イソップの宙返り・244
  
羊飼と肉屋
羊飼と肉屋が同じ道を歩いていますと、一匹の仔羊が群れからはぐれて置き去りになっているのを見つけました。二人は仔羊のところへ飛んでいきました。
仔羊は二人がどのような目的で連れて行くつもりか知りたいと思いました。
当時は動物も人間と同じ言葉を話していましたので、仔羊は二人に職業を尋ねました。
二人が羊飼と肉屋だと聞くと、羊飼について行くことにしました。
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アラビア語には魚をあらわす言葉は一つしかないそうですね。ええ、タコもイカも同じ魚。ところが羊の放牧民には羊の呼び名は種類に応じて、200以上もあるそうですね。
海から離れて暮らす人々は魚は食べませんから一種類で間に合うんでしょうし、羊肉をほとんど食べないボクらは、ラムとマトンの区別があれば間に合いますね。
この区別までエエカゲンでして、むかし北海道観光にでかけて、ジンギスカンを食べながら「このマトン、おいしいね」と言ったら「これはラムです」なんて、たしなめられたもんねぇ。
     
羊の話と言えば、牧羊がレバノン杉を荒らしてしまった話。
レバノンスギは地中海航海のための造船材だったと教科書で習ったことがあります。今は砂漠ですねぇ。あれは古代からの乱伐によって減少したらしいですが、再生しなかったのは牧羊が原因だと聞きます。羊は地表の若い草をとくに好んで食べるだけに、杉の実生の新芽を食べてしまうらしい。
しかも、集団をつくってリーダーに従って行動する習性があり、傾斜地では低い所から高いほうへ移動するクセがあるとか。レバノンでは杉の森のある丘の上まで、群れで出かけて、実生の新芽を食べたから乱伐のあとの再生が断ち切られたと言いますね。
今でも、レバノン山脈の高いところには、ささやかにレバノンスギが群生しているところもあるようですがね。羊も登らなかった高山にね。
レバノンには高山があるそうですよ。レバノンは高山の万年雪の白・アラム語のラバンlaban(白)に由来しているそうですからね。
        
造船での乱伐では、スペインの無敵艦隊が有名。あの無敵艦隊を造るためにカステリア地方の山が禿げ山になってしまったそうですね。そのセイか、スペインのマドリッド周辺には森林と思われるものが見えません。ですが、近郷への観光バスに乗って2時間もすると森林にであいまして、「ああ、これが無敵艦隊を造った大森林の名残か?」と感激しました。
高さ15メートルもある樹木が茂っていまして、密生している木は黄松(イエローパイン)だとガイドは説明していましてね。
「あのイエローパインが無敵艦隊を造った船材か?」と感激して、帰ってきてから調べると、大型戦艦を造ったのは主として杉だったようですね。
イエローパインも松ですから乾燥した荒れ地でも育ったのでしょうが、杉の大森林は再生できなかったのでしょうかね。
      
そう言えば、松は実生の新芽でも羊には食べられないのかも知れませんね。ニホンカモシカも実生の新芽を食べてしまうらしいけど、あれは植林の杉だけなのでしょうかね。
それにしても、人間の乱伐で砂漠化してしまった土地は多いですね。
シナ北部の黄土地帯も、かっては大森林だったと聞きますね。天国の別名に黄泉(よみ)って言葉がありますが、あれは今は黄土地帯になっている大森林の伏流水の豊かさを表現する言葉だったそうですね。
今や、「北京も数十年内に黄土の砂漠に覆われる」と聞きますが、松の実生でも植えることはしないのかなぁ。万里の長城周辺は、長城を造るについて焼いた煉瓦の燃料採取で禿げ山になったと聞きますね。
儒教では祖先崇拝はしても、「子孫に美田は残さず」らしいけど、「少しは子孫のことも考えては?」と思うなぁ。
      
よそのことはよく見えるんですが、日本は、ここ50年、「一億火の玉」で土建屋になって国中を掘りかえして、まだその上に大借金国家にしてしまったもんねぇ。「子孫に美田は残さず」どころか、「子孫に荒廃と借金を残す」になってしまったなぁ。よそのことばかり言えないなぁ。