イソップの宙返り・217
     
農夫と木
或る農夫の土地に木が生えていました。この木は実をつけることもなく、ただ蝉や雀がやってきて、喧しく鳴くばかりでした。
農夫はこの役立たずの木を伐り倒そうとしました。すると、蝉と雀が、「憩いの木を伐らないでほしい。これからも木にやってきて楽しい歌を聴かせてあげるから」と訴えました。
農夫は、これに耳をかさないで、なおも伐ると空洞が空いてミツバチの巣と蜂蜜が出てきました。農夫は、これ以後この木を聖木として崇めました。
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エコロジーは申すまでもなく、環境と生物との相互関係を調べる学問のことですね。
家計を意味するギリシア語のオイコスoikos、ええ、エコロジー。これと学問を意味するロゴスlogosを合成した造語。
この語は自然科学の領域を超えて、人間の生存条件を考える学問になっています。
ところで、人間の生存条件って云うと、都会生活者は都市環境のことを、いつも考えています。
そんなことから、東京は都心に巨大な緑地があるんですねぇ。あれは羨ましい。
東京駅を降りて、目に立つのは皇居の森。
昔、あそこを都電に乗って通っていた時期がありまして。40数年も前の1960年ごろでしたが、一緒に乗っていた友人が「天皇一人で、あんなに独占することはないだろう。あれを団地にしたら庶民は、どんなに助かるか!」って言い出しましてね。ええ、彼は天皇制反対論者。
「あの森のおかげで、一千万都市が窒息しないですんでいるんじゃあ?」ってボクが言い始めると、さすが、その後人権派の弁護士として活躍した人だけあって、「なるほど」って感心してくれたことがありました。
        
城下町には、どこでも都心に緑地があります。城下公園とかね。
東京は、典型的な城下町。都心に緑地が広大に残っていますねぇ。あれは何時行っても羨ましい。でも、皇居を団地開発することを思いつく人があるぐらいなんですから、封建制の残存物でもありますね。
18世紀の江戸は世界最初の百万都市でした。でも、町人たちの暮らす高密度居住地は2割だけ、武家地が6割、残りは寺社地であったそうな。
えへっ、江戸捕物帖には、そんな風に書いてある。
武家地と言っても、下屋敷なんかは囲っただけの森林と畑地。これも江戸捕物帖で知ったことですが。
自動車の排気ガスのない時代に、これだけ緑地があれば密集地の町人も窒息はしなかったでしょうねぇ。
でも、一千万都市になった今は、武家地は無く、旧離宮だけが緑地なんですね。
これ日本の都市だけが緑地が少ないのかと思うけど、欧米の大都市でも緑地って、そんなに大きくはないですねぇ。
ええ、内陸部にあるパリなんて空気は悪いですもんね。
東京から行った人は、「ニューヨークは緑が多い」なんて言うけど、大都市は、どこでも緑は少ないですよ。
   
ボクは神戸生まれの神戸育ちですが、神戸は、とりわけ都心に緑地がない町でしてね。
裏山の六甲山の森が深いおかげで、何とか窒息だけは免れていますが、まあ、都心には緑が乏しい。
これは、どうも神戸が城下町でなかったことによるらしい。
だいたいヒト族は群れをつくって暮らす動物習性をもっているからと言っても、百万人とか一千万人が集団になって暮らすようには、なっていないような気がする。
それにしても、克服したはずの封建制の名残で、やっと窒息を免れているなんて、何とも皮肉。