イソップの宙返り・194
      
カラスの物真似
カラスは人間の占いの前兆になり、未来を予示すると云われていることを羨んだハシボソカラス(嘴細烏)が、これを真似しようと、旅人が通りかかると木の上で高々と声をあげました。
旅人はギョッとして声の方へ振り向きましたが、中の一人がこう言いましたとサ。
「みんな、行こう行こう。ハシボソだ。あれが鳴いても、前兆にはならない」と
寓意・強い人と張り合っても同等にならないばかりか、笑いものになるのがオチだ。
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厳島(いつくしま)神社で行われる「御鳥喰(おとぐい)神事」は有名ですね。
飴餅(あめもち)を海上に浮かべて楽を奏すると、かならず一羽の神鳥(かんどり)がやってきてこれをついばむといいます。
神鳥(かんどり)ってカラスのことだそうですね。
同じような神事は西日本では多いそうで、こんな風にカラスによって吉凶を占うのは、世界中にある風習だそうです。
      
それにしても、日本でも、「カラス鳴き」といって、カラスが嫌な声で鳴くと死人が出るという俗信がありますから、ここのイソップ寓話で旅人が気にしているのは凶の方かもしれません。
でも、日本でも凶の予兆だけとはかぎらないようでして、民俗学の本によると、カラスは山の神のお使いで、正月11日に「烏勧請(からすかんじょう)」といって、カラスに餅(もち)を投げつける行事が関東平野ではいまだにあるそうですね。
それに、畑の中に早、中、晩3種の米を置いて、カラスがどの米をついばむかによって、その年に播くべきイネの豊凶を占う行事まであるそうです。
そうそう、岩手県遠野地方では、「烏よばり」といって、正月15日の日没前に小さく切った餅を枡(ます)に入れ、これをカラスに投げ与える行事があるそうです。
      
カラスは人間の居住地域の近くに生息しますから利口な鳥なんでしょうねぇ。
世界各地の俗信や神話などに古くから頻繁に登場します。
日本で言えば、ヤタガラス(八咫烏)。
神話に出てくる大烏ですが、神武(じんむ)天皇の東征の際、熊野から大和に入る山中を導いたことになっています。日本書紀では兄磯城(えしき)・弟磯城(おとしき)の帰順勧告に派遣されたことにまでなっています。
帰順勧告の軍使にまでなっているんですから、鳥のカラスではなくて種族のトーテムがカラスだった種族のことと考えるべきなんでしょうかね。
そうすると、子孫が葛野主殿県主(かどののとのもりのあがたぬし)とか、大伴(おおとも)氏といわれるのに繋がります。
まあ、カラス族は神武(じんむ)天皇のヤマト征服の譜代の種族を言ったようですね。
       
ところで、カラスと云えば、烏帽子(えぼし)。あれはまあ、名前もそうですが、形がカラスが伏せた形だといいますね。
烏帽子(えぼし)と書くのは、カラスが黒で、黒塗りの帽子って意味だとすることになっていますが、ボクはカラスが羽根を拡げて伏せた形から来ているという説が説得力があるように思うんですがね。
ついでに言うと、丁髷(ちょんまげ)も、カラスの伏せた形から来ているという説もありますね。そう言えば、そんな形ですよね。
確認のために字引をひくと、丁髷(ちょんまげ)は、えび折りにした髷がゝ(ちよん)に似ているところから言う俗称なんだそうですね。ええ、本多髷(ほんだまげ)って呼ぶのが正しいらしい。
        
それにしても、昔の人は優しかったんですね。カラスを神の使いなんて考えていたんですから。
今は、カラスは朝早くからガアガアと鳴いて煩いし、街角に出したゴミ袋をつついて散らかすしで、ただの害鳥。
カラス君。お互いにセチガラくなったね。