イソップの宙返り・189
     
猫の医者と鶏
鶏小屋で鶏が病気になっていると聞きつけた猫が、医者に化けて診察に出かけました。
鶏小屋の外から、どんな塩梅かと尋ねると、鶏たちはこう答えましたとサ。
「良いあんばいだ。お前があっちへ行ってくれれば」
☆     ☆
手術用具の取り扱い説明書だけ見て手術をした話が報道されましたね。
内視鏡手術でしたか。
やったことのない人達だけで内視鏡手術をやりはじめたのもヒドイ話ですが、あの報道では出血が止まらないのに、緊急に開腹手術をしなかったと言っていましたね。
彼等は開腹手術の経験も少なかったから躊躇したようにボクには思える。
外科の医者って最近は開腹手術をする経験が少ないといいますね。
駆け出しの外科医が手術を経験する三大手術がなくなったことが、その原因だといいますでしょう?
       
三大手術ってのは三大小手術。モウチョウ(虫垂炎)、痔、胃潰瘍。
今はこれらの病気は薬で内科的に治りますから、手術することはまれなんだそうですね。
かっては、若い外科医は、これらの小手術で腕を磨いたんでした。
小手術って言ったけど、それなりに難しい手技が必要な手術。
これに慣れていないから、今時の未熟な外科医が開腹手術をやると腹部の筋肉を切断してしまう。
だから縫合跡がチリチリになってしまうんだそうですね。
あれは筋肉を切断しないように、分けるようにすると、チリチリの痕跡が残らないものらしいですよ。
こんな開腹方法も、若いときに何十件も師匠が手をとって教えてくれないと腕が上がらないものらしいですよ。今は、こんな小手術がなくなってしまったと言いますね。
         
この小手術の経験がなくなって、一番技術低下をきたしたのが、執刀する外科医もさることながら、手術補助者の看護師。まあ、看護婦さん。
最近耳にする医療過誤に、お腹の中に鉗子だとか脱脂綿を忘れていた話があるでしょう。
ボクら素人にすれば、基本的なケアレス・ミスティクのように思いますよね。
でも、鉗子・脱脂綿を置き忘れないようにするのは、意外に難しいんだそうですよ。
ボクは手術の模様をテレビモニターで見たり、手術室のなかで立ち会った経験があるんですが、ちょっと複雑な開腹手術になると腹腔内は血の海になる。
術者は肉眼ではわからなくなります。だから、鉗子とかを手術補助者の看護師さんは、鉗子とかを復唱しながら術者に渡し、数の管理を厳格にやっています。
手術が終わってお腹を閉じるときには、忘れ物をしていないかは肉眼ではわからなくなっていますから、看護師の数の管理だけが頼りなんですねぇ。
「ハイ、もうこれで全部」って手術補助者の看護師さんが言うと、もうこれを信じるしかないらしいですよ。
看護師さんの数の確認は手順がきめられていますが、経験豊富が欠かせないものらしい。
血糊にまみれた脱脂綿なんか2枚か3枚かの区別は経験豊富な看護師さんにしかできないいんだそうです。
         
ボクらは腹腔内に鉗子や脱脂綿を置き忘れてくるなんて、ダラケているって思うけど手術補助者の看護師さんは重要なチームの一員ですから、これが頼り。
何しろ、術者は何時間もの手術で疲労困憊してしまっていますからね。
気を抜いてダラケているから過誤が起こるとは限らないみたい。
先日、内科医が自分の父親の手術を親友にたのんだのに、鉗子の置き忘れ事故がおこったもんねぇ。
執刀した、その親友にしたら一所懸命やったはず。
なのに事故はおこった。
         
話の本論の猫の医者の話に戻りますが、どうしてもやらなければならない手術で事故が起こっても運命だとあきらめるしかないけど、そんな必要のない定期検査で過誤に遭って死ぬ人がありますよね。
どこも悪くないのにやる定期検査って、なかには病院だけの都合の予定手術者数の数合わせなんてのもあるらしいから、検査で死ぬのはやりきれないなぁ。
ボクみたいに、病院に近づかない主義の人って、最近は増えているみたい。
むやみに危険に近づかないのも、生きる知恵の内かもしれない。