コラム・37
     
語源のはなし
いまだに、ハリウッドを聖林なんて書く人がいますね。あれ昔の宛字なんですよ。語源は樫の木のハリをホーリー(聖)と読み間違えた英語通がいたらしくて、樫林を聖なる林と誤認したあげくの宛字。
もう一つの困った宛字は、パイプ・タバコを吸う道具のパイプ。ええ、何故か古くは、マドロス・パイプっていっていたようですが、あのパイプは「バラの根っこでできている」と頑なに信じているいる人がいまだにいるんですね。先日、あるパンフレットを読んでいたら、「タバコを吸うパイプはバラの根っこで作られる」っていうのをペースに、蘊蓄をかたむけて、エッセイを一話かき上げているのにであいました。あれ、プライアーでできているのですが、プライアーは英語でバラの一種らしいですね。でも、パイプを作るプライアーはスコットランド語だそうで、これは樫の一種なのは今や常識。人には、たまには思い違いがあるものですが、思い違いでエッセイを一本とは気の毒。
      
語源といえば、馬鈴薯(ばれいしょ)ってのもわかりませんねぇ。ジャガイモのことを、どうして馬鈴薯なんて言うんでしょうねぇ。
語源辞典を引いてみても「馬鈴薯はジャガイモのこと」としか載っていませんね。そして、ジャガイモの語源はジャガタラ芋で、「ジャワの旧名のジャガタラから伝わってきたから」と書いていますね。ジャガイモはアンデス原産ですが、どうしてジャガタラなんて名前をつけたんでしょうね。その由縁が書いてありません。
ジャガイモが日本に伝わったのは、南米からヨーロッパに持ちかえられてから、すぐに長崎へ持ち込まれた、ってのが通説のようですよ。
ジャガイモは、アッと言う間に日本国中に広まったらしい。アッと言う間に津々浦々にひろまったので、各地にとんでもない方言といいますか、独自の呼び名ができたらしい。柳田国男氏が採集したジャガイモ名の方言は数百あります。その中で外国渡来の植物であるとしていると思われる物は「カライモ、オランダイモ」とかがありますが、この数百には、ジャガタラとか、それが訛ったと推定できる方言は、まったくないようです。
       
一説では「江戸で商品として売り出すときに商人がつけた名前である」があります。各地からの出身者は、それぞれのお国言葉の名前がありましたから、どこか特定の地方の方言で売りだすのはまずかったのでしょうね。そこで、みんなが耳に心地よい新語をつくりだしたらしい。耳に心地よい音の新語として、お祭りの鉦のお囃子音、ジャンガラ・ジャンガラをとったとか。ええ、ジャンガラはみんなが耳慣れた馬の鈴の音でもありました。これから気の利いたのが雅語として馬鈴薯を作字したらしい。ジャンガラ芋は日本人得意の短縮で、ジャガ芋になったらしい。上品をこととする山の手族は雅語の馬鈴薯を愛用してきたとか。
この説だと、意味不明の馬鈴薯の名前の由来がすっきりとしますね。
       
日本人は新語つくりの天才でしょう? いまでもね。ジャガイモに数百も名前をつけたのは昔から命名の名人が多かったからでしょうね。
今や、携帯電話なんて言う人はなくて、みんな、ただのケイタイですもんね。エヘッ、関西ではケエタイなんて言う人までありますもんね。
マッチの方言もスゴかったらしいですよ。これも数百を数えるらしい。中でも傑作なのは、ドウヒ。これ「道中火打」の短縮形。これなんかは幼児語がおこりだと思うなぁ。幼児は大人の言葉全部をおぼえきれない時には、印象のつよい音、発音しやすい音だけの短縮語をつかうでしょう?
ボクらヂヂ・ババは家の中では、孫が帰った後、その幼児語を真似てよろこんでいるもんね。ボク達夫婦間では、「来る、行く」をゴッチャに使うのがはやっています。
ええ、孫の幼児語の口真似。