歌舞伎 妹背山婦女庭訓  
いもせやまおんなていきん

日時:2003.03.30(sun) 22:00 〜 NHK教育放送「芸術劇場」(歌舞伎座・収録)
作:近松半二ほか
分類:義太夫狂言

配役:
杉酒屋嬢お三輪:坂東玉三郎
烏帽子折求女(もとめ)、実は藤原淡海:中村勘九郎
入鹿妹・橘姫:中村福助
荒巻弥藤次:市川右之助
宮堀玄蕃:片岡十蔵
蘇我入鹿:坂東弥十郎
豆腐買おむら:市川猿之助
漁師鱶七(ふかしち)、実は金輪五郎今国:市川團十郎
ほか

内容:
  四段目、- 道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)

 浅葱幕の前で黒子が浄瑠璃と三味線の各4名の紹介。続いて主な配役を紹介。
 しばし義太夫節の演奏が続く。幕が切って落とされると、そこは求女と橘姫とが密会する夜の場面。橘姫(赤い振袖)、求女(手に赤い糸の苧環)が順に登場。二人の背後には人形浄瑠璃のように人形使いのような黒子が寄り沿い、まるで人形を操っているように役者にくっ付いている(人形振りという特殊演出)。この場は舞踊が中心である。
 二人の所作もまるで人形で、わざとぎこちなく動く。表情も無表情(パントマイムと同じである)。じゃれ合う二人の前にお三輪(緑の振袖。手に白い糸の苧環)が登場。二人の邪魔をしようとする。彼女も求女に気がある。まず求女を責め、次に橘姫を責める(ここで持ち出すのが婦女庭訓。女性の心得、躾を説くもの)。二人の女に両手を引かれる求女。帰ろうとする姫の振袖に苧環の赤い糸をくくり着ける求女。その彼の裾に苧環の白い糸をくくり着けるお三輪。姫は花道へ去っていく。それを追う求女が手にした苧環が、糸が引かれてくるくる回る。求女も花道へ消える。更にそれを追うお三輪の手にある苧環は様子が変である。糸を手繰り寄せると、糸は切れていた。

 - 三笠山御殿

 入鹿の御殿の庭先に荒巻弥藤次(白い顔、やっこ姿)、宮堀玄蕃(赤い顔、同)の二人が左右から登場。御簾が上がると、左右に3名づるの女官を居並べ、中央に入鹿が座る(隈取が如何にも悪人面)。
 そこへ花道から鱶七が登場(派手な裃はチェック柄。髪型こそ漁師風だが、腰には二刀を差し、徳利まで下げている)。彼は大胆にも入鹿にとっては敵方の鎌足の使いで来たと言う。そんな彼が勧める酒を入鹿が飲むはずもなく、毒酒と疑う。じゃあ毒見をすると言って、結局飲み干してしまう鱶七。
 御簾が下り、二人のやっこも退場。一人、鱶七が取り残される。再び御簾が上がり、無人となった御殿に上がる鱶七。そのとき床下から彼の命を狙う槍が二本、突き出される。それを交わすと二本とも鉢巻で縛り、悠々と槍を枕に寝転がる。大胆不敵である。
 そこへ上下が紅白の巫女姿の女官が8名登場(普段はみな立ち役の面々であり、女装も似合っていない。不細工である。これも演出らしい)。彼に酒を勧める女官達を追い払うと、その酒を庭先の菊の花に注ぎかける。たちまち花は萎れていく。毒酒と見破った彼に、先のやっこ二名が手下を引き連れてやってくる(弓矢を手にしている)。これを撃退するわけでもなく、悠々と引き上げる鱶七。

 御簾が下り、舞台は無人となる。花道から橘姫が登場。求女との密会から朝帰りである。6名の女官(こちらは本物の女形)が姫を出迎える。姫に付けられた赤い糸に気付く女官たち。居並んで糸を順に手繰り寄せると、糸に引かれたようにして花道から求女が登場。
気を利かせた女官たちは下がる。実は藤原淡海である求女は敵方の姫だと知って、橘を斬ろうとする。求女と別れたくないという姫に求女は、入鹿が天皇から奪った宝剣を取り返すよ迫る。命を賭けて宝剣を盗み出す覚悟をする姫は御殿の奥へ。求女も退場。
 誰もいなくなった御殿にお三輪が登場。求女を探して御殿に入っていく。廊下で(先ほどの立ち役の)女官8名と遭遇すると、彼女らに囲まれて虐められる。
 酌の仕方や謡いなどを教えると言いって厳しくし、胴上げまでして散々お三輪を弄んだ女官たちは去っていく。堪忍袋の緒が切れたお三輪。血相変えて再び御殿に乗り込んでいくが、そこへ(なぜか)浴衣姿で現れた鱶七に突然、脇腹を刀で刺されるお三輪。これは説明すると長くなるが、入鹿の弱点を突くための一要素である「疑着の相(情念に燃えた)のある女」の生血を得るため仕業であった。その鱶七の命を狙う男が登場。男が鱶七の浴衣を剥ぎ取ると、漁師姿だった鱶七が金輪五郎今国に変身。これを撃退すると、お三輪の傷口から生血を採取する。役に立ったことを喜ぶお三輪だが求女に会えなかったのを悔やみながら息絶える。これで入鹿の命を取ったも同然と喜ぶ五郎が見得を切って幕。

感想:
 題材にされたのは大化の改新(入鹿が中大兄皇子と中臣鎌足に討たれ、朝廷に政権を取り戻す)。その他様々な素材を散りばめた作品らしいが、如何にも歌舞伎らしい何でもありの世界となっている。
 蘇我入鹿の時代の娘が振袖を着たかどうかは知らない(多分、着なかっただろう)。漁師鱶七は鎌足の使いと言っているから、きっと家臣なのであろう。これはいい。ところで二人の女に迫られ色男ぶりを見せつけた求女、こと藤原淡海は橘姫に宝剣を盗みに行かせたが、その後どうなったのか?求女、橘姫の運命は?この放送からは分からなかった。

参考資料: 歌舞伎ハンドブック(\1,500 三省堂)

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更新日: 03/06/02