歌舞伎 天守物語 

日時:2000.07.20  13:10〜 NHK総合放送(”劇場への招待”:歌舞伎座・収録)
原作:泉鏡花

配役:
・天守夫人・富姫(武田播磨守の妻?)・・坂東玉三郎
・岩代国猪苗代・亀の城・亀姫(富姫の妹)・・尾上菊之助
・若き鷹匠・姫川図書之助・・市川新之助
・十文字ヶ原・朱の盤坊(亀姫のお供)・・市川左團次
・近江之丞・桃六・・市村羽左衛門 ほか

内容:
  播磨のお城の天守閣(姫路城)を模した舞台の中央に獅子舞の獅子頭が置かれている。辺りに蝶が舞い、天守の欄干と思しき舞台先では5人の侍女が釣り糸を垂らしている。何を釣っているかと思えば、侍女が引き上げたその糸先には何やら花らしいものが付いていた。侍女の他には、奥女中と、小さな娘が3人。舞台には伝統的な歌舞伎とは異なり、三味線や謡のようなものではなく、西洋的な楽器による音楽が流れている。
 そこへ、城の主の妻・富姫が外出先から戻ってきた。結い髪を後ろに下ろしている。姫は越前の夜叉ヶ池まで行ってきたと侍女らに語る。
 3人の娘を残して一同が舞台から下がると、朱の盤坊が登場。彼は赤ら顔で頭に角らしきものもあり、まるで赤鬼だ。五百里離れた遥か猪苗代から亀姫のお供をして播磨までやってきた。奥女中にお目通りを請うと、女中は亀姫を天守へ通すように彼に告げる。すると不思議、天守の軒先に天井から籠が降りてくる。籠から亀姫が出てきて、姉の富姫とご対面。久しぶりの再会を互いに喜ぶ。二人の姫とお供をする侍女や娘たちで舞台は女だらけ(実際は女形だから男だが)、衣装も華やかである。
 朱の盤坊が亀姫が土産にと持ってきた首を富姫に見せる。その侍の首は実は、亀姫の夫で、播磨守の弟でもある猪苗代亀の城の城主・衛門之介のものであった。土産とは言え、酔狂だ。正気の沙汰ではないが、富姫もそれを面白がって見ている(義理の姉妹か?)。富姫はその首を獅子頭の口の中に入れると、亀姫を伴って毬付きに行ってしまう。その間に朱の盤坊は富姫の侍女たちに酒を振る舞われる。
 再び、姉妹が天守に戻ると、富姫は白い鷹を自らの手で捕らえると、亀姫に土産として手渡す。亀姫は籠に乗るとそのまま天井に上がっていった。
明かりが落ちた舞台に、灯りを手に図書之助が登場。富姫が突然現れたこの男を問い詰めると、彼は鷹匠で、自分の主であり、この城の主でもある播磨守の所有する鷹が逃げて、天守辺りに消えたので追ってきたという。しかも、鷹を逃がした罪で死罪を主から言い渡されていた。
 その鷹は姫が亀姫に土産にやったものに違いない。もうそこにはいないからと一旦彼を帰すが、灯りが消えたといって再び彼が灯りの火を求めて闇の中を戻ってきた。彼の言動に心引かれた彼女は、気に入って帰したくなくなった。が、彼は城に残ることは本意ではなく、世間に未練もあると言って帰ろうとする。その彼に姫は家宝の立派な兜を土産に渡すと、彼はもう二度と現れないと誓い、礼を言って去る。
 その後、城外で騒がしいのに奥女中が気付くと、どうやら図書之助が兜を盗んだとされ、主の家来たちに追われている。その内、天守に図書之助が逃げ込んで、再び姫の面前に登場。
 謀反人となった彼は姫に討たれるのなら本望と、彼女に手を下してくれるよう請う。が、姫は彼を獅子舞の胴体に隠すと自分も一緒に中に入る。
 家来の小田原修理や山隅九平ら大勢の追っ手が天守に上がって来ると、突然獅子舞が動き出し、追っ手との絡みとなる。しかし多勢に無勢、動きの止まった獅子舞の中から目を失った図書之助が出てくる。更に追っ手たちにとどめを刺されそうになると、これも目を失った姫が出てくる。その手にはあの首が。家来たちへその首を投げ渡すと、彼らはその首を自分の主のものと思い込み、気味悪がって逃げ出す。姫と図書之助は互いの姿も見えなくなっていたが、互いに抱き合い、一緒に命を断とうとする。
 そこへどこから来たのか近江之丞・桃六と名乗る老人が登場。彼は獅子頭を彫った人物であった。目を開いてやると言うと、追っ手に目を潰された獅子頭の目をノミで彫って元に戻す。すると不思議、二人の目が開く。舞台も明るくなり、抱き合う二人。そして幕が下ろされる。

感想:最後に二人は目が見えるようになるが、獅子頭の目を彫ると目が見えるというエンディングは突飛であるが、もしかするとあの場面は既にあの世の話で、二人はそこで眼を開かれ結ばれたのかも知れない。
 大正6年に書かれたこの作品は泉鏡花の生前には上演されることはなかったらしい。
 玉三郎の名や顔は昔から知ってはいたが、実際に舞台で動いている姿を見るのは初めて。しかも伝統的な歌舞伎の演出とは違い、現代風の新作歌舞伎といった舞台。根本にはしっかり歌舞伎の様式美がある。この作品の舞台は江戸時代は大坂の陣の後の頃の話らしい。時代物だがSF的な要素と現代的な音楽との融合で、幻想的な世界が繰り広げられていた。
 泉鏡花は読んだことがないが、急にその作品が読みたくなった

*蛇足だが、亀姫役の尾上菊之助、どこかで見た顔の造りだと思ったら、NHK大河ドラマ「葵徳川三代」の太閤秀吉の遺児・秀頼の役で若武者振りを見せているではないか!


TOPへ

更新日: 00/07/23