歌舞伎 御所桜堀川夜討
〜弁慶上使
(ごしょざくらほりかわようち)
♪日時:2003.05.25(sun) 22:00 〜 NHK教育放送「劇場への招待」(歌舞伎座・収録)
♪作:文耕堂らの合作
♪分類:義太夫狂言
♪配役:
武蔵坊弁慶:中村吉右衛門
義経室・卿の君、腰元しのぶ(二役):中村扇雀
しのぶの母おわさ:中村鴈次郎
侍従・太郎:中村歌昇
その妻・花の井:中村芝雀
ほか
♪内容:
全五段中の三段目。
兄・頼朝と不和になった後の義経をめぐる史実がネタになっている。
定式幕が向かって左(下手)から右(上手)へ引かれると、そこは侍従太郎の館。6人の腰元が居並ぶ。正面の襖が開くと太郎と妻が登場。腰元たちが先に下手に移動、追って太郎夫妻も下手へ移動すると、上手の障子が開く。そこには卿の君(姫の姿)が座し、左右に腰元が控えている。
花道から弁慶が登場、中央に座す。「勧進帳」のような山伏姿の弁慶ではない。どちらかといえば五右衛門のようなイメージ。隈取も厳めしい。頼朝の使いということもあり(黒地の)裃を着ているから弁慶らしくない。しかも髪型のせいで烏帽子を頭上に被るのでなく、後頭部に付けているのでちょっと妙。
弁慶が彼らしくない軽口をたたいたりした後、障子が閉まり、卿の君は姿を消す。腰元や太郎夫妻も奥へ下がり、最後に弁慶がゆっくりと、開いた襖の奥へ下がる。
上手から腰元しのぶが登場。下手からその母おわさが登場。久しぶりの再会を互いに喜ぶ。そこへ曇った顔で太郎夫妻が登場。太郎は苦悩の表情でおわさに、しのぶの命を自分に預けてくれと頼む。弁慶が太郎宅へ上使として訪れたのは、卿の君が平家の血筋であることから、義経が頼朝から疑われていたため、彼女の首を打てと命じられたためであった。しのぶが卿の君と似ていたことから、身代わりになって欲しいと太郎は頼んだのだ。おわさ母娘は驚く。
おわさは左肩を肩肌脱ぎとなると、赤い振袖が現れる。しのぶを身篭る原因となった、かつて愛した男を思い出す。その振袖は17年前に一夜を共にした男が身に着けていた(!)振袖から引き千切ったものであった。死を拒むしのぶが花の井と揉み合っているとき、襖がわずかに開き、しのぶが背後から何者かに刺される。倒れるしのぶ。
襖が開くと、奥は千畳敷に替わる。刀を手に弁慶が登場し、見得を切る。裃の上半身は諸肌脱ぎとなり、更に一枚右肩袖を脱ぐと、おわさが見せたものと同じ赤い振袖が!弁慶こそがしのぶの父であった。おわさはかつて恋した男との17年ぶりの再会に恥らう。しかし倒れた娘の姿に我に返る。息も絶え絶えのしのぶ。振袖は血に染まる。嘆き悲しむ母。そして実の父親が弁慶だとも知らずに息を引き取る。
主人・義経の一大事に、苦悩の末に実の子を手にかけてしまった弁慶。脱いだ裃の袖で面前を覆うようにして男泣きに泣く。彼には生涯一度の恋であった。
太郎はしのぶの首を打ち、その首を弁慶に奉げると、自らも切腹する。命じられた訳ではないが、しのぶの首が身代わりだと思われないための覚悟の行為。弁慶は太郎の介錯をし、刀を手に見得を切る。
弁慶は役目を果たしたとばかり、二つの首を両脇に持ち、立ち去ろうとする。行く手を遮るおわさと花の井。それを振り切って花道へ。定式幕は閉じられる。悲しみを断ち切るように、険しい表情に替わると、ゆっくりと花道へ引っ込んでいく。
♪メモ:
弁慶、おわさ共に17年もの間、同じ振袖を身に着けていたというのは無理があるが、その振袖があってこそ、しのぶが二人の娘だったことを証明することになり、弁慶も覚悟して娘の命を奪うことになった。娘の命を守りたい母の気持ちと、昔の男に再会した喜び、その男に娘を殺された悲しみ。おわさの激しく揺れる胸中を演じる鴈次郎の演技が見せ場。
♪参考資料: 歌舞伎ハンドブック(\1,500 三省堂)
TOPへ
更新日: 03/06/23
|