大川1 大川2 大川3 山釣りの世界TOP

 3日目、初めて雨も止み、雲間から太陽が顔を出し始めた。流れの濁りも消え、水位もやっと平水に戻った。タカヘグリ探検には、願ってもないチャンス。山の機嫌が悪くならないよう、山の神様に祈りながら大川を下る。(渓流ウォーキングで最も楽しいのは、清流が滑るように流れ下るナメ床を歩く時だ)
 カワゲラの幼虫・・・山釣りでは最もお世話になっている川虫。清流で、かつ岩魚が生息しているかどうかを調査するには、その証でもあるカワゲラやトビゲラ、カゲロウの幼虫たちがどれだけ生息しているかで簡単に推定できる。

 最大3センチほどもある大型のカワゲラ幼虫を、一般にオニチョロ、腹が黄色で1.5センチほどの小型カワゲラ幼虫をキンパクと呼んでいる。種類は、オオヤマカワゲラと比較的上流域に生息するクラカワゲラの幼虫がメイン。特に水質がきれいで、安定した流れがないと生息できない。オニチョロは、ブナの原生林が広がる渓流に多く生息し、岩魚の生息密度を判断するにも欠かせない。つまり、オニチョロが多く生息する清流は、岩魚の生息密度も高い。
 サンショウウオ・・・白神には、ハコネサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、クロサンショウウオの3種が生息している。上の個体は、ハコネサンショウウオだと思うが、まだ小さく、その特徴が定かでない。そこで、以前に白神の源流で撮影したハコネサンショウウオの成体を下に掲載する。
 ハコネサンショウウオ・・・最大の特徴は、他のサンショウウオと比べて尾が圧倒的に長いこと。全長の半分よりかなり長い。大型で体が細長く、体色は暗い赤褐色で、背面中央部には黄褐色の帯状斑紋が連なっている。おおよそ標高500m以上の源流に生息している。日中は、森の岩や倒木の下、樹洞内に潜伏しているが、夜間や雨天時には行動して昆虫やミミズなどの小動物を食べる。
 渓畦林に包まれた大川を快適に下る。毎日、雨にたたられ、やばっちかっただけに、晴れの渓流ウォーキングは、最高の気分。しかも、瀬尻から何度も岩魚が走るからタマラナイ!
カジカガエル・・・張りついている岩と全く同じ保護色をしている。カメラを近づけても微動だにしなかった。恐らく、これで隠れたつもりなのだろう。初夏の渓で焚き火を囲み、カジカガエルの美声を聞けば心が和む。比較的川幅が広く開けた渓に棲み、渓流脇の草地や樹上にいる。
ソバナ シシウド
タニウツギの実 ブナの実
クガイソウ・・・夏の渓と言えば、虎あるいは犬の尻尾のようなクガイソウをよく見かける。4〜6枚の葉が輪生し、その上部に紫色の穂状の花を咲かせる。
 ゴツゴツした岩場を、底まで透き通るような清流が流れ下る。汗ばんできたら、ジャブジャブ流れの中に入って涼む。爽快、痛快・・・汗がスーッと引いていくのが分かる。夏は、やっぱり渓流に勝るものなし。
マムシ・・・久々に太陽が顔を出したものだから、日当たりの良い岩にマムシがいた。これは眠っているのではなく、私たちに気付き、攻撃態勢に入っているところ。つまり「トグロを巻く」とは、このことだ。攻撃範囲は体長の半分ぐらいで、意外と狭い。それでも不用意に近づかず、1〜2mは離れるべきだろう。
 マムシの胴には、大きな銭形の斑紋があり、薮や林床、河原の枯れ草の間で静止すると見分けにくい。敵が防衛範囲内に入ると、すばやく飛びかかる。毒は強いが、致命的ではない。数時間経っても、血清は有効に使えるので、まずは慌てず騒がず、落ち着くこと。咬まれた局部を動かさないようにして、病院へ直行しよう。
不入の岩門・タカヘグリ
 左にカーブすると、いよいよ両岸の壁は急に狭くなる。そろそろ難所のタカヘグリが近いことを告げる。身を引き締めながら岩門に入っていく。
 S字状に蛇行する深淵に入りながら下っていくと、黒壁はますます狭くなる。見上げれば、黒光りした岩は、目も眩む高さで、今にも覆い被さってくるような威圧感がある。まさに「黒の峡谷」だ。
 チンポコが一瞬、萎縮してしまうほど流れも冷たい。だが、不思議と爽快、痛快なのだ。下界のストレスなんて、この一瞬だけであさっての方向に消し飛んでしまう。タカヘグリは、一度通ったら病み付きになる。
 タカヘグリの絶景・・・天まで届くほど両岸が屹立する黒壁。岩門の廊下内は、暗く冷たい風が吹き抜け、黒壁の上から雫が幾筋も滴り落ちている。その峡谷に、光が射し込み、妖しいまでに輝く。言葉を失うほどの絶景だ。まるで白神の母の胎内を潜り抜け、無事通過したら、下り坂の人生から上り坂の人生に生まれ変われるのではないか・・・と思うほど、別世界のように思う。ただし、二度通過すれば、ご利益はなくなるに違いない。ちなみに我々は、ここを二度通過したので、下り坂の人生は、やっぱり下り坂ということか。
 昔からタカヘグリは、切り立った断崖、絶壁が連なり、マタギでさえ近づけない「不入の門」「津軽の重箱」と言われていた。だからこそ、マタギは、このタカヘグリを迂回する尾根筋にマタギルートを開拓したのだ。ちょっとでも増水すれば、何人も通過することは不可能になる。つまり、雨が降ったら、タカヘグリルートはとらず、尾根筋のマタギルートをとるのが懸命だ。不入の門に一度入れば、逃げる場所はゼロなのだ。
 垂直に切り立った屏風のような黒壁、そのオーバーハングした壁の頭上から滴り落ちる清水。神々しい絶景が続く。
 急に谷が開ける。次なる岩門は・・・と思いながら下ったら、右岸の大崩落で堰き止められた湖はなくなっていた。唖然、愕然・・・。
 上の写真三枚は、2001年10月に撮影したもの。2001年5月に発生した右岸の土砂崩れで、流れが堰き止められ、縦50m、横20m、深さ3〜5mのタカヘグリ新湖ができた。2003年10月には、堰き止められた土砂もかなり流され、湖の深さは2mほどに下がっていた。湖がなくなるのも時間の問題と思っていたが・・・
 現在、堰き止めていた土砂は完全に流され、湖は姿を消した。今年の4月中旬、雪解けの増水で全て流されたようだ。正面に見える滝は、フキアゲの滝で、ほとんど昔の姿に戻った。カープした左に大量の砂利が堆積していた。
 しかし、下流右岸の斜面には、崩落した岩と土砂がうず高く積もっている。剥き出しの斜面は、豪雨や雪崩で侵食され続け、さらに下へ落下してくるだろう。今後、足元を洗い流された崩落土が、安定を失い、またいつ流れを堰き止めるか分からない。この真下を通過する時は、特に注意が必要だ。いつ崩れても不思議はないように思う。
夏・・・涼感を誘うフキアゲの滝
 フキアゲの滝頭の飛沫が、はじけ飛ぶ瞬間を撮る。
 滝末端のシャワーが滝底の岩盤にはじけ飛ぶ。そのシャワーを上と下から浴びながら、コップに汲み飲めば、喜悦する快感を得ることができる。こうした滝に出会ったら、迷うことなくご馳走にあずかろう。ちなみに美和ちゃんは、この滝壺に近付き、コーヒー用の水をヤカンに汲み、はしゃぎ回っていた。

大川1 大川2 大川3 山釣りの世界TOP