序 章 丹後の伊根に行きたイネ

「伊根に行きたイネ〜」と思ったのはかなり前にさかのぼる。私が大学生の時だ。京都S大学の美大一年生の時に文学の授業を受けたのが伊根との出会いだったのだ。

その授業は日本のおとぎ話について、その時代や風土に関する検証が行われており、特に浦島太郎にスポットを当てて展開していたのである。その浦島伝説があったのが京都は丹後の伊根の近辺だった。テキストに舟屋の集落のモノクロ写真が載っていたのである。

その頃は何とも思っていなかったのだが、あるとき、偶然にも同じ丹後の松島というところへ大学のクラス全員でスケッチ旅行に出かけたときの事。なぜか、伊根の集落を見たくなったのであった。あまりにも丹後の海がきれいだったからである。こんなきれいな海に面した舟屋集落の景観は素晴しいのに違いない。そう勝手に思い込んだのである。しかし、時間的な関係で足を運ぶことができず、今日までそのままになっていたのである。
あの時の気持ちを再び呼び起こしたのが、あの有名な「ええにょぼ」。戸田菜穂主演のNHKドラマであった。オープニングの映像で海から望む舟屋集落、あのとき描いた通りの映像が展開されていたのだ。
それから一年後、今までくすぶり続けた思いが爆発し、撮影旅行を決行する決意をしたのであった。決行は5月1日から3日までの3日間。入会したてのNiftyの週間天気予報を調べ、「おはよう朝日です」の正木さんが予想する天気をたよりに割り出したのであった。

さて、本来ならバイクにテントを積んでの一人旅のはずだったのだが、ひょんなことから、一人道連れができてしまった。彼の名は、てらちゃん(本名は伏せておきます。本人は恥ずかしがり屋なので)。4月まで同じ職場でデザイナーをやっていた同期の元社員なのである。我々の会社はセールスプロモーション系の代理店。(詳しい話は長くなるのやめておきます。)彼が会社をやめた理由は複雑で長くなってしまうが、簡単に言えば、もっと創造性のある仕事がしたいということらしい。
彼がやめる2日前、とある屋台村で二人で飲んでいたときの事。何か創りたいと熱っぽく語る彼に今回の旅行の話をすると、
「ぜひ行きたイネ〜」
と言う。彼女の相手はしなくていいのかと彼に聞くと、彼女は家族と北海道旅行だという。かくいう私も、片思いの女の子にデートに誘ったのだが、断わられてしまったのでやけになっていた。男二人で旅をするのもたまにはいいかと思いなおし、決まってしまった。

変な二人が丹後の田舎へ何を思ったか、ヒューマニティーを求めての珍道中!このあとのハプニングがこわい!!!!!

つづく

注釈

【伊根の舟屋】
舟屋とは舟がそのまま家の中へ収納できる造りのことで、1階はその収納庫、2階が居室になっている。マイカーの如く、マイボートで近所へ用足しや漁へ出かけるのである。この地は地形的に海底が深く、潮の満ち引きが少ない良港であった。古くは6世紀の頃からこの集落はあるという。(昭和56年に中尾古墳が発見されたため)いまでも、
約250戸以上の舟屋がある。
(参考文献  吉田金彦著 「京都滋賀 古代地名を歩く(京都新聞社刊)」より。)


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