辺野古と地方自治のこと

森本 優

2015/6/11


(「沖縄の声に共鳴して」の中川氏案に法的なバックボーンを入れてみました。参考になれば幸いです。2015.5.28 森本)

 

 日本国憲法92条には、地方自治の本来のあり方が規定されています。

 そこで規定されている「地方自治の本旨」とは、一般的に「団体自治」と「住民自治」との二つの要素から構成されていると理解されています。

 「団体自治」とは、国から独立した地域的な団体(自治体など)を設置し、国はこの団体の権限と責任の下で行われる行政運営を最大限尊重しなくてはならないことを言い、また「住民自治」とは、その行政運営はその地域の住民の意思と責任に基づいたものでなければならないということです。

 

 なぜこのような規定が憲法上の要請としてあるのかについては、正に今の日本国憲法が、国家権力を縛り、国民一人ひとりの基本的人権を守る為に制定されたからに他なりません。

 憲法13条の「個人の尊厳、生命・自由・財産・幸福追求権の尊重」が、現憲法体系の中心となる柱となっており、それを担保するため、憲法92条で地方自治の本来あるべき姿を規定しているのです。

 すなわち、地域住民(国民)一人ひとりの自己決定・自己統治(「住民自治」)の下で、住民自らが自らのいのちと暮らしを守り、幸福に過ごせる社会を築いてゆくことが求められ、その「住民自治」を担保するものとして自治体などが組織されなければならないのです。

 その為にこそ、自治体などの地域的な団体は、国から独立し団体自身の自己決定・自己統治(「団体自治」)の下で、住民一人ひとりの基本的人権を守る盾ともなる役割を果たすことを、憲法上期待されているわけです。

 

 ところで、確かに、国の外交や安全保障、エネルギー政策などの分野では、地方自治体に最終的な自己決定権がなく、国の意思決定に従うしかない場合も生じて来ます。

 しかしそのような場合でも、国も憲法に縛られているのですから、「地方自治の本旨」を充分尊重し、地域住民一人ひとりのいのちと暮らしを守り、住民による幸福な地域社会の実現に極力配慮しなくてはならないのは当然です。

 その意味でも、国には地域住民並びに地方自治体に対して、誠実に対応する義務があるのです。

 

 しかしながら、今回の米軍基地移転問題で示された政府の姿勢に関しては、地域住民やその地方自治体に対する何らの配慮も、また誠実な対応もなく、政府の裁量権を逸脱した違法性さえ認められます。

 以下三点指摘しておきます。

 

1.誠実さを欠いた政府の姿勢

 

 昨年、名護市民と沖縄県民は、4つの選挙で、辺野古に新基地を造らせない意思を明らかにしました。この民意を受けて翁長知事は、就任直後である昨年11月から政府に再三面談を求めました。しかし菅官房長官との面談が実現したのは4月5日、首相との面談が実現したのは4月17日でした。

 そして階段の内容も、残念ながら県の声に誠実に耳を傾けるものとは言えず、「日米首脳会談を直前にした米国向けのアリバイづくりでしかない」とマスコミも報じました。

 

2.国家による地方自治の蹂躙

 

 3月13日、沖縄防衛局は辺野古海底ボーリング調査を再会しました。3月23日、知事は海底作業の中止を求めましたが、工事は継続され、許可区域外の貴重な珊瑚礁が損傷されました。このため知事は、岩礁破砕許可を取り消しました。これを不服とする防衛局は、本来想定されていない場面での行政不服審査を林農相に申し立てるという異例の対抗手段をとり、道理も建前もなく、何が何でも国の既定方針を強引に実現しようとしました。

 今、海上保安庁を使って、基地建設に反対する住民をはじめとした多くの人々を強制排除して工事を継続しています。

 

3.「地方自治の本旨」を全く無視する政府の姿勢

 

 翁長知事は首相との面談で、日米首脳会談においてオバマ大統領に沖縄住民の声を伝達するように強く要望しました。しかし4月28日の首脳会談では、大統領が「海兵隊のグアム移転」に言及したにもかかわらず、首相はグアム移転には全く触れず、県知事が反対でも辺野古移転を進めていくと強調しました。(もっとも沖縄県民は、グアム移転を望んでいるわけではなく、日本から基地をなくすことを望んでいるはずです。)

 沖縄県民の代表である知事の要望を形だけオバマ大統領に伝えて、より良い解決の道があるかも知れないのに、あくまでも政府の既定方針を固持し沖縄県民の本意を尊重しない姿勢は、憲法に背き「地方自治の本旨」を全く無視するもので、憲法99条の「憲法尊重擁護義務」に違反するものといえます。

 

☆沖縄の問題は、沖縄だけの問題ではない

 

 ところで、いま、国民の過半数が国の強硬策を批判しています。

 世論の高まりは、4月9日に創設された新基地建設阻止の辺野古基金が、5月16日までに既に2億円余りに届こうとしていること、その約7割が沖縄県外から寄せられていることからも明らかです。

 国による沖縄への問答無用の基地建設強行は、地方自治の、ひいては日本国憲法の危機だと、多くの国民が不安を抱いているのです。

 

 国が沖縄県を国の都合に一方的に従わせようとしている姿勢に対して、沖縄県外の自治体の多くは、「他県の問題は権限外」「外交・安全保障は権限外」として、見て見ぬ振りをしています。

 しかし、このような国による沖縄への強硬策を見過ごすことは、自らの憲法上の存立基盤を放棄することに他なりません。そして今後、日本全国が沖縄化していく恐れが生じてくることになるのです。

 翁長知事は会談の中で、「県が自ら基地を提供したことはない」と強調しました。敗戦後「銃剣とブルドーザー」によって土地収用が強行され、本土復帰後も沖縄は在日米軍の大半を背負わされたまま今日に至っています。

 このような、国による横暴な行為を全国各地で招かないためにも、全国の各地方自治体は、いま、共同して声を上げるべきだと考えます。

 また、住民一人ひとりのいのちと暮らしを守り、幸福な社会を実現していくことは、各地方自治体の憲法上の責務なのですから、共同して「地方自治の本旨」を最大限尊重するよう政府に対して求めることは、全国各地方自治体の憲法上の義務だと考えます。

 

以上 

 


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