむずかしいかも知れないが。
「講座とか入門みたいなやつも面白いですよね」
 受験上の注意とかQ&Aとかね。
「カステラさん、関係ない文章を混ぜたりするでしょ」
 ああ、映画紹介の途中で急に『次のニュースです』とかね。よくやる。
「あれ、効果ある時とない時がありますよね」
 うん、どこが違うんだろうなあ。山形県が芸術家を志して渡米したりするのは面白かったな。まったく無関係じゃなくて、何か前後の文章をブリッジするものがあるといいのかも知れん。
 作文ゲームの場合さ、何か偶発的に面白いものが出来ちゃうことも期待しているんだよね。置換という行為によって、予期しなかったものが作られることがあるわけでしょ。
「でも、まったく意図的なものを排除して乱数パターンでやるなら、プログラムにやらせればいいわけですよね」
 実際にやらせてみたりもしたけど、あんまり面白くなかった。
「面白いものもありましたよ」
 あれ、スクリプト作るのにどえらい時間がかかるのよ。選択肢を多くしようとすればするほど。一度データを作ってしまえば、百でも二百でもたちまちできるけどね。二十も作れば飽きちゃうんだな。
「なるほど、時間かけたほどの効果はないということですか」
 あと、結果が予想できる。手作業で置換していると、その場の思いつきでいろいろな掟破りができるけど、プログラムは手順通りのことしかやらないから。不定形俳句も詠ませてみたんだけど、なんかもう一つだったな。
 えーっと、そうするとここまでで判ったことは、
(1) 元になる文章は意見を述べるものではなく、事実を述べたり解説したりするものがよい。例としては、辞典、紹介文、講座など。人物のプロフィールなんか面白そうだな。
「狂乱の伝記」
(2) 関係ない文章をはさむ時には、前後の文章につながりがあるように見える仕掛けをする。
「具体的には何か同じ単語が出てくるようにすればいいでしょうね」
(3) プログラムにやらせても、労多くして得るものが少ない。
「逆にプログラムだから面白いってことはできませんかね。それは作文ゲームの面白さとは違うかもしれませんけど」
 今やってみようと思っているのは『(名詞1)を(名詞2)にする(名詞3)』という文章で名詞1、2、3をランダムに選択するやつ。あと『(名詞1)に非常によく似た(名詞2)に見えるが、実は(名詞3)』とか。長い文章じゃなくてシンプルなやつ。
「もっと単純に『(名詞1)的(名詞2)』みたいなものは?」
 それは、以前やってみたことがあるんだけど、打率が低い。面白いのは百に一つくらいだった。フリー面雀でやればもっと打率高いから。逆に長い文章だと、さっき言ったみたいに、融通きかないからすぐ飽きちゃうし。名詞三つくらいの組み合わせだと、一番面白いんじゃなかろうか、と思ってるんだけど。
「まだ考えてないのは言葉の選び方の問題ですね」
 女子高生にコギャル言葉で哲学語らせたりすると面白いかもね。
「数式で文学を語る。これはほんとにやってる人がいそうな気もしますけど」
 言葉はねえ、たとえば物理学の用語なら物理学の用語ばかりを使った方が面白いのか、もっといろんなものを混ぜて使った方が面白いのか、判断に迷うんだよね。この辺は試行錯誤してみるしかないんだろうけど。

『プリンプリン物語大辞典』

もやしっこ【燃やしっ子】
放火癖のある子供。
はんどめいど【ハンドメイド】
手の女中。
めいどいんじゃぱん【メイドインジャパン】
日本の女中。
うえるめいど【飢えるメイド】
食事くらいさせなさい。感連語:ウエルメイドプレイ
おーだーめいど【オーダーメイド】
女中を注文すること。
はいきんぐ【ハイキング】
俳句を詠むこと。また、句会を開くこと。倍の数俳句を詠むことをバイキングという。
ひっちはいく【ヒッチ俳句】
映画監督アルフレッド・ヒッチコックの詠んだ俳句。現在三四句が発見されている。
ひっとえんどらん【ヒットエンドラン】
一発屋。
れあすてーき【レアステーキ】
なかなか手に入らない、非常に希少なステーキ。
れあちーずけーき【レアチーズケーキ】
なかなか手に入らない、非常に希少なチーズケーキ。
れありずむ【レアリズム】
なかなか聴くことが出来ない、非常に希少なリズム。
べりーだんす【ベリーダンス】
とてもダンスであること。
ぶるーべりーじゃむ【ブルーベリージャム】
青くて、とてもジャムであること。
べびーしったー【ベビーシッター】
赤ん坊に嫉妬する人。
べびーぱうだー【ベビーパウダー】
赤ん坊の粉。類語:ベビーオイル。
べびーかー【ベビーカー】
非常に小型の自動車。
べびーぶーむ【ベビーブーム】
非常に小さな流行。
けんびきょう【顕美鏡】
美しさが顕になる鏡。たいていの人は何も映らない。
ぽすとまん【ポストマン】
男以後。
ぽすとかーど【ポストカード】
カード以後。
ぽすとぺっと【ポストペット】
ペット以後。
めいくどらま【メイクドラマ】
劇的な化粧。→鈴木その子
めいくみらくる【メイクミラクル】
奇跡的な化粧。→鈴木その子
のうめいく【能メイク】
能面のような化粧。→鈴木その子
りめいく【リメイク】
化粧をやり直すこと。→黒柳徹子
まいける・じゃくそん【マイケル・ジャクソン】
黒人界の鈴木その子。
どなーかーど【ドナーカード】
市場へ売られて行くかわいそうな子牛につける鑑札。
ちぇあまん【チェアマン】
人間椅子。
しょうぼうし【消防士】
防御を消す人。災害を拡大させる。
はすにかまえる【蓮に構える】
レンコンに備えること。転じてレンコンが攻めてくるという妄想に取り付かれた人。

『奇妙倶楽部』

●都市伝説・風のバザール●

 年に数回、東京都心部にアラブ風の衣装を着て、荷を積んだラクダを牽いた数百人規模の商隊が忽然と現れる。彼らの顔立ちも明らかにアラブ系だ。現れる場所はその度にさまざまで、公園であったり、河川敷であったり、地上げによって生じた空き地であったり、臨海副都心の空き地であったりした。彼らはそこで、市場を開く。次にいつ開かれるか、どこで開かれるかは一般のメディアには一切公表されないが、どのような情報網によるものか、この市場には必ず大勢のアジア系在日外国人が集まって来る。そして、不思議なことに多くの日本人の老人も集まって来る。しかし、ほとんどの日本人は東京でこのような市場が開かれることがある、ということすら知らない。
 扱われている商品はさまざまだ。果物、野菜、魚介類などの生鮮食料品もある。日本では見かけない、めずらしい外国の食材が多い。どのような輸送方法によるものか、いずれも獲れたてのように鮮度が高い。絨毯、カーテン、スカーフ、衣類などの繊維製品もある。これもどこの国のものともわからないエキゾチックな模様やデザインである。そして、やはり異国風の、食器などの日用品やアクセサリー。
 商人や客のためのエスニック料理の屋台も出る。そのため、市場全体に刺激的なスパイスの香りが流れる。
 彼らはその場所で一日商売をすると、現れた時と同様に忽然と消えうせる。
 たまたまこの商隊の存在を知ったあるジャーナリストは、彼らがどこへ行くのかを追跡してみた。いつどこで市場が開かれるか予想できないため、市場の開かれている場所に居合わせること自体が困難であったが、とうとう機会を得た彼は市場をたたみ帰路につく商隊の追跡を開始した。荷を積んだラクダの群れを率いた商隊は、別れ道ごとに幾つかのグループに分かれてていき、ジャーナリストはそのたびに一番大きなグループを選んで追跡を続けたが、深夜になって、とうとう彼が追跡するのは一頭のラクダを牽いた、たった一人の商人になってしまった。商人はそのまま朝まで歩き続け、港に出ると、ラクダと共に貨物船に乗って去ってしまった。ジャーナリストが調べたところ、正式な渡航手続きをとっており、ラクダの検疫もすませていた。他の数百人の商人と数百頭のラクダがどこへ行ったのかはついに分からなかった。
 ある時、たまたま市場に通りかかった日本人が、商人の一人に「なぜここで市場を開くのか」と質問した。その商人はは流暢な日本語でこう答えたという。
「この国がシルクロードの終点だからさ」

●都市伝説・子宝の話●

 一九六〇年代前半の話である。埼玉県の草加市にある夫婦がすんでいた。夫は腕のいい大工であった。この頃草加市はまだ郊外とも言えない農村地帯であったが、高度経済成長期で景気は良かった。この夫婦の悩みはただひとつ、結婚七年目にもなるのに子供ができないことだけであった。医者にも相談してみたし、田舎の御婆がすすめる民間療法も試してみたが、いっこうに子宝に恵まれなかった。この時代のこととて体外受精などという技術は普及していなかった。
 ある時から二人は何を祭ってあるのかも分からない近くの小さな社に毎日御参りするようになった。それから数ヶ月後、その甲斐あってかついに妻が妊娠した。何の問題もなく順調に月日を重ねたが、一年をすぎても出産の気配がない。母子ともに健康であったが、夫婦も産科医もさすがに不安になり、帝王切開で取り上げることにした。
 生まれた子供は泣き声を上げず、生まれるとすぐにすっくと立ち上がり、赤ん坊とは思えないはっきりした発音の大きな声で、「テッペンカケタカー!」と叫ぶと、呆然とする医師と親たちを残して、いずこへともなく走り去ってしまった。赤ん坊の行方は杳として分からないそうである。

●都市伝説・中国の産院●

 昔、中国の産院では、赤ん坊の目が見えるようになるとすぐに目の前で「毛沢東語録」を動かしてみせた。そうすると、それが赤ん坊に刷り込まれ、一生親だと思ってついてまわるのである。

●一行都市伝説・犬●

 犬を喰うと、体臭でわかるのか犬が寄りつかなくなるという。

●都市伝説・鞠つき少女●

 聞いた話である。大阪北部の能瀬にある野間峠には、トンネルを抜けると急なカーブがあり事故も多い。このトンネルには、「鞠つき少女」が出るという噂がある。深夜このトンネルに差し掛かると、鞠をついた少女が絶妙のドリブルでバイクや車を追い越していくのだそうだ。

●都市伝説・文字化け●

 文字化けは文字の妖怪である。再読した本の内容が記憶と違っていたら、それはあなたの記憶違いではなく、文字化けの仕業かもしれない。

●都市伝説というかなんというか●

 昔、浅草駅に、「駅の中での、飲酒・ねそべり・すわり・しゃがみ・立ち止まりお断り」って看板があったらしい。

●一行都市伝説・フェラーリ●

 フェラーリの霊柩車。

●都市伝説・天の話●

 惑星探査やスペースシャトルなど、宇宙の話題はつきないが、実際に宇宙へ行ってきたという人は少ないはずである。ほとんどの人はテレビなどのメディアを通じてしか宇宙を見ていない。実は宇宙というものは存在しない。空の果て、すなわち天は以外と近いところにある。そこから先に進むことはできず、天に触れるとコツンと固い感触がある。嘘ではない。高い山に登ってみれば良い、天がずっと近くなるから。
 世界は学校で教えられているよりもずっと狭いのである。人間はそのような閉塞感に堪えられない。そこで各国の政府はせっせと宇宙のフィクションを作り続けるのである。天文学や宇宙開発の仕事につくと、まず最初にこの事実を教えられる。そして秘密を守ることを誓う非常に奇妙な儀式が行われるのである。
 実は天は少しずつ低くなっている。墜落する航空機のいくつかは、天をこすって落ちているのである。

●一行都市伝説・戦車●

 戦車の霊柩車。

●都市伝説・生まれた時の記憶●

 人から聞いた、出所のはっきりしない話なので、それこそ都市伝説かもしれない。
 大人になって人間関係がうまく作れない、さまざまな性格の原因は本人の誕生時の恐怖体験が原因である、という理論に基づいた、もう一度、催眠術などで誕生体験をやりなおす心理療法がアメリカにあるという。
 これを受けると再体験により、誕生時の「気持ち」を思い出すそうである。暖かい羊水に守られた子宮からいきなりすごい力で狭い産道を押し出されるときなど大変な恐怖を感じるらしい。
 再誕生の瞬間…急に息が楽になって、思わず「おぎゃあ」という声が喉から出た、という人もいるというのだが…、どこまで本当なのであろうか。
 誕生というのはそんなに恐ろしいものなのであろうか。その恐怖を克服できる人とできない人がいるのはどのような違いによるのであろうか。また、恐怖をもう一度体験することが治療になるのであろうか。
 奇妙な話である。
 三島由紀夫は産湯をつかった時のたらいの縁を見た記憶があったそうだが。

『インモラル物語』

●白い壁●

白い石畳の道の両脇を、見上げるほどに高い白壁。
壁には扉も窓もなく、上部がどうなっているかわからないので、
その壁が塀なのか、屋根がついているのかもわからない。
どこまで行ってもただそれだけの街。
人影は見当たらない。

●創作日記●

 以前、滑稽堂の面雀で「簡易密室」という回答が出た事があったが、フィリッパ・ピアスという作家の怪奇児童文学作品に、ジャングルジムの影でできた檻に閉じ込められる少年の話がある。私もゲームコーナーで「杏子ちゃん」というのを書いたが、こういう本来なら閉じ込められるはずのないものに閉じ込められる恐怖、というのを「八十日間町内一周」で書けば面白いかもしれない。

●創作日記●

 インターネットのある掲示板で「ダンスについてのダンス」という言葉を発見する。メタフィクションが「小説についての小説」であるのに対して、メタダンス、ダンスのことを表現する(語る)ダンス、という意味らしい。どのようなものかまったく想像がつかないが、大変に興味をそそられる。さっそくフリー面雀を試みる。

音楽についての音楽
絵画についての絵画
詩についての詩
死についての死(誤変換だがちょっと面白い)
文化についての文化
病気についての病気(あ、これはエイズのことだ)
言葉についての言葉
表現についての表現

 要するに自己言及のことか。自己言及の特徴は外部がないということだ。これはどういうことかというと、そのことで頭がいっぱいということではないか。小説のことにしか興味のない人は、小説によって小説を語ろうとし、ダンスが人生の最大関心事である人は、ダンスによってダンスを表現しようとする。
 語られているのは形式である。形式だけがあって、内容、対象がない。目的化した形式。「何かを語る」とき重要なのが「何か」ではなくて、「語ること」になってしまっている。別に悪いことではないだろう。そもそも、表現に「正しい」とか「間違っている」とかいうことはない。あるのは「面白い」か「面白くない」かだけだ。しかし、このような自己言及には閉塞感がある。繰り返しになるが、外部がないからだ。 これは、その形式を指向する自分、に注目することで突破されるのではないか。身体性といってもよい。そこから、そのような自分を形作った外部への道が開ける。外部としての自己。

●創作日記●

 中国の民謡に「草原情歌」という美しい曲がある。その歌詞は「山の向こうはるかかなたの空の下、誰にも好かれる美しい娘がいる」というようなものだが、この自分の手の決してとどかない所に、理想的なことがあるというイメージに対して、さみしさや切なさと同時に、何か「救い」の様なものを感じてしまうのは一体どうしたわけか。
 本当に美しいものには常に幾ばくかの物悲しさが含まれているように思うのは、私が判官びいきの日本人であるためだろうか。
 これを確かめるためには「芯から陽気なものを美と考える文化」を探してきて、比較すればよいわけだが、絵画や音楽では判断するのはなかなかむずかしい。抽象的すぎて「悲しさ」が含まれているかどうか明示できない。映画や文学なら、ある程度可能かもしれぬ。「美」という言葉の使い方が、日本の文化と同じかどうかという問題もある。
 たいていの文化では、悲劇や感傷が文学や芸術の主要な主題の一つとなっているから、「悲しいものに芸術的価値を感じる」ことには、ある程度の普遍性はあるだろう。しかし、それを「美」という言葉と結び付けるかどうか。例えば「笑い」は間違いなく重要な表現主題の一つだが、日本ではこれを「美」と呼ばない。美は面白さの一つではあるが、面白さの全てではない。
 いずれにしても、日本人には「敗者、滅びゆくもの、はかないもの」を好み、そこに美を見い出す傾向が強いように思うが、これも、もっと他の文化との比較考察をしなければ明言は出来ない。
 ホラー映画の傾向などを見ていると、怪談にエロティックなものを感じるのも、日本人独特の感覚かもしれない。これは泉鏡花以後か?
 以下は知人の浬氏の意見。
美というのは、ある特殊なバランスなのではないか。そのバランスがどっちかに少しでも崩れた場合に、たちまち見失われてしまうといった類の、非常に刹那的な現象なのではないかと思う。
 う〜ん。俺が美の向こうに見る物悲しさはもっと、静謐でりんとしたものだ。むしろ、それによってこちらの儚さや不完全さをあぶり出されてしまうようなもの。美は悲哀を超越しており、それによって照らし出されるのは人間存在の悲哀ではないだろうか。よくわからないが、美というのはこちらが悲しんでやらねばならぬようなやわなものではなく、悲しいのは常に人間であるような気がする。
 なんと言うか「美」という抽象的なものの圧倒的な存在感によって、人間を含めた物質的なものの儚さが顕になってしまう、そこに物悲しさがあるのかもしれない。
 人間が不在でも美が存在するような書き方になってしまったが、もちろん人間がいなければ美は存在しない。価値は常に受け手の側にある。対象は観察者が美しいと思おうと思うまいと、あるがままにある。だからこそ、こちらとしては「圧倒的な存在感」を感じる。誰も見ていなくても花は美しく咲き、誰にも見られぬままでも散ってゆく。その潔さに対して「意味」もしくは「価値」を求める人間の何とナイーヴ(←否定的な意味で使ってます)な事か。「世界」には意味も価値もない。それは常に人間の側にある。美も悲哀もこちらにあるのである。
「人間の側」とか「対象」とかいう言い方も、不正確というか説明不足なんだけど、この問題は、自己とか自我とか世界とか観測とか内部観測とか、喋り出せばきりがないので、これで打ち切り。
 再び浬氏。
ある意味で美は確かに人間存在を超越しているかもしれませんが、また別の意味では美は決して人間の想像力の限界を超えられないと思います。
 俺は「存在」は、常にこちらの予想をはずして(あるいは超えて)来ると思う。予測できない美に出会ったとき、私の美の概念は、何というか「改変」され、新たな相(構造ともちょっと違うんだけど…、世界観あるいは価値の体系、とでも申しましょうか)を獲得すると考える。そして、そのような相を獲得する過程にこそ、真の「美」のダイナミズムがあるような気もするのだ。
 人間の想像力に限界がないというのではない。たとえば、人口は「有限」あるが社会は無限である。どんなにたくさんの人を個人的に知っていても、いつも知らない人がいて新しく知り合いになる(いつも一歩先がある)ということが起こる、というような意味で、常に「外部」はあると思うのである。
 何かが獲得される、しかしそれは以前の私が失われる過程でもある。そこに「物悲しさ」があるのかのも知れない。
 美が感情であるとすれば、それは止まったものではなく「動き」である。激しい感情は常に、心的な何かが動く(変化する)過程である、という意見に反対する人は少ないと思う。何かが動いているとすれば、相対的に何かが止まっているのではないだろうか。そこに私達は「圧倒的な存在感」を感じてしまうのではないだろうか。
 中上健次の文章に次のようなものがある。
「秘すれば花」とはこの日本的自然の中心をうがつ美意識であり、美の方法論であるが、花に幽玄があるのではない、と、山谷君の歌をききながら思った。秘する、それに不思議はこもる。
(「中上健次選集(3) 紀州 木の国・根の国物語」中上健次著 小学館文庫 (p.118))
 確かに、不思議なもの、なぞめいたもの、神秘性を感じさせるものにも美に似た吸引力を感じる。「美―悲―秘」という語呂合せか。

●創作日記●

 最近のコンピュータゲームの中途半端にリアルなCGや、なぜか深夜に放映しているちゃかちゃかと騒がしいだけのアニメーションを目にすると、チェコの人形アニメーション作家トルンカの言葉を思い出す。以下はすべて「夜想34 パペットアニメーション」(ペヨトル工房)からの引用。
「人形はもともと神秘的な存在だ」(p.52)
「だから、人間の日常的な動作をまねて、やたらに動き回ってもよい効果は得られない。しかし、じっと動かないでいる時、人形は人間の演技の遠く及ばぬものを力強く現わしてみせるのだ」(p.52)
「人形は動画では表現できない『詩』を表現できる」(p.59)
「映画は喋りすぎる」(p.61)
 また、同じ雑誌の中で、小野耕世は次のように言っている。
「『シンドバッド黄金の航海』(1975)のはじめのほうで、船のフィギュアヘッドである女性像が、むくりと動きだす場面がいちばん印象的だった。いかにも、生命のないものが、不意の生命を与えられて動きだす――というおそれの感覚がそこにはあった。(中略)フィギュアヘッドの動きは、無機物が不意に動きだしたと言う、一種のぎこちなさが、むしろぴりぴりと、動くことの妖しさを私に感じさせたのだった。」(p.163)
 年寄りのノスタルジィだと言われれば、その通りだが。

『かなり重症』

最近発見した家頁

ほぼ日刊イトイ新聞

深夜特急ヒンデンブルク号

CLUB BUILD-GAMO

ズキズキどんぶり

◆編集後記◆

 ここに掲載した文章は、パソコン通信ASAHIネットにおいて私が書き散らした文章、主に会議室「滑稽堂本舗」と「創作空間・天樹の森」の1999年1月〜3月までを編集したものです。私の脳味噌を刺激し続けてくれた「滑稽堂本舗」参加者の皆様に感謝いたします。
 また『彼が目覚める時』は、やはりASAHIネットの会議室「創作空間・天樹の森/フィクション連載」において連載中の作品です。法螺話ですが、笑いを目指したものではないので、笑いたい人は読まずに飛ばしてください。

◆次号予告◆

1999年7月上旬発行予定。
別に楽しみにせんでもよい。

別冊付録『彼が目覚める時』4
季刊カステラ・1999年冬の号
季刊カステラ・1999年夏の号
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