太陽同期軌道と地球の影


● (No.682) 太陽同期軌道と地球の影 (2010年10月25日)
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前回、『FO-29 illumination』という題で FO-29 の蝕(食)の記事を書きました。
これに先立ち、2008年8月に JE1CVL局が『太陽同期軌道と地球の影の巻』という
題で 非常にわかりやすい記事を書かれています。ここでそれを紹介いたします。


【中学生に CubeSat を解説】『太陽同期軌道と地球の影の巻』by JE1CVL

 http://blog.goo.ne.jp/je1cvl/d/20080816
 http://blog.goo.ne.jp/je1cvl/d/20080817
 http://blog.goo.ne.jp/je1cvl/d/20080818
 http://blog.goo.ne.jp/je1cvl/d/20080819
 http://blog.goo.ne.jp/je1cvl/d/20080828


 前提:「DO-64 (Delfi-C3) は太陽同期軌道に近い軌道」
(今回は中学生の翔 (しょう) 君に登場していただきます)


「おじさん、地上は夜でも人工衛星には太陽の光が当たるってことあるの…」
「あるよ、
 翔君は夕方に空高く飛ぶ飛行機がキラキラ光っているのを見たことがあるかなぁ?」
「はいあります。その時太陽はもう見えなくて薄暗かったけど…」
「そうなんだ、高いところ、つまり地上からうんと離れたところには太陽光線があるっ
 てことなんだが、高い所を飛んでいる飛行機からは太陽が当たっているまだ夕暮れの
 地上が見えるということだね。それは飛行機に太陽光が当たっているということさ」
「衛星は飛行機よりはるかに高い所を飛んでいるからうんと遠くの光りが衛星に当たる
 ということだね」
「地上は夜でも高度が高いから、うんと遠くの昼間が見える…」
「そう、翔君そのとおり!」

「ここに地球儀があるからこれで説明しよう」
「この地球儀、実際の地球のどれくらいの大きさなの」
「そうね五千万分の一だから 500q が 1p、日本列島に物差しを当ててみると 4p で
 2000q だからだいたい合ってるね」
「ところでおじさんが良く言っている低軌道衛星って、どれくらいの高さを飛んでるん
 でしたっけ」
「そうだね、だいたい 500q 〜 800q くらいかなぁ、1500q くらいのもあるけどね」
「それで光りは…」
「地球儀を北極と南極で止めている『半円の支え』なんだが、これがポイントだよ」
「いいかなぁ、この『半円支え』を衛星の軌道に見立てるんだ、アシスタントの持って
 いる親指の方向、物差しを当てている方向だよ、こっちから太陽光線が来ているとし
 よう、この面がいつも太陽に向くようにするんだ、これを『太陽同期軌道』と呼んで
 いるよ」
「ふーん、何かよくわかんないけど…」

 (JE9PEL/1注: 太陽同期軌道とは、『衛星の軌道面と太陽方向が常に一定になる軌道』
 のこと。この写真では、太陽光線は物差しを当てている方向、つまり写真の手前から
 常に一定の方向から来ていることになる。[補足1])


    


「実際、この『半円支え』はあるわけではなく、衛星は『太陽同期軌道』を飛び続け、
 この衛星軌道の中を地球は動いているわけだけよね、その動き、つまり自転で太陽に
 背を向ければ夜になるけど、衛星は太陽の光を受けて回っている、というわけさ…」
「地球が影になることはないの」
「いい所に気が付いたねぇー」 [補足2]
「そうなんだ地球が影になるのを最小限に抑える軌道にしてるんだけど、衛星の軌道が
 低いとどうしても影になってしまうんだね。影になることを『食』と言っているよ」
「太陽電池だけで動いている DO-64 (Delfi-C3) の場合、太陽が当たるとビーコン
 (145.870MHz±5KHz) が聞こえ始めるよ!」
「物差しを当てて見てるけど…」

「うん、1p の所が地表から 500q、2p の所で 1000q だから、だいたいこの間だね、
 地表のすぐそばを飛んでいるんだねぇ、静止衛星の高度 36,000q だと 72p だから、
 この 30p の物差し 2倍に、足すこと 12p のところを飛んでいるということだね」
「静止軌道と言うんだが、地球からこれだけ離れると地球が影になることは少ないみた
 いだけど、それでも影になることはあるようだね」
 (JE9PEL/1注:下記紹介PDF(3) によると、静止衛星の蝕の時間は約69分)

「地球を回る衛星の動きは面白いですね」
「そうだね、衛星に限らず天体の動きは物理学で解明されていると言って良いだろね。
 いろいろな法則などもあって奥が深いけど、翔君も大いに勉強してみるといいよ」
「ところで、衛星を追尾するソフトを多くのアマチュア局が使っているけど、それらの
 ソフトはほとんど地球の昼と夜が表示されるようになっているんだ。それを見ながら
 衛星の軌道を追うと、衛星に光が当たっているかどうかすぐわかるよ」[補足3]
「では、また一緒に勉強しよう」…… (この巻終わり)


【おさらい衛星教室】『食』

「高度 36,000q の静止衛星も地球の影になる時がある」と前に書きましたが、冷静に
考えて見ると当然でした。地球を回っている一番大きな衛星は月で、378,000q 離れて
いても地球が影になることがあるわけですから。月に届くはずの太陽光を地球が遮って
しまう。つまり「月食」です。

話は DO-64 に戻って、すでに皆さんお気付きのことと思いますが、季節と申しましょう
か、地球の公転の関係で 日暮れが早くなると、夜のパスでは DO-64 へ太陽光が当たる
時間がわずかになってきます。今夜 21:39(2008/8/28) のパスの場合、太陽はアフリカ
セネガル、例のパリダカのダカールの真上でした。(ダカールがランチタイム)

DO-64 と言えば、太陽同期軌道で何周目かにはほぼ同じ所に戻る軌道を描いていますが、
太陽は早く西の方へ行ってしまうということになります。地球の公転、つまり「季節に
よって地球への太陽の当たり方が違う」のでこのようなことになるのでしょう。[補足4]


[補足1]
        

    地球を回る衛星の軌道面全体が1年に1回転します。軌道傾斜角90度の完全な
    極軌道では衛星軌道面の回転は起こらず、90度より大きな軌道傾斜角の場合
    に地球と同じ方向に回転します。



[補足2]
    円弧AB が地球の影になっているところ。

  

[補足3]

黄色い円が DO-64 の可視範囲、この円が地上日照を示す白い線にかかると衛星に
太陽光線が当たり始める。(ビーコンが聞こえて来る。)

    


[補足4]

CALSAT32 で太陽を出して日照エリアを出し、それと DO-64 のフットプリントが重なる
部分が衛星に太陽が当たっているということですから、その時間内は交信可能です。
そのようにして追っていました。ところが1ヶ月くらい経って季節が移り (確か9月頃)
関東でも日暮れが早くなって来たら、日照とフットプリントの重なる時間がだんだんと
短くなって来たのです。 (衛星は周期的に変化はするが 同じ軌道を飛んでいるのに…)
最後には重ならなくなりました。



《紹介》by JE9PEL/1

人工衛星の代表的な軌道(1)(2)
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/typical_satellite_orbits1.html
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/typical_satellite_orbits2.html

地球と太陽の位置関係と季節
http://www.j-muse.or.jp/rika/common/season/earth_sun.html

人工衛星の蝕の時間について
http://www.ne.jp/asahi/hamradio/je9pel/syoku.pdf

中学生のための「人工衛星」の解説
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr365.htm

FO-29 illumination
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr681.htm

FO-29 日陰率計算
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr683.htm

太陽同期軌道
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr704.htm

地球の陰
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr705.htm

春分点
http://wakky.asablo.jp/blog/2011/07/02/5939720


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