「100万ヒットホームページを作った人々」を補完する

 2000年1月に面白い本が刊行されました。タイトルは「100万ヒットホームページを作った人々」。アスキー出版局の出した本で、国際標準書誌番号はISBN4-7561-3310-X、B6サイズのピンク色した表紙の本です。価格は1200円で、買って損はありません。
 内容はタイトルの通り、(トップページへのアクセスが)100万ヒットを越えたWeb Masterにインタビューするというもの。インタビューの目的を、前書きから抜粋すると
を探るというものです。ところがこの本には致命的な問題がありました。続けて本書の前書きから抜粋すると、
とあります。即ち、本書の最大の目的は「なぜ出版社顔負けの読者数をつかむHPを作ることができたのか」を明確化することであったにもかかわらず、結局編集部ではそれを解明することができなかったので、「読者の皆さんで秘密を解き明かしてください」とお茶を濁しているわけです(んなアホな)。事実、本書の内容は作者の人生体験やHPを作る上での苦労話が書かれているに終始するだけで、人気の高いHPを作る方法についてはほとんど触れられていません。もっとも100万ヒットのHPを作った作者自身が、なぜこんなに人気が出たかその理由を把握していなければ触れることもできないですし、編集部の人がインタビューの中から最大の謎を解くポイントを見抜けなければ、それを文章にすることもできませんが・・・
 そこでお節介企画の登場。この本の内容を解説することによって、所期の目的である「なぜ出版社顔負けの読者数をつかむHPを作ることができたのか」を明らかにし、人気HPを作るにはどうすればよいかを検討していくことにしましょう。



100万ヒットホームページを作った作者の共通項
 本書には15人のWeb Masterのインタビューが掲載されています。そのインタビューの内容を分析していくとある程度の共通項が認められます。実はこの共通項こそ人気HPを作ることができた秘密なのです。その共通項とは・・・

共通項1・・・パソコン通信が彼らのバックボーン
共通項2・・・開設時期が早い
共通項3・・・膨大な情報量を持っている
共通項4・・・使命感

 ではそれぞれの共通項を切り口として、「なぜ出版社顔負けの読者数をつかむことができたのか」を探っていくことにしましょう。



共通項1・・・パソコン通信が彼らのバックボーン
 実はほとんど全ての人に共通するものがあります。それはインターネットを始める前にパソコン通信をやっていたということです。ちなみに私もその部類の一人です(100万ヒットまで達してませんが(爆)。
 解説を始める前に、パソコン通信について説明しておきましょう。パソコン通信は80年代後半から始まり、NiftyやBIGLOBE(当時はPC-VAN)が有名です。ユーザーは各パソコン通信会社のアクセスポイントに電話回線を通じて接続し、その中にある様々なジャンルに分かれているフォーラム(SIG)にジャンプして情報収集をするなり、情報を自分で発信するなりして楽しんでいました。インターネットと根本的に異なる点は、各フォーラムにアクセスするのは基本的に有料であること、NiftyのアクセスポイントにつなぐとNiftyだけしか接続できないことです(PC-VANに接続したければNiftyとの通信を終了し、PC-VANのアクセスポイントに電話をかけ直す必要があった)。
 こう見ると、パソコン通信と100万ヒットホームページには関係なさそうに見えます。しかし、大ありなのです。簡単に言うと、パソコン通信でのあらゆる経験が、自分のHPの作成や運営に役立っていると言うことです。
 例えば、各フォーラムにはシスオペと呼ばれる人がいました。彼らはHPで言うところのWeb Masterです。現在は誰でもHPを作ることができるようになっているため即Web Masterになることができますが、パソコン通信の時代では誰でもシスオペになることができたわけではありません。選挙があったり、パソコン通信会社に出向いてフォーラムをどのように運営していくかという基本的な計画を説明したり、面接されたりして決められていました。つまり、選ばれた人々だったわけです。現在、100万ヒットホームページを作った人々はシスオペだったわけではありません。単なるフォーラムの参加者でした。しかし、シスオペの優れた考え方や運営の仕方、そこで生じた失敗を学んだのです。意識して学ばなかったとしても経験として確実に生きています。フォーラムの構成の仕方や、フォーラム参加者のトラブルの解決・対処の方法等を学び、さらに自分のやりたいこと・主張したいことを付け加えて、自分のHPの運営に反映させたのです。このような実戦的経験をあらかじめ持った上でHPを作ったことが、100万ヒットホームページのキーとなったのです。



共通項2・・・開設時期が早い
 開設時期が早いほど(古いほど)期間が経っているわけですから、その分アクセス数が多いのは当然です。が、古いだけでは説明のつかない部分もあります。そのあたりを明らかにしていきましょう。
 開設時期が早いということは「先駆者であった」ということです。つまり他の人が同じようなHPを作ってない、全くのオリジナルなHPであったため独自色を出すことができたと言うことです。先駆者ゆえに、他のHPとの差別化等の面倒なことを考える必要がありませんでした。またこのような場合、通常は他に参考例がないということでいいものができないこともあるのですが、彼らにはパソコン通信のフォーラムという参考例がありました。そこでで学んだことをHPに反映させたのです。コンテンツのあり方、運営の仕方等々・・・ライバルがいない上に内容が優れている。もう鬼に金棒です。



共通項3・・・膨大な情報量を持っている
 このHPで主張しているとおり、HPの命は情報量にあります。100万ヒットホームページを作った人々は、彼らがあらかじめ持っていた膨大な量の情報をHPとして世に公開し、さらに情報をたくさん加えていっただけのことなのです(それはそれで苦労も多いのですが)。
 ではなぜ彼らはそこまでして情報を集めたのか? これは共通項4で説明しましょう。



共通項4・・・使命感
 膨大な情報を集めることのできた背景には、「それをしなければならないという使命感」があるためです。なぜそのような使命感を彼らが持ったのかは私には知る由がありません。が、本書から抜粋すると、P103に
とあります。これは「テレビドラマデータベース」というサイトの作者の話。膨大なデータベースを作った理由の書いてある部分ですが、これが「面白くないものの中にも面白いものがあるかも知れない。」という非常に漠然としたものになっています。徒労に終わる可能性があるにも関わらず延々と続けることができる理由は、他人には理解できない個人の使命感以外に説明がつかないでしょう。当然私にもHPを作る上での使命感は明確にあるのですが、それを説明したとしても「なんでそんなことにこだわるの?」と理解されないと思います。
 他には、「自分はこれを主張したい」という明確な思いがある場合もあります。主張したいからがんばる。主張したいからより多くの人に見てもらえるよう努力し、工夫を凝らす。そうすると人が集まる。これだけの人が見に来ている訳だから、いまさらやめるわけにはいかない。だからもっとがんばる・・・単にこれだけのことです。「単にこれだけのこと」と何事もないように書きましたが、もしあなたも「単にこれだけのこと」と言ってしまうことができるようになったら、使命感は十分に備わってきたと言っていいでしょう。


 まとめです。100万ヒットホームページを作った作者の共通項をまとめ、その成功の理由を探ると、
となります。さて、あなたのHPは以上の4点を満足しているでしょうか。多くの人を引きつけるようなHPにするためには、それなりの経験と努力が必要だったのです。





多くの人に見てもらえるHPを作ることは既に不可能なのか?
 先ほど述べた4つの成功の理由をみると、多くの人に見てもらえるHPを作ることは不可能のように思えてきます。例えば、最近インターネットを始めてHPを作ってみようかと思っている人に対して、「パソコン通信を通じて得られた経験を自分のHPの作成や運用に応用しなければHPを作ることができない」なんてことを言ったら、HPを作るなと言っているのと同じことになってしまいます。
 ではどうすればよいのか。その点を考えていきましょう。

1.「いきなりHPを作ったのではなく、パソコン通信を通じて得られた経験を自分のHPの作成や運用に応用したこと」について
 これは発想の視点を変えれば簡単です。パソコン通信を通じて得られた経験、といところを、インターネットを通じて得られた経験に置き換えれば済むことです。例えば他の人のHPや掲示板で経験したことを、自分のHPに生かせばよいわけです。どのような経験を生かせばよいかというと、コンテンツの作り方(これはここのHPを参考にしてもらってもOKです)、掲示板で発生したトラブルとその対処の仕方(これについては別の機会に述べましょう)があります。また他の人のHPの情報量拡充に協力するなどして、コンテンツ作りの基本と実践を学ぶのもいいでしょう。
 インターネット黎明期ならばともかく、現在では周りをよく研究した上で自分のHPを作るというやり方をしないとうまくいきません。



2.「他にないオリジナルのコンテンツであること」について
 これはHP作りにとってもはや必須となったといえるでしょう。もし自分の主張をより多くの人に見てもらいたいのならば、自分が改めてHPを作って主張するのではなく、アクセス数の多い既設のHPで主張した方がよほど効果的ですし、その方がHPも盛り上がり最終的には自分に利益が返ってきます。
 逆に既設のHPが無いのであれば、これはチャンスです。先ほど述べたインターネットを通じての経験を生かしながらHPをつくりましょう。「アクセス数が自然と増えるホームページ作り」のフローを参考にしてみてください。ただ、そうはいってもインターネットが一般に普及してからかなりの時間が経過しました。時間と共にHPの数は増すものの、コンテンツのジャンル(例えばスポーツ、車、コンピューター・・・といったような大枠でくくることのできるもの)には目新しいものが見られません。というか、既にパソコン通信の時代に出尽くした感があります。
 ではこのような状況の中で、オリジナルのコンテンツを作る方法はあるのでしょうか。私が考え得る限りでは1つあります。それは「今までに存在しなかったもの」をHPのコンテンツに取り上げることです。少し前の話になりますが「たまごっち」がいい例でしょう。今まで全く存在していなかったのですから、今までにないコンテンツのHPを作ることができます。ただし人気のあるHPにしていくためには単に目新しいだけではダメで、みんなが興味・関心を持っているもの(この場合はたまごっち)をコンテンツとして取り上げること、あなたが「たまごっち」に関する詳細かつ膨大な情報を持っていることが同時に必要とされます。



3.「膨大な情報がHPに蓄積されていること」、
4.「HPを作る使命感や自分の主張が明確であること」について

 これはこのHPでも述べている通り、「HP作りの資質」にも関わってくる問題です。詳細は既に何度も述べているので省略します。



最後に
 これを書いていて、「なぜ出版社顔負けの読者数をつかむことができたのか」という疑問に対して編集部の人が本書で答えを出さなかったのか、その理由がわかってきたような気がします。その理由とは「100万ヒットのアクセスのあるサイトを作った作者のやり方をまねすれば当然人気のあるHPを作ることができると考えたものの、その方法論はインターネット黎明期でのやり方であって、現在の状況を考えあわせるとエロサイトでもない限り人気のあるHPを作ることは困難である」という結論に編集部の人が達せざるを得なかったからではないかと思うためです。
 例えば現在では、各ジャンルには既に定番ページが出来上がってしまい、それ以外のHPはあまりアクセスされていない状況にあります。他にもYahoo!への掲載が「登録」から「推薦」にもなったこともあり、既に同じような内容のHPがあるのであれば掲載されにくくなってしまい、せっかく作ったHPが事実上日の目を見ないという状況になっています。このような状況下では、既に開設されているHPと同じコンテンツのHPを作っても人気のあるHPを作ることなど不可能であり、本書で書かれているインターネット黎明期のやり方をそのまま応用しても、とても人気のあるHPなど作ることはできません。それに気が付いたからこそ結論を書くことができず、「読者にゆだねる」という形にしたのではないかと思うのです。
 ただこれは、やり方をそっくりそのまま利用するとうまくいかないということであって、現在の状況を黎明期のやり方にアレンジしてやれば十分利用可能です。

PS
 59ページに、「個人ページでありながら30万ヒットを稼ぐページをなんと2つも作ってしまった男」という部分があります。この条件だったらクリアできているので、俺にも一言言わせてくれ! < アスキー