歌舞伎 音菊天竺徳兵衛
(おとにきくてんじくとくべえ)
♪日時:2000.02.20 22:30〜 NHK教育放送(国立劇場・収録)
♪:四世・鶴屋南北/作
♪配役:
天竺徳兵衛(実は木曽官一子大日丸):尾上菊五郎
梅津掃部元春:澤村田之介
吉岡宗観:市村羽左衛門 など
♪内容:
通しだと3時間ほどの公演らしいが、TVなので第2幕からの放送(3幕構成)。文化元年7月(1804年)江戸・河原崎座が初演。
”音菊”とは多分、音羽屋(尾上菊五郎の屋号)の”音”、座長・菊五郎の”菊”のことだろう。
第2幕:
一、京都・吉岡宗観邸の場
吉岡邸宅に天竺帰りの徳兵衛が庭先に呼ばれ、天竺への行き帰りの四方山話を宗観夫婦に語って聞かせる。この場面は第一幕との間の一休みといったところか、たわいもない話で客席もリラックスムード。時代背景としては、足利八代将軍・義政の頃であるが、ここで徳兵衛が語る言葉には、安室やスピード、松阪なんていう名前も飛び出し、大いに脱線して会場を笑わせる。
場面が変わり、義政の使者として吉岡邸へ梅津掃部と山名時五郎氏連(市川團蔵)が訪れる。二人は将軍代々に伝わる宝剣・波切丸(なみきりまる)を吉岡がなくしてしまった(?)罪を責める。吉岡は切腹をして詫びるが、すぐには死なず、そこへ徳兵衛を呼んで、こう言う。実は私は”清”(昔の中国)に滅ぼされた”明”の人間で、波切丸は自分が隠している。それも日本の国家転覆を企んでのこと。お前は私の子であり名は大日丸、ガマの妖術を授けるから後を頼む。そうして吉岡は徳兵衛に術を教えると、いつのまにか屋敷は責め手に囲まれる。徳兵衛がガマの妖術を使うと巨大なガマが舞台に現れ、なんとも異様な雰囲気。徳兵衛がガマの背中で見栄を切る。ガマが口からガスを吐く。
二、浅葱の幕で舞台が隠れると、浄瑠璃と三味線の二人が登場。場をつなぐ。
三、裏手水門の場
刀(波切丸)を咥えたガマ(徳兵衛が化けている)が大勢の攻め手と立ち回る。愛嬌のあるガマの着グルミで、壁に張り付いて回転したり、毒気を放ったりと、なんとも滑稽な立ち回り。着グルミから徳兵衛が出てくると、「泳ぎ六方」(平泳ぎのよう)という六方を踏んで花道を進んでいき幕となる。
第三幕:
一、京都・梅津掃部邸の場
梅津掃部の上司にあたる細川政元が長袴で登場。今度は梅津掃部が上司に責められる。そこへ座頭(盲人)徳市に変装した徳兵衛が梅津邸の様子を探るために現れる。そこで木琴を演奏したり、越後出雲崎のオケサを聞かせたりする。徳市を怪しんだ政元は、徳市が盲人のふりをしていることを見破る。徳市は屋敷から飛び出し、池に飛び込むと舞台に仕掛けられた水飛沫が高く上がる。徳兵衛は舞台の下に降りると、衣装の早変わりで花道から再び変装して現れる。今度は、斯波左衛門義照に化けている。義照はこれまた梅津掃部の上司にあたる。ここで幕。
二、奥座敷庭先の場
梅津掃部の側女・葛城(中村時蔵)が義照に恋文を書いている。そこへ義照が突如として現れる。葛城は好きで梅津掃部と結ばれたわけではないという。義照への思いを示すために、彼の前で小刀で自分の指を切って見せると、義照に異変が現れる。ガマの妖術を使っている徳兵衛だが、実はこの妖術には唯一弱点があり、それを見ると妖術が敗れるのだ。それは巳(み、蛇)の年月がそろった女性の生き血を見ることであり、その女性こそ葛城であった。
場面は変わり、梅津掃部は偽の刀を波切丸であるとして義照に渡す。勿論それが偽物であることは自分(徳兵衛)が一番知っているから(自分が奪ったものだから)、刀を手にしてそれを偽物だと、実物を見たことがあるかのように語る。義照が不審と見るや、いつのまにか屋敷は責め手に囲まれる。葛城の血を見て力が萎えた義照(徳兵衛)が手にした刀はあの波切丸であったが、容易に梅津に奪い返される。
これで舞台は終わり。出演者が突然、客席へ正座、お辞儀をして切口上となる。座長の菊五郎が赤い台の上で見栄を切ると幕となる。
♪感想:副音声での解説付きで内容は理解しやすい。その解説で、この物語を荒唐無稽というように、ガマが主役というのは歌舞伎らしからぬというのが率直な感想。まるで山田風太郎の忍者ものを読んでいる気分にもなる。よくいえばサービス旺盛な大スペクタクルのハリウッド映画といったところか。奇想天外な話のせいか、見るものを飽きさせない見事な筋書きになっている。歌舞伎にもいろいろあると思うが、陰気くさい文楽よりはこういった遊び心たっぷりの歌舞伎は楽しい。
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更新日: 00/07/06
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