コラム・29
   
敬語の使い方のイヤラシさ
標準語の「する」だけでも、いろんな言い方があります。「なさる」、「なさいます」、「遊ぶ」 「遊ばします」、「いたします」、「するんです」、「するのでございます」、「しますんです」、「いたすのでございます」、「するの」、「するのよ」、「するわ」、「するわよ」、「するんだわ」、「するんだわよ」「してよ」、「しやがる」。
これらの中には本来は丁寧語があります。ええ、敬語として使われているものもありますね。
ところで、少し前のことですがNHKのニュースで「天皇陛下が京都に来ました」って言葉遣い。天皇は最高の崇める表現、陛下は敬語。ですからダブル敬語。だのに動詞は「来ました」はおかしいですよね。
「来た、来ました」は犬とか台風に言う言葉ですよね。これがおかしいのは、陛下と「来ました」との間に「○○記念行事にご参加のため」をいれれば、こんなことになります。「天皇陛下が○○記念行事にご参加のため京都に来ました」でしょう。
これは文章ですから、それほど誤解することはないように思いますが、これを耳にすると話し手が京都に来たようにとれますよ。ええ、捻れ言葉。
日本語は誰がっていう主語と、したとの動詞を離して使いますから、動詞の「来ました」は「来られました」と続かないとややこしくなりますよ。
ええ、べつに尊敬するとか、しないとかの問題ではなくね。
「来た、来ました」は犬に使うと言いましたが、今や、ペットブームの時代ですから、犬にゴハンをあげるってつかうひとがありますがね。いやー、料理番組のなかには「お鍋にお醤油をいれてあげましょう」なんて使う人もいますね。
これはバカ丁寧語なんでしょうが、待遇表現からいうと、聞き手がめんくらいますね。
         
はじめに標準語には丁寧語が多い話しをしましたが、どうして多いのかといいますと、標準語のもとは東京方言のなかの山の手言葉と商人のことばだそうです。
山の手言葉には「ざあます」なんて、話し手が、いかに上品であり社会的地位が高いのかを誇示する言いまわしまでありますね。ですけれども、ちょっとおかしい「おコーヒー」とか「おケーキ」なんて口走っても、相手にバカにされるだけで、たいした問題がおこるわけではありませんよね?
もう一つの語源の商人言葉は、相手を心地よくする言葉ですから、いずれにしても、丁寧語でそれほど深刻な事態が生じることはありませんねぇ。
ところが、敬語・謙譲語は使いまちがえると、相手のプライドを傷つけますから、深刻な事態が発生することになりますね。
      
はじめのNHKニュースの言葉ですが、最近は陛下には荘重な敬語をつかいはじめましたね。「来ました」には抗議が殺到したんでしょうね。
ですが、戦前みたいにあんまり荘重な敬語をつかうのは、或いは使わなければ不敬罪だなんていいだすと、うっとうしいですね。
「ご苦労さんでした」は目上が目下にいう言葉だそうで、目下が目上にいうのは「お疲れさんでした」なんだそうですね。敬語・謙譲語はイヤラシイですよ。
「今の若い者は敬語の使い方をしらない」って言うけれど、敬語は封建制の上下関係の言葉ですよ。日本は人類史上はじめての階級制度のない社会(モノクラス社会)なんて大げさなことを言わなくても、いまのような階級制度のない社会って気分がいいですよね。
敬語でなくても丁寧語と、しっかりした待遇表現さえあれば、それにこしたことがないと思うんですがね。