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小山の短い意見98.10.2


読者による、募集、意見公開コーナーでは、読者のみなさんから頂いた意見や情報を、掲載させていただいています。
そして、みなさんから頂くメールの中には、意見・情報ではなくて、質問という形で福祉についての小山の意見を求められるものもあります。顔を合わせないでのメール形式には限界があって、長い詳細なお返事はできていませんが、簡単な意見をメールさせていただいています。
「読者による意見」という主旨に当たるかどうかは別ですが、「小山のコメント」の方に焦点を当てて、このページでいくつかご紹介させていただきます。
従って、僕のコメントの方に力点を置きますので、就職Q&Aコーナー的な扱い(質問は匿名一般化、回答も個別の状況に触れた部分は一般化されたものに手直し)を原則とさせていただます。
また、僕のコメントに頂いた感想などもご紹介できたらなと思います。


社会福祉士と精神保健福祉士の問題について考える』98.7.21
社会福祉士と精神保健福祉士と医療福祉士(仮称)の資格問題についての意見を聞かせてほしい。という類の個人メールを頂くことが多くなっています。
僕のコメントをここに載せます。(このテーマについて考えようコーナーからもリンクしているのですが、ここでも紹介させてもらいます。)


>message= 前略、私は知的障害者の入所更生施設の職員をしております。今回の社会福祉基礎構造改革案についてみていくと、重度の知的障害者の施設においても将来、措置制度から契約・選択を取り入れた制度になり、施設においてもそのサービスの質や、内容が問われるようになるのではと、考えています。そのことに関しての先生のお考えと今後の展望についてご指導いただければ幸いです。

考えと展望をお伝えするほどのまとまったものをもっていないことをお許し下さい。特にメールでは難しいですので。
ただ、少なくとも言えることは、サービスの質や内容が問われるようになること自体はとても良いことだと思います。また、本人がサービスを自ら主体的に希望でき選択できるようになることも大切だと思います。

しかし、それらの大切な改革が確かに行われるためには、サービスが十分に供給(準備)されることが前提ですよね。選択肢が十分に準備されていない状態での「選択」「自己決定」という言葉は、詐欺ですよね。
一連の改革の基本は、競争の論理を福祉にも導入することで福祉サービスの質を確保しコストを下げる努力をサービス提供者に要求し、一方で消費者にも一定のコスト負担等の応分の責任を負わせ、「公」の責任を福祉分野において相対的に下げようとするのが目標だと思います。

しかし、「援助」分野に単純な資本の論理、自由競争の論理を導入することが正しいのかどうかは怪しいと思います。消費者によっていわゆる「自己決定」「選択」が自由に行われ、「競争」によって提供者側の質の悪いサービスは自然淘汰されるというのは、一般商品にとっては全面的に採用されますが、「医療」や「福祉」「教育」などと言った「援助」は単純な一般商品とは違う面があると思うからです。
つまり、援助サービスの受け手は、純粋に自己決定を個人で行使する「コンシューマ(消費者)」としての側面とは別な、自己決定を行使するだけの知識や情報、また時間的経済的余裕がないため、専門家に相談しながら判断する「クライエント(顧客)」としての側面ももつと思うのです。
商品の質が悪く値段の高いスーパーは一度利用しても、消費者は二度目からは少々遠くても他のスーパーを利用できますが、交通事故にあって救急病院に運ばれる患者は自己決定をじっくりすることなど不可能ですし、施設に入居した人も、野菜を買うように明日別な施設に乗り換えるようなことは簡単ではないです。(もちろん、厳密には今あげているミクロなレベルでなく、マクロなレベルでは援助サービスでも選択機能は働くと思います。いくら救急病院でも、「ひどい」病院はやがて救急隊員も利用しなくなるでしょうし、評判の悪い施設はやがて淘汰されるでしょう。)

その意味では、提供者の責任と消費者の権利の概念を福祉に導入することは全面的に賛成ですが、「公」や「社会」の果たすべき義務を減らすことになってはいけないような気がします。



>私は福祉系の大学を卒業後、現在MSWをしています。自分の後輩達をみていると考え込んでしまいます。卒業後、SWなど福祉職として働く者も多いのですが、職能技術に自信が持てないためかPTなど他の職種の学校に、大学卒業後、入学する者が目立ちます。

そうですね。同志社の学生でも、一、二年に一人ぐらいの割で看護学校等に再進学する学生がいます。
まさに専門職としての「技術」が福祉専門職についてクリアでないことからコ・メディカルにあこがれるのですよね。よく分かる気がします。でも、少し違う気もしています。
そのような学生に僕が伝えるメッセージは、専門職には技術者としての側面と判断者としての側面があるということです。
例えば、医師が専門職として尊敬されるのは、(外科医でたとえるならば)手術の腕もあるけれど、手術をしようという決断をする(もちろん医師個人の決定でなく、厳密には患者の自己決定の援助というべきでしょうが)ことのできる部分にもあるのですよね。
そして、およそ全ての専門職にはこの「技術」職としての側面と「判断」職としての側面があるわけですが、特に社会科学系(?)の専門職である福祉は狭義の「技術」を行使する専門職と言うよりは、「判断」に関わるウエイトの高い仕事なのですよね。
福祉以外でたとえるなら、教師も立派な専門職ですが、「教える」ことは教師でなくてもできるのですよね。親も我が子を「教える」し、教職免許をもたない人でも塾で教えることは可能だし、時に教える技術は小中高の先生より予備校の先生の方が高いですね。しかし、そこで要求されるのは「知識を教える技術」であって、児童生徒を発達の対象として全人的に発達を「援助」していこうという側面は要求されないのですよね。(個人的には予備校の講師でももちろん人間的な相談にものって下さる素敵な先生がいるでしょうが、それは予備校の本質的な義務的な機能ではないですよね。)また親は専門家としての関わりは当事者の一方としては無理です。
僕は最近歯を一本「差し歯」にしたのですが、差し歯を作るのは実は歯医者さんではなく、歯科技工士さんなんですよね。そして、歯形やレントゲン写真を見ることで、完璧な歯を作られます。
でも、差し歯に変えた方がよいと言う判断を僕にアドバイスするのは、歯医者さんなんですよね。
看護婦さんや、PT,OTももちろん素敵な仕事だけど、そして福祉家にはない「技術」をもっているけれども、ソーシャルワーカーにはクライエントの生活を全人的に理解し「社会」的に位置づけていくための方策を本人や家族とともに考えていくというとても魅力的な役割がある。

このようなことを彼らに伝えて分かってもらいたいと思っているのですけどね。
そして、もし、それでも結局リハ専等に進学する学生には、福祉系大学で「無駄」な四年間を過ごしたということでなく、「流石福祉の大学を出ただけあって普通のPT学生とは視点が違うね。」と言われるような人になって欲しい、と言うことにしています。
実際看護系その他の現場にいる方が福祉系に転身されるケースもあるわけですしね。
彼ら福祉系学生に自信を持たせるのは我々教師の責任だと思います。頑張ります。
また現場の先輩からもぜひ、励ましてやって下さい。これからもよろしくお願いします。


このメッセージに岡村さんからメールを頂きました。とても素敵なメッセージだったので、ご本人のご許可を頂いて、紹介させていただきます。このように考えてもらえるととても嬉しいですね。

岡村さんから(1)
message=以前一度メールを送らせていただいた大阪市立大学の学生です。
今日は「小山の短い意見」を拝見させていただきました。その中で福祉系大学を卒業後他の職種の学校に再進学することについて先生のコメントが書かれていましたが、私もそのようなことを考えたことが何度かあります。今私は、福祉系の大学で勉強して、社会福祉士を取得する事を目指しています。しかし、資格が取得することができても、実践力が伴っていないと結局資格は意味がないと思います。
ところで、私は4回生なのですが、就職先を老人保健施設に決めました。そこでは介護職から入っていきたいと考えています。自分なりに現場をしっかり見つめて、それから大学で学んだことを活かしたいからです。しかし介護職についてはまったくの素人なので、非常に不安です。その介護に対する二つの気持ちがあったために、私は就職先を決めるのに迷いました。そして老健の園長さんには、介護はやる気があればできると言われました。その言葉を聞いて、頑張ってみようと決心しました。
今日の先生のコメントを読ませていただいて、私は「目に見える技術」がほしかったんだということに気づきました。それに気づいて、何となく心の中のもやもやがすっきりしたような気がします。やっぱり私は、ソーシャルワーカーの仕事をしたいと再認識しました。そして、ソーシャルワーカーの視点を持った介護をしたいと思います。
name=岡村貴代子

小山から
うれしいな。ただ、介護福祉系の同僚と思いを同じくできるかは難しいかも分からないけどね。でも諦めずに頑張ってくださいよ。そのためにも、職場の中にも外にも仲間を作る力が大切ですよ。
ぜひぜひ、そして頑張って欲しいけど、もしだめならいつでも戻ってらっしゃいよ(といっても、同志社じゃないからそっちの先生かな。でも僕もオッケーですから、そんなときはメール下さいよ。会うのもオッケーですよ。)
同志社の卒業生でも、特養の寮母で入って現在指導員で頑張っている学生がとてもたくさんいます。
頑張りましょう。

岡村さんから2)
早速返事をいただきありがとうございました。
先生のアドバイス、とてもうれしいです。
施設の園長さんにも、「そこで私がやってきたことを十分活かせるかどうかは分からないし、今の現状を考えるとそれはなかなか難しい」と言われました。しかし、大学で学んだことと言っても、実際のところ社会福祉の法律や歴史等についてが大半で、それを直接すぐに現場にいかせるかというと疑問があります。
だけど、大学では授業や実習などを通して福祉に対する考える機会、そして自分自身についてまで考える機会を与えてもらったような気がします(他にもアルバイトやボランティア、クラブなどさまざまな経験も含めて)。その点では、十分福祉系の大学を選んで、本当によかったと思います。
私はこれまで、妙に福祉を大学で学んだというプライドがあったような気がします。それをどうしても役立てたいと思いが強すぎて、他の仕事は避けていました。でも、社会ですぐに希望の職種につけるとは限らないなと最近感じます。例えば今実習でお世話になっている大阪府の精更相でも、何年も施設で働いて、そして今相談機関にきている人もいます。私の場合は施設に就職するので一概に公務員と比べるのは難しいですが、あまりにも自分の希望に固執しすぎて他を受け入れられないのは、自分自身にとってもったいないことだと思います。
長々と書いてしまい申し訳ありません。それではこれからも何かあればメールを書かせていただきますので、そのときはよろしくお願いします。



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