イソップの宙返り・191
     
野辺送りをする医者
医者が身内の野辺送りをしながら、こんなことを言いました。
「この人は酒を控えて浣腸をしていたなら、死ななかっただろう」と。
すると、ほかの人が言いました。
「おいおい、今ごろそんなことを言っても役にはたたぬ。それが役にたつときに言うべきだ」
寓意・人への忠告は、それが役にたつときに言うべきで、後になってのオタメゴカシは言うべきではない。
☆     ☆
オタメゴカシって言うと、転居通知に「お近くにおいでになったときには、是非お立ち寄りください」を書いてくる人が多いですねぇ。
あれを読むと日本語の慣例句ってむずかしいですねぇ。
「是非お立ち寄りください」と書いてあるから、新築の家を褒めにきて欲しいほしいんだろうと、わざわざ訪問する人があるらしい。
まあ、別に行ってもわるくはないんだろうけど、こられた方は「何しにきたんだろう?」なんてビックリするでしょうねぇ。
         
「人への忠告は、それが役にたつときに言うべきで、後になってのオタメゴカシは言うべきではない」と言えば、震災の後の活断層説。
阪神大震災の直後にマスコミが活断層説を報道したのを憶えておられるでしょう。
ボクが住んでいる東灘区には無数の活断層があると、カシマシク報道するので、あせりましたよ。
無数の活断層が書き込まれた地図まで新聞は登載していました。
神戸に地震がくるのは分かっていたなんて言う人まで出てきましてね。
「だったら、先に教えていれヨ」って腹が立ちましたよ。
それに、活断層のうえにある土地には、これからはたえまなく地震で揺れうごくというんですから、まわりは「東灘にかえらないほうがいい」と心配してくれましてね。
住んでいた敷地を手放して転居するかどうかですから、真剣。
       
でも、活断層が地震を発生させるなんて変な話でしょう?
考えてみると、今回の地震は地下20キロで発生したというんですよ。
地表にある活断層が、地下20キロの地震の原因になるなんて変でしょう?
ほとんど鯰説と同じでしょう?
あせって、文献をあさりまわりました。
それで知ったのですが地震考古学というのが、活断層説のもとになっているようなんです。
地震考古学の本を読みあさりました。ところが、地震考古学であげてある考古的資料をみて、アホラシクなりました。
地震の集中地帯の中央構造帯上には、良好に保存された貴重な考古的資料があります。
和歌山の古墳群。ところが、地震が集中したはずの古墳に、液状化の痕跡が、せいぜい二層あるだけなんですね。古墳時代から現在まで何十回となく、大地震があったはずなのにね。だから、活断層が常時地震を発生させるものでないことは歴然としていますよね?
        
ボクは、「活断層説はオカしい」と確信して、もとの敷地へもどりました。
でも、この活断層説に怯えて、転居した人も多かったですよ。
少なくとも、惑い悩んだ人がボクのまわりには多かった。
惑い悩んだ人が多かったので、兵庫県は3億円の予算で、活断層説の真偽を調査しましてね。
この結果は「活断層が地震を引き起こすものではない」ことがハッキリしました。
でも、マスコミはこの報告は無視。照れくさかったのでしょうねぇ。
しかし、活断層説の主唱者藤田和夫先生は、97年に学士会の午餐会のスピーチで、自分の活断層説は誤りであったと明言されました。
やっぱり学者はすごいなぁ。誤りをハッキリと認めるなんて、凡人にできることではないですわな。ボクは今でも尊敬しています。
それにしても、震災直後に、東灘区には活断層があるから神戸に地震がくるのは分かっていたなんて言った人達には、震災で絶望していたボク達は「おいおい、今ごろそんなことを言っても役にはたたぬ。それが役にたつときに言うべきだ」って腹が立ちましたよ。
でも、それが真っ赤なウソだとなって、今は溜飲をさげていますがね。