歌舞伎 一條大蔵譚  
いちじょうおおくらものがたり

日時:2001.08.05(sun) 22:30 〜 NHK教育放送(歌舞伎座・収録。芸術劇場より)

配役:
一條大蔵長成:中村吉右衛門(二代目、播磨屋)
吉岡鬼次郎:中村梅玉
お京(鬼次郎):中村松江
常盤御前(源義朝の未亡人):中村芝翫(七代目、成駒屋)
八剣勘解由:片岡芦燕
ほか

内容:
序幕:檜垣茶屋の場

 京都・白河御所。門の外に檜垣茶屋が店を出している。御所では平清盛主催の能会が開かれ、一條大蔵卿も招かれていた。大蔵卿は”つくり阿呆”といって精神薄弱を装っていた。それは源氏と平氏の間に揺れる公家として、権謀術数に巻き込まれないための保身の知恵であった。周りからもずっと阿呆と見られていた。
 茶屋に鬼次郎夫婦が旅装束で現れる(この二人は源氏再興を狙う勢力)。茶屋の主人が水を汲みに行っている間に、能が終わって大蔵卿がお供を大勢引き連れて、門から出てくる。思わず茶屋に隠れる二人。大勢のお供の最後に常盤御前の代役として来ていた鳴瀬(勘解由の妻)が現れる。
 予め鳴瀬と打ち合わせていたお京が、女狂言師として大蔵卿に召抱えてもらえるようにと卿の前に現れる。お京は卿の前で能を舞って見せ、鳴瀬の口添えもあり、卿に気に入られて召抱えとなる。
 大蔵卿が屋敷へ帰ろうと花道の方に歩き出すと、お供達もこれに続き列をなす。それらの背後に先に幕が引かれる。卿を先頭に花道へ引き上げていく。一番後ろに離れて、お京がゆっくりと追いかける。
 
大詰:大蔵館奥殿の場

 夜更けの館外には人影もなく、舞台には塀が見えるのみ。鬼次郎が花道から登場。そこに腰元に変装したお京が灯りを手に現れる。申し合わせていた二人は館に入っていく。
塀がなくなり、舞台には常盤御前の部屋が現れる。御簾が降りた部屋の奥では御前が弓で遊んでいるらしい。御前は義朝が平氏に敗れ未亡人となった後、清盛の側室になっていたが、飽きた清盛が大蔵卿に彼女を下げ渡した。
 御簾が上がり、御前が姿を見せる。屋敷の外に隠れていた鬼次郎が彼女に駆け寄り、2度3度と結婚を繰り返す御前を責める。それを忠義者と言って褒める御前。鬼次郎夫婦にこれまでの苦労を語る御前。これを陰で聞いていた勘解由が、それ見たことかと現れ、手荒に御前を表に引きずり出す。そこに鳴瀬が現れて夫をなだめる。御前を守ろうと勘解由と切り結ぶ鬼次郎。
 再び降りた御簾の陰から、薙刀の刃が現れ、勘解由の肩を斬りつける。御簾の奥からは大蔵卿の声が。御簾が上がり、いつもの阿呆の顔とは違い、引き締まった顔で卿が現れる(右手に薙刀、左に刀)。
 卿は皆の前で本心を語り始める。義太夫に合わせ舞う卿。実は卿は源氏の血を引いており、心の奥では源氏を応援している。平氏に敗れた源氏の無念さを舞で表す。
卿は牛若丸(義経)へのメッセージを鬼次郎に託す。夜明けを迎え、卿は源氏の剣をも鬼次郎に渡し、源氏再興を託す。
 この期に及んで抵抗する勘解由を自ら討ち果たす大蔵卿。打ち落とした勘解由の首を手に、再びつくり阿呆に戻っていく卿。

感想:義太夫狂言。
 鬼一法眼三略巻の四段目。
 大蔵卿の本音を隠して生きることの苦しみ。が、ただ一度だけ本心を明かす。源氏を応援したくとも自分では何も出来ず、ただ陰で応援するだけの自分の存在を疎ましくも思うだろう。大蔵卿のつくり阿呆ぶりと、鬼次郎たちの前で一度だけ正気の姿を見せる、その変わり様が見もの。

参考資料:歌舞伎ハンドブック(藤田洋・編、\1,500 三省堂)

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更新日: 01/08/13