オムニバス寸劇 

 『てるてるかかあ』

 

森本 優

2023.9.11


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   第一話 宇宙の彼方で

   〈登場人物〉

   太母(てるてるかかあ)

   男の子(聖なる星)

   ナレーション

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   音楽(アルピノー二のアダ一ショ)IN‐BG

 

   宇宙の彼方から星々が地球を覗き込み囁き合っている

 

男の子「人間はどこから来て、どこに行こうとしているのでしょう」

 

   砲弾が飛び交い破裂する

   温暖化による世界的な熱波と出火事の報道

 

太母「人間は昔も今も変わっていないらしい。支配欲や金銭欲のため、自らの身を滅ぽそうとしている」

男の子「僕たちは一体どうしたらいいのでしょうか、お母さん」

太母「大丈夫。この宇宙の根底には、そしてあなたたち自身の内にも、宇宙全体を生み出し支え続けるわたしがいます。耳を澄まして私の声をお聞きなさい。わたしが導きます」

太母M「このような悪夢は生命宇宙という大河の表面上に結ばれたいっときの泡ぶく。人間たちが私の声を間き取ってくれるようになれぱ・・・」

太母「さあ勇気と希望をもって行きなさい。あなたたちには尊い役割が与えられているのだから」

 

   星々が輝き煌めく

   輝きを増したいくつもの光が尾を引いて地球に流れ込む

 

   しばらくして海と波の音

 

N 「われがみのきわまりしらずひろごりて

     なれがゆくてをさしみちぴかむ」

              (くりかえし)

 

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   第二話 雑踏の中で

   〈登場人物〉

   女の子

   みみずのミミちゃん

   天使マヤ

   ナレーション

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   女の子が弁当売りの格好で登場

 

女の子「弁当〜〜弁当、じやなかった、みみず〜〜みみず、いらんかえ〜〜〜、とっても働きもののミミちゃんだよ〜〜、大地を耕し豊かにするミミちゃんだよ〜〜〜、みみず〜〜みみず、いらんかえ〜〜〜」

女の子M「エコビジネス起こして早三年。現実って厳しいよね、まだ一匹も売れてないんだものね」

 

   天使マヤ現れる

 

天使マヤ「ミミちゃんちょうだいな」

女の子「やった一、はい百円いただきますです。ところでお姉さんどこの人。あまり見かけないけど・・・、ミミちやん働きものと言っても手も足もないんで、あまりこき使わんでくださいましよ」

 

   女の子退場

   天使マヤ、ミミちゃんを大地に戻す

 

天使マヤ「さあミミちゃん、私と一緒に働いてちょうだいな。お母さまの言いつけで、この地上を再生させなければならないの」

ミミちゃん「(マヤさまが天使であることを見抜き)ハイ、ワカリマシタ、マヤサマ」

 

   労働歌

 

ミミちゃん「カアチャンノタメナラ、エーンヤコ一ラ、マヤチャンノタメナラ、エーンヤコーラ、モヒトツオマケニ、エーンヤコ一ラ、ト」

 

   音楽(作業が進む様子)

 

天使マヤM「わあ、大地から双葉の芽を出したと思ったら、大きな樹となりもう実をつけているわ。樹には鳥や獣が集まり、人間も樹の下にたたずむようになった。それにしても美味しそうな蜜柑!」

天使マヤ「さあ、これで私の役目は終わったわ。人間たちがこの地上の果実を、他の生き物たちすべてと分かち合ってくれるとうれしいんだけど」

ミミちやん「ニンゲントイウイキモノハ、ドウモフカンゼンデ、ヨクブカイデス」

天使マヤ「(笑って)確かにそのようね」

ミミちゃん「カジツシカ、メニハイラズ、シバラクシタラ、マタホカノモノヲオシノケ、カジツヲウバイアウヨウニナッチャウンジャナインデスカ」

天使マヤ「人間の世界が堕落して敬愛のまことを忘れ、混沌としてしまう時こそ、お母さまのお声を伝えるために聖なる星たちが降ろされているんだけど・・・、いけない、もう時間だわ。ミミちやん本当にご苦労さまでした。では、さようなら」

ミミちゃん「サヨウナラ」

 

N 「けいあいのまことなければひとのよは

     すべてのものをやみにすつべし」

              (くりかえし)

 

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   第三話 山里にある寺子屋で

   〈登場人物〉

   てる爺(先生)

   男の子(生徒)

   てるてるひめ(生徒で長の娘)

   ナレーション

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   村の寺子屋で子供たちが学んでいる

 

てる爺「我らてるほ族ではな、ずっと昔から、自然に存在するものはすべていのちを持っていると教えられてきたんじゃ。草や木や獣たちだけでなく、一筋の川や一個の石ころでさえ、いのちを持っておってな、それ自身の神格も持っているんじゃ。じゃから、何の必要もないのに獣を狩ったり、木を切り倒したり、川をせき止めたり、大地を掘り起こしたりしちゃあ駄目じゃよ、いいね」

生徒全員「はーーい、わかりましたーー」

てる爺「自然に対して謙虚であらねばね。それから、我々に自然の恵みを与えてくださっている、てるてるかかさまにもいつも感謝のお析りを捧げるんじゃよ」

 

   突然、後ろの方に座っていた坊主頭の男生徒が立ち上がる

 

男の子「先生、質問いいですか」

てる爺「何かね」

男の子「先生はいつも、この世界はかかさまの御水火(いき)より生まれつつあるとおっしゃっていますけど、都会のエリート校の教科書では、宇宙は物質の相互作用によって生成・消滅を繰り返して加速度的に膨張してきているとされています。実際どうなんですか」

てる爺「それが今の科学の常識なんじゃろうが、その物質の変化なり運動なりが、我々人間が持つ感じ方や考え方のフィルタ一を通して描かれたものなんじゃから、ある意味物質的宇宙という現象は、感覚を素材とした影といった性質を帯びているんじゃよ」

男の子「知り合いの夢想家M君の話では、この物質的宇宙は波動の海に漂う無数の浮島のようなものだと言っています。では先生も、この物質的宇宙の背後には何かがあるとおっしゃるんですか」

てる爺「たとえて表現すればだね、この物質的宇宙を風船のような球体の表面上に展開する二次元的な世界と考えてごらんね。今の科学はその表面上で生成・消滅している物質的事象のみを扱っているということになるじゃろう。ちなみにじゃ、エネルギ一保存の法則というものも、物質が現れるその表面上でのみ成立するはずなんじゃ」

男の子「でも、私たちは三次元空間の宇宙にいるんですから、その仮定は成立しないんではないですか」

てる爺「いいや、そうとも言えないんじゃよ。我々の物質的宇宙をさえているエネルギーは決して均一で平坦なものではなく、所どころねじれ・歪んでいるんじゃ。そのため三次元空間では知覚しえない高次元空間もこの宇宙には存在しちょると言われている」

男の子「では先生は、その風船を宇宙の外から、てるてるかかさまが膨らませているとおっしゃりたいのですか」

てる爺「いいや、その風船は球体の中心部からかかさまによって吹き上げられて膨張しており、表面上に展開する物質的宇宙はというと、至るところでかかさまの御水火の働きかけを受けていると考えているんじゃがね」

男の子「球体の中心ですか・・・」

てる爺「三次元の現象世界につながれた我々人間にとって、その中心が一体どこなのかは空間的には全く特定できないし、ましてかかさまが高次元空間をも超越したところから働きかけているのであってみれば、なおさらの事じゃろうて。ここではただ、それぞれ我々を含めた個々のいのちの内奥にこそ、その中心はあり、かかさまもおられるとしか言えないんじゃよ。かかさまは常にその内奥から我々にメッセ一ジを送り続けているはずなんじゃがね」

 

   すると突然一番前に座っていた村の長の娘、

   てるてるひめが立ち上がり話に割って入る

 

てるてるひめ「あのー、私はおおばあさまから、てるほ族の創世神話を聞かされたことがあるんだけど、すべてのものは、てるてるかかさまが鳴らす一弦琴によって形を与えられ、いのちを吹き込まれるのだと言っていたわ」

てる爺「そうなんじゃ。その無限に変わる弦の音色によって、様々な物質が生成・消滅し、様々ないのちの形が作られ、生と死を繰り返しながら、われわれは歌い踊り続けているというふうに語られて来ているんじゃ」

てるてるひめ「ところで、スメラ族ってなんなんですか。おおばあさまからも聞かされていたんだけど、先日の夢の中でもその言葉が出てきたのでとても気になっているの」

てる爺「我々てるほ族のルーツとなる民じゃ。今から数万年前、高度な文明を築き栄えていたが、貪欲病にかかって傲慢となり、てるてるかかさまをまったく無視するようになってしまったので、大洪水と大火を呼ぴ、その民のほとんどは死滅するに至ったとされておる。その生き残った民の末裔の一つが我々てるほ族なんじゃ。世界各地には兄弟姉妹となるその末裔がおるんじゃが、貪欲病に憑かれた社会の中で滅びつつあるのが現状じゃ」

 

   てるてるひめ、その場のざわめく様子を見まわしながら

 

てるてるひめ「先日不思議な夢を見たの。森の中に祀られている産土神社の近くの空き地で遊んでいたら、優しそうな女神さまが現れて、わたしにお星さまみたいなコンペイトウを幾つか下さったの。わたし嬉しくって、それを大切に家に持ち帰ったんだけど、その時女神さまは、私にこうおっしゃっていたわ。『地球上の各地には、てるほ族の大本となるスメラ族の末裔がおります。それらの民も、ここと同じく貪欲病に憑かれた社会の中で滅ぴつつあります。そしてこの地球も荒廃した星になってしまうでしょう。それではあまりにも忍ぴないと、てるてるかかさまがこの地球を癒す薬を私に託されたのです。この宇宙の精霊たちの働きに助けられ、地球上の兄弟姉妹たちと手を取り合って、もう一度このみくまりの玉、地球を立て直さねぱなりません。その大切なお役をそなたにも授けるのです』って。夢の中では、女神さまのおっしゃろうとすることがわたしには何のことやらさっぱり分からなかったんだけど、今の先生のおはなしと重なるようなので、本当にもうびっくりだわ」

てる爺M「(てる爺、目を細めて)てるてるひめさまは幾歳になられたのか。今ひめさまが話されたことが本当なら、日差しを受けて蕾をふくらませ一輪ごとに花を開いて春を呼ぶ梅の木のように、この地にも、ひめさまのお働きによって春が訪れることになるかもしれないな。それにしても、ひめさまのお姿には蕾の開きかけた白梅のような尊い気品が漂っておることよ」

てる爺「今日は話が難しくなったがこれで終わりにしよう。明日は運動会だから弁当持参じゃよ。忘れんようにな」

生徒全員「はーーい」

 

N 「もろもろのなりなりなりてなりやまず

    てるてるかかあのいさおかしこし」

              (くりかえし)

 

おわり


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