イソップの宙返り・163
        
アブとライオン
アブが、ライオンのところへやって来て、こう言いました。
「オレはお前など、ちっとも怖くない。一体お前の何処が強いのか。お前の爪や歯など、女が口答えした時に、役に立つくらいのものだ。繰り返し言うが、俺はお前よりも、ずうっと強いんだ。疑うなら、俺と勝負しろ」と。
アブはこう言うと、進軍ラッパを吹き鳴らし、ライオンに挑みかかりました。
そして、鼻の穴など、毛の生えていない所を、刺しまわりました。
ライオンは、アブを叩き潰そうと、鋭い爪を振り回しましたが、そのたびに、アブはさっとよけました。
アブは、こんなふうにして、ライオンを打ち負かして、勝利のラッパを響かせて、飛んでいっているうちに、突然、クモの巣に絡まってしまいました。
アブは嘆き悲しんでこう言いましたとサ。
「ああ、なんてことだろう。百獣の王に勝ったのに、こんなちっぽけな蜘蛛に、命を奪われるなんて・・・」
☆     ☆
「お前の爪や歯など、女が口答えした時に、役に立つくらいのものだ」なんて、アブのセリフは面白いですねぇ。エヘッ!
ここまで言われると、ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)の話をせざるを得ませんね。
いえ、ボクは家庭内暴力に特に詳しいわけではありませんで、数件のケースを扱ったていどの知識なんです。ですから、今から申しあげますのは、すべてのケースにあてはまる話ではありません。
         
全体的な傾向として、家庭内で暴力をふるう男って、社会的に認められないで、焦り苛立って弱々しい男、特有の現象だと言われています。
男って女に「オレが食わせてやっている」「女はバカだ」なんて優越感をもっています。
いえ、正確には、「そんな男もいる」なんですがね。
ところが、女に何かのはずみで反抗されると、この優越感を否定されるのですから、カーッとなるんですねぇ。
        
ボクが調停委員として出会った家庭内暴力のケースでは、弱々しい男でもなく、社会的に認められたカネ稼ぎに秀でた男でした。
その一つのケースは、年収1千万を越える棟梁でしてね。
腹を立てると猟銃を持ち出すんです。実の父親まで駆けつけてきて、意見するんですが治らない。
何回も調停をやっているうちに、「これは病気ではないのか?」って疑いはじめましてね。
子供が二人もいたんですが「そんなに気に入らない女房なら、3千万円で別れられるなんて安いものだろう?」なんて、ガラのわるい説得で、離婚が成立しました。
        
ええ、家庭内暴力の中でも凶暴なのは、どうも病気らしい。脳のね。
脳の大脳辺縁系には扁桃核ってのがあるそうで、扁桃核は攻撃心とか好き嫌いとかの感情を生み出しているとか。
男の扁桃核って寝ていても、しっかりと活動しているんだそうです。
そう言えば、夜中に突然目が覚めると、何やらむしょうにカミさんに腹が立っていることってあるんですねぇ。何で、腹が立っているのかわからない内に数秒たつと、何で腹が立っていたか忘れてしまっているんですねぇ。
あんた、こんな経験ない?
あんたが男なら、こんな経験あると思うよ。
       
こんな変な感情が数秒でおさまるのは、大脳新皮質の中の前頭葉の理性ソフトがランするかららしい。
ところが、前頭葉の理性ソフトは時としてフリーズするんでそうですね。
ええ、理性ソフトがかく乱すると、扁桃核の攻撃心を暴走させてしまうらしい。
暴走を止めるソフトって、極めて高度の能力がいることは、パソコンを扱い慣れているあなたならご存じのとおり。
エラー・チェックは、動かすソフトの10倍ってのが常識ですね?
ところが困ったことに前頭葉の理性ソフトは人類としては、新しいだけあってバウを起こしやすい欠陥ソフトだといいますね。
ええ、発売されたばかりのウインドーズみたいにね。
          
だから、扁桃核の攻撃心が暴走しはじめて、回復不能になると、もう救いようがなくなるものらしい。
だから、あんなにマジメで、カネ稼ぎのいい立派な男を狂わせるのは、「怒らせる女がわるい」わけではなく、前頭葉の理性ソフトの欠陥から来る、まあ、一種のビョウキ。
女の心構えの問題ではなく、逃げるにしかず。
        
でも、夫婦げんかで、「皿を3枚投げたら、1枚投げ返してきた」、なんて女が言うのは、男の精神病ではなくて、男の正当防衛ですからね。
それに、夫婦げんかの暴言も「売り言葉に、買い言葉」なんてのが多いからね。
これは、あくまで極端なドメスティック・バイオレンスの話。