コラム・58 遠出の楽しみ
      
いつも葉刈りをしてくれる庭師が近くの家で仕事をしていまして、道端での立ち話に。「モミジをぜんぶ落としてくれと言われましてね。これからがキレイになるにね」って嘆くんですよ。
街路樹の枯れ葉でも、毎日掃いている人がありますね。その上に念を入れて木を揺すって、枝についている枯れ葉まで落としたりしてね。
街路樹は町中のわずかな自然ですから、あの落ち葉をカサコソと踏んで歩くのは素敵だし、いわんや、わが庭のモミジの落ち葉は、愛しくキレイですのにね。
都会暮らしが長くなると、枯れ葉がチリではなく、ただのゴミに見えてくるのかもしれないですね。
こんな時には、呟いてしまう。「きっとあの人はお菓子の吹き寄せも、汚く感じるのかなぁ」なんて嫌味をね。
わが庭の落ち葉を汚く感じる人でも、名所にモミジ見物にでかけているんですよね。
そんなことを言っても、遠出して見るモミジは素敵ではありますがね。こんなことを毒づいているけど、ボクもやりますね。
     
神戸の市街地から、標高800メートルあたりの六甲山のオネを越えて、有馬温泉までのハイキング・コースがあります。山のオネから温泉町までの下りの谷は紅葉谷の名のとおり、秋にはモミジの名所になります。この渓谷は突っ立った六甲山のオネが強い風をさえぎり、紅葉、黄葉がキレイなんですよ。強風が吹くところでは、葉が風に揉まれて赤茶くスガ(素枯)れてしまいますが、山が屏風になって強風をさえぎると、キレイに紅葉しますもんね。
こんな素敵な紅葉、黄葉が身近にあるのに、ボクは信州のどこそこの黄葉はスゴイとか、東北のどこそこの紅葉は素敵とか言って、出かけています。
遠出からかえってきて、わが家の雑草園にある一本だけのハゼが、キレイに紅葉しているのを見て、「浮気してきてゴメン。君もキレイだよ」なんて弁解したりしてね。
ことほど左様に、旅行先で見た紅葉、黄葉がステキに見えるのは、どうしてでしょう。
       
有馬温泉の近くに住んでいる知人が、鬼怒川温泉に行ってきて、「良かった、よかった」と感激していましたが、この人、有馬温泉へは行ったことがないそうで。こんなことって、よくありますね。
東京に親の代から住んでいて、親戚がやってきたので、都内観光のはとバスに乗って、はじめて東京見物をして感激したなんて、笑えるような話を聞きますもんね。
だから、わが庭のモミジを取り去ってもらって、遠方へ紅葉狩りに出かける人を、一概には笑えない。ボクも似たようなことをしているもんね。