労働者派遣法の見直しをめぐって次のような記事を「全労連新聞第206号 1998年12月9日号」(第5面)に寄稿しました。


 
知っておきたい 派遣法の改悪は何をもたらす


 
労働組合の重大問題

 
官・民問わず 派遣切替えが一挙に


 労働者派遣の対象業務(現行二六)を原則自由化する派遣法見直し法案が国会に上程されています。原則自由化になれば、派遣労働者にできる対象が、全労働者の八分の一から三分の二へと一挙に五倍にも拡大することになります。
 労働者派遣とは、派遣会社(派遣元)との間に雇用関係がある派遣労働者が派遣先の指揮命令を受けて働く雇用形態で、一九八六年に施行され、すでに一二年を経過しています。

 労働行政の「規制緩和」

 使用者責任が派遣元と派遣先に分裂することから、労働者としての権利行使が難しく、雇用がきわめて不安定です。法の建前は、専門的業務に限定して一般の事務や単純労務には広げないというものでした。しかし、労働行政は法規制を徹底する姿勢をとらずに、製造業など対象業務外の違法派遣の広がりを黙認し、逆に「規制緩和」を進めてきました。
 ドイツやフランスは派遣を雇用の例外的な形態とするために、法律で、(1)臨時的業務への限定、(2)派遣期間を超えれば派遣先が直用、(3)派遣先従業員と同一労働同一待遇などの原則を明確に定めています。これらは派遣労働者の保護と並んで派遣を常用雇用の代替にしないという「歯止め」にもなっています。また、労働行政や労働組合が厳しく違法派遣を監視し、無権利な派遣労働の拡大を抑制してきたのです。とくにドイツでは弊害の多い登録型を禁止しています。
 ところが、日本の派遣法には対象業務を限定するだけで、派遣期間を超えても派遣先に直用することや、派遣先従業員との同等待遇など、EU諸国では当然の規定はありません。

 際立つ無権利実態

 昨年採択されたILO一八一号(民間職業紹介所)条約は、派遣労働者の団結権を重視し、個人情報保護、労働条件、社会保障などの権利保障を強く求めています。
 今回の法案では、新たに派遣対象になる業務では派遣期間を一年とし、それを超えたら派遣先は直用の「努力義務」を負うとしているだけです。派遣元と派遣先の共同責任など、法案には労働者保護の目立った措置は見られません。
 EU諸国の派遣労働者の多くは労働協約の適用を受けています。しかし、日本の派遣労働者は、労働組合加入がほとんどなく、協約の拡張適用も受けていません。無権利で差別的雇用ということでは、日本の派遣労働は世界のなかでも際立っています。
 「派遣に切り替えれば人件費が半分で済む」などという経営者の言い分は、派遣=無権利・差別的雇用を前提にするものでILO条約の趣旨に明らかに反しています。

 正社員を派遣に移籍

 最近の雇用情勢を考えると、原則自由化によって派遣が雇用調整の手段として利用され、常用雇用が劇的に破壊される可能性が心配されます。
 最近になって制定された、イタリアや韓国の派遣法では、近い過去に人員整理解雇があった事業所では、派遣導入が制限されています。今回の法案にはこのような規制は含まれていません。
 使用者(派遣先)はリストラを目的に、人件費が安くて何時でも雇用調整可能という派遣労働の拡大を強く望んでいます。
 今年一月、日興証券は正社員を子会社の派遣会社に移籍し、そこから派遣労働者として受入れる方針を示しました。ここ数年、民間企業では三年までの短期の契約職員や嘱託職員が増加しています。公務の職場でも定員削減が進められる一方で、期限付き雇用職員が導入されています。また派遣類似の「業務委託」や労働者派遣が公務職場にも広がっています。
 派遣対象業務が自由化されれば、まず、期限付き雇用がより雇用調整可能な派遣に切り替えられ、次には、常用雇用(正社員)が派遣に切り替えられる危険性が一挙に広がることになります。「行政改革」の対象となっている公務職場もその対象とされています。
 派遣法見直しは、多くの労働者の派遣化に道を開くもので、労働組合の存在にかかわるきわめて重大な問題と言えるのです。
(脇田 滋 龍谷大学教授)


1998年-1999年 労働者派遣法「改悪」をめぐる資料・リンク集〔作成中〕
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