歌舞伎 心中天網島
(しんじゅうてんのあみじま)
♪日時:2002.06.30(sun) 22:15 〜 NHK教育放送「芸術劇場」(近松座歌舞伎20周年公演より、東京小劇場・収録)
♪作:近松門左衛門
♪脚本:高瀬精一郎
♪配役:
紙屋治兵衛:中村鴈治郎(三代目)
紀の国屋小春:坂東玉三郎
女房おさん:片岡秀太郎
粉屋孫右衛門:坂東弥十郎
ほか
♪内容:
上の巻、- 曽根崎河内屋の場
大阪・曽根崎新地の茶屋・河内屋の店内には遊女・小春が打ちひしがれた様子でぼんやり座っている。小春と深い仲となった紙屋治兵衛。家庭崩壊の危機に、妻おさんは小春に別れてくれるよう手紙を送り、小春本人も分かれる覚悟ではいたが、二度と会えないとなると息も消沈。そこに町人・太兵衛ら3人が小春を冷やかしにやってくる。後から予約の客が来ると、3人はそそくさと店を出て行く。予約客とは武家に変装した治兵衛の兄で、小春の人となりを探りに来たのだ。
治兵衛が手ぬぐいを頬かむりして、小春に魂を抜かれたような風体でふらふらと店先にやって来る。小春のいる店に入りたいが入れない。店内で小春が客の相手をしているのを知ると、嫉妬心から障子越しに持っていた脇差で突く。兄は弟のその手を障子に括り付ける。身動きが取れなくなった治兵衛を通りかかった町人たちが笑いものにしていると、兄が店先に出て、彼らを追い払い、弟を店内に引き入れる。小春と思いがけぬ形で対面する。兄は二人をきっぱり別れさせるために、互いに交わし続けた起請文を捨てさせる。既に、おさんからの手紙を見ている小春はやむなく別れるつもりでいた。そのため治兵衛には心変わりしたと見せ掛け、彼が得心するよう仕向けた。うっかり、おさんからの手紙を孫右衛門に差し出してしまった小春。手紙を見た孫右衛門は、小春の覚悟を知ると、弟を引き摺るようにして連れ帰る。それを見送る小春。
中の巻、-
天満御前町 紙屋内の場
その10日後。妻おさんが店じまいをしている店内で、治兵衛は炬燵に足を入れ、眠っている。そこへ兄と叔母がやって来ると、起き上がり仕事の振りをする。叔母は小春のことで治兵衛を責める。妻は健気にも実母より夫の味方をし、うまく二人を帰す。しかし、小春が別の男(太兵衛)に身請けされるという噂を聞くと、おさんは自分が送った手紙で夫と別れる決心をした小春が素直に身請けを聞き入れるとは思えず、自殺もしかねないと心配する。義理を感じた妻は金を工面して彼女を身請けし直してやろうとする。自らの着物まで質に入れるつもりだ。そこへおさんの父・五左衛門が怒ってやって来る。治兵衛に去り状(離縁状)を書けと迫る。父は娘の着物が箪笥にないのを知り、激怒。二人の子供を残したまま、嫌がるおさんを実家へ連れ帰ってしまう。
下の巻、- 曽根崎大和屋の場
大和屋から出てくる治兵衛。店内で小春と会っていたが、店主には一旦は帰る振りをして店先で、小春が密かに店を出てくるのを待つ。既に二人は心中するつもりである。店仕舞いをした店先に治兵衛を探して、孫右衛門が紙屋の丁稚を連れてやってくる。隠れる治兵衛。店主に治兵衛は帰ったと聞き、不審に思いながらも兄は他へ探しに行く。こっそりと店を出て来た小春と治兵衛は闇夜に消えていく(花道へ)。
- 道行 名残の橋づくし
義太夫節が歌、三味線それぞれ3人づつで歌われる。薄暗い舞台に死を覚悟した治兵衛と小春が現れる。悲しげに橋を渡ってくる。台詞はなし。二人の心境を義太夫が代弁。
一旦、花道へ二人が移動すると、舞台が回り、網島・大長寺に舞台は移る。ここが死に場所となる。
- 網島大長寺の場
舞台に戻ると、二人は改めてこの世の別れを覚悟するかのように、場所柄もあってか、互いに結った髪を切り落とす。小春が帯をほどき、治兵衛がそれで首を括るつもりで準備を始める。しかしなかなか死に切れない。小春は脇差で自分を突かせようとする。が、治兵衛の手はすんなりとは小春を突けない。もつれ合ううちに脇差は小春の体を貫き、彼女は息絶える。その死に顔をなんとも言えない気持ちで見つめる治兵衛。あの世で結ばれることが出来るという喜びも混じる。首を括る帯を手に、今度は自分の番だ、というところで幕となる。
♪感想:
いわゆる義太夫狂言。江戸時代・享保5年(1720年)10月にあった心中事件をモデルに書かれた。
題名から想像されるように、陰気なストーリーではある。
最初から治兵衛は青白い化粧で、いかにも顔色が悪そう。恋の病か、あるいは死期が迫り死相が現れたか。
可哀想なのは残された二人の子供。死にいく二人にも、死んでも残された人々に迷惑をかけることに違いは無く、申し訳ないという気持ちがあるが、もう死ぬしか道がないほど切羽詰ってしまっていた。
妻おさんは小春のせいで夫が浮気をしたにも関わらず、身請けを覚悟した小春の命を心配し(自殺するのではないかと)、自分の夫に更に身請けし直させる金まで用意しようとする。その後の自分の立場も考えずに。小春が自分の家に入ってきたとしたら、自分は乳母ということにしようとまで言うほどの健気さである。
不倫の末、心中するという当時としても(おそらく)ショッキングな事件が起きて間もなく、この演目が書かれたという。それほどに江戸庶民を惹きつけるメッセージ性を作者は感じたのであろう。
歌舞伎は今でこそ古典芸能であるが、当時はリアルタイムな現代劇でもあったわけだから、世相をすぐに舞台に反映させ、客を引こうという商売根性が感じられる。当時の世相が感じられる舞台であった。
♪参考資料: 歌舞伎ハンドブック(\1,500 三省堂)
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更新日: 02/07/06
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