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Hidaka mountain chain mountain fishing travel 3 |
濁流・増水時のルアーフィッシング・・・「点と線」 |
ルアーの利点は、できるだけ遠くに飛ばし線で釣ることにある。さらに微妙なアクションとルアーが回転する音で本能をくすぐる釣り方だが、濁流状態では全く通用しなかった。 遠くに投げることを捨て、あくまで足元の岩穴を「点」で攻める釣り方に徹する以外釣りにはならなかった。お世辞にも格好いいとは言い難いが、食べる分だけでも釣るには、プライドも格好よさも捨てることが肝要だ。それより何より、魚を一匹も釣れないようでは「釣り」とも呼べない。 餌釣り、テンカラ、ルアー、FFと釣り道具は異なるけれど、条件が変われば何一つ万能の釣り方などない。釣りは、道具こそ異なれ釣れれば何でも感激することを改めて実感させられた。 |
8月13日、くもりのち雨。 大雨の後、二日間経過しているが、昨夜も雨、 シュンベツの大河はなかなか水位が下がらなかった。 |
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テン場近くの岩場。ポイントは左右の巻き込みで抉られた岩穴だが、対岸を線で攻めるのは無理。すぐにラインが激流で流され釣りにならない。健ちゃんがまだシュラフに潜って熟睡していた朝5時、一人ルアーの点釣りを試みた。 使用したルアーは、黒い毛の付いたスピナー。岩場に上がり足元の岩穴に2〜3mラインを送り込み、上下に竿をあおった。するとすぐにアタリがかえってきた。慌てて早合わせし過ぎたため失敗。二回目、アタリがあっても一呼吸置いて合わせるとニジマスが掛かった。まるで磯の穴釣りをしているようだが、釣れた瞬間は舞い上がるほど嬉しかった。今度はイワナが掛かった。ルアーを点で攻めれば、濁流でも立派に釣れることが証明された。 |
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岩魚とニジマスの刺身 | |
朝飯前に釣り上げたイワナとニジマスで、早速刺身を作ってみた。 皿の下がニジマスの刺身でピンク色が鮮やかだ。 皿の上はイワナを活け造り風に盛り付けてみた。 食べ比べてみたが、ニジマスも意外にコリコリして美味かった。 健ちゃんに言わせるとニジマスの方が美味いとのことだった。 外来魚とは言え、山の命に変わりはない。山ごもりでは、何とも有難い渓魚だった。 |
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渓を逆巻く濁流を目の前に茫然と立ち尽くす健ちゃん。 ほとんどのポイントは、白泡の渦と化している。 渡渉はもちろんできるはずもなく、右岸を歩く以外にない。 それだけに、移動できる距離も短く 釣るポイントはごく限られた箇所しかなかった。 |
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常識破りのルアーフィッシングに挑戦 | |
私は、今度タモ網で川虫採りを始めた。 すると不思議なことに川虫と一緒にミミズが網の中に入った。何度か採取を試みて、石の下から三匹のミミズを採取した。 如何せん小さいミミズしか採取できなかった。 恐らく増水で岸辺付近の土の中にいたミミズが流されたのだろう。増水すればミミズは「魔法の餌」と呼ばれる理由がよく理解できる。 それをスピナーに刺し、餌釣りルアーを試みた。 健ちゃんには笑われたが、ちゃんとイワナは釣れた。 しかし、三本針のルアーは餌釣りの針にはむかず、川虫は餌をとられるだけだった。 |
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深く抉れた岩穴にルアーを流し込み、点釣りを試みる。 松本清張の推理小説「点と線」ではないけれど、釣りも迷路に迷い込めば「点と線」の発想がポイントであることをシミジミと感じた。 釣りは千変万化する自然を相手にするだけに、釣り方も凝り固まった常識を捨てることこそ、渓魚を確実に釣り上げる基本ではないだろうか。 |
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健ちゃんも何度か線で釣る常識的なルアーをやっていたが、とうとう釣れない釣りを諦め、ルアーの点釣りをやり始めた。上の写真は、上流に巻き込む絶好のポイントだが、深さ、流れの太さ、スピードが格段に違っている。渓魚たちは、餌が流れ込む左手上の岩穴に潜んでいる。濁っているからアプローチに気を使う必要は全くない。 ただし、ルアーの点釣りは、偽者だから同一ポイントで一匹しか釣れない。これが餌なら同一ポイントで何匹も釣れたであろう。まして臭いもきつく大きなドバミミズなら大物を釣る絶好のチャンスでもあった。それだけに後悔の念もあったが、山で遊ばせてもらっている以上、食べる分だけ釣れれば言うことなしだ。そんな贅沢は、もともと期待していなかった。 |
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ルアーの点釣りにヒットしたニジマス。 | |
スピナーの点釣りはどうしても針掛かりが浅い。 ニジマスは、水面に二度ほどジャンプすると簡単に外された。 何度も失敗した後、一本針の銀色スプーン5gに変え、 上流に巻き込む岩穴を探ると、ヒットしたイワナが上の写真だ。 尺を越えると、ラインが短い分、ルアー竿に強烈な引きが伝わってくる。 格好は悪いが、妙な興奮を感じたことは確かだ。 針掛かりは、三本針より一本針が格段に優れていた。 |
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苦労が報われる瞬間、感激の美魚を手に・・・ | |
東北のイワナと絶対的に異なる点は、魚体に比べて頭が小さいことだ。これは何を意味するのだろうか。 私の推測では、シュンベツのイワナは成長のスピードが格段に早いことを示していると思う。流域の大きさ、流れの太さ、成長のスピードから考えて50〜60センチクラスのエゾイワナは必ずいるはずだと思うのだが・・・ 稚拙な釣り師には、なかなか顔を出してくれない。増水が容易に予想できたにもかかわらず、餌釣りの準備を怠るようでは、これも当然か。 |
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この美魚を釣るために、はるばる二山も越えてやってきたのだ。 苦労が報われる瞬間だ。 シュンベツのエゾイワナは、魚体が大きくなるに連れて斑点が小さくなる傾向があるようだ。 釣った距離はわずか数百m、 一人3尾をキープした時点であっさり竿を畳んだ。 |
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山 の 怖 さ | |
最初気になったのは、不在中にヒグマが現れテン場を荒らされたりしないだろうか、という漠然とした不安だった。もし万が一ヒグマに占拠されたら、取り戻そうなんてケチな行動はとらず、素直に山を下りるしかない。そのためにも、ポケットには車のキー、背中には非常食をしのばせていた。幸い、そんな気配は皆無だった。ヒグマが闊歩する無人境にテン場を構えるには、何と言ってもヒグマの危険が少ない場所を選択する以外にない。さらに残飯は捨てず、無理してでも調理したものは全て胃袋の中に収めた。調理用具や食器は、そのつど小まめに洗い流し、食料は臭いが出ないよう二重の袋に入れ、ザックの中に完全にパッキングした。 健ちゃんが、朝起きたら昨晩の怖さを語ってくれた。 私は山越えの疲れで簡単に酩酊、シュラフに潜ってイビキをかいて寝入っていた。一人残された健ちゃんは、暗い小沢で食器類を洗ったりしたが、暗闇からヒグマが出て気はしまいか、と気になって気になってしょうがなかった。テントから聞こえる私の低いイビキでさえ、ヒグマの唸るような声に聞こえたという。 これを笑うのは簡単だが、実は山の怖さを五感で感じることこそ、山に生きる人々の最も基本的なことである。秋田の阿仁マタギは、オヤジから次のように教えられている。 「親父達は山に登ると、山の形を頭に叩き込んでおけって、本当に厳しかったさ。゛いいか、山なんていうものは、天気が良ければ天国、天気が悪けりゃ地獄だ。人の命なんて簡単に取ってしまうものだ゛そう言ってたな。山の怖さを若いうちに覚えろって言ってた。」(マタギのこころ) |
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川ネズミを丸呑みしていた36センチの蝦夷岩魚 | |
異様に大きく腹が膨れたイワナの胃袋を裂くと、何と川ネズミが出てきた。こうした大物の餌にありつけるのも異常な洪水があったからであろう。かつて、川ネズミが水の中に潜り盛んに小イワナを追う姿を見たことがあった。その川ネズミを大きなイワナが狙っている。情け容赦ない食物連鎖、弱肉強食の世界を垣間見る思いだった。
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渓魚の料理・山の命を有難くいただく | |
釣り上げた渓魚は、まず大きい順に2尾を刺身に、 次に三枚におろしてムニエル2尾、 串刺しにした塩焼き2尾、合計6尾を調理。 刺身とムニエルで残った頭と骨は、焚き火に吊るして燻製に、 剥ぎ取った皮は油で炒める。 内臓以外は、全て捨てずに調理し、有難くいただいた。 |
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健ちゃんの作品。 飛沫にしっとり濡れたフキユキノシタと清冽滝。 三脚を据え、シャッタースピード1/8で撮影したもの。 |
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夜が更けると、またしても激しい雨がブルーシートを激しく叩きはじめた。悪天候の時こそ、焚き火の有難さが骨まで沁みる。さらに背中には水やタンパク源が何一つ入っていないから、水と渓魚の有難さが身に沁みた。 それにしても濁流の中でのルアー釣りは、渓魚の楽園と言えども難しかった。釣りを楽しむ余裕などなく、とにかく夕餉の食材を確保するために夢中にならざるを得なかったというのが正直なところだ。 健ちゃんに言わせると「これじゃ釣りではなく、まるで狩猟だ」。 そうかも知れない。 果たして明日はどこまで釣り上れるのだろうか・・・ |