イソップの宙返り・151
           
カッパの手紙
       
旅人が、池のほとりで河童が化けた女から、遠くの妹への白紙の手紙をことずかりました。白紙の手紙を不思議に思った旅人は、ありがたい僧に相談しました。
僧が、その白紙の手紙を水につけますと、「この男の肛門を取れ」との文字が浮かびあがりました。
そこで、「この男を手厚くもてなせ」と書き替えました。
手紙を見た妹河童は、旅人に金の糞を出す犬をくれました。
旅人はこの犬の出す金で、金持ちになりましたとサ。
☆     ☆
カッパって、空想上の妖怪。身長は7,80センチ。とがった嘴(くちばし)、背は甲羅で、それ以外のところは鱗(うろこ)で覆われており、手足には水かき、腕は左右が通り抜けていて伸縮自在。頭の上には水をたたえるための皿があって、これが河童の力の源泉で、水がなくなると力がなくなる。
水中から人や牛馬を水の中に引っ張り込んで、肛門(こうもん)に手を入れ、尻(しり)玉を抜いたり生き血を吸ったりする、ってことになっています。
       
ここで、姉カッパが「この男の肛門を取れ」と書いているのは、「尻玉を取れ」とのこと。
ところが、カッパは人気のある妖怪でして、河童の素性は水の神であり、春秋に田の神と交歓して穀物の実りを約束するということになっています。
河童はキュウリを好みますが、これは水神である祇園(ぎおん)信仰に結び付いたためだそうですよ。
ええ、鮨屋ではキュウリ巻のことを、カッパって言うのはこんなことかららしい。
          
この話では、妹カッパが、旅人に金の糞を出す犬をくれたことになっていますね。
これは、カッパが水の神で、豊穣の神だとする信仰があるセイなんでしょうねぇ。
          
ついでに、柳田国男(やなぎたくにお)の民話の紹介。
大分には河童石って、川の中に大岩があるそうで、牛や馬を洗っていると、流れの中から河童の手が伸びて馬の尻尾(しつぽ)を引っ張ったとの伝説があり、こんな風に、河童が馬を水中に引き入れようとする「河童駒(こま)引き」の伝承は全国にあるらしい。
        
まあ、中には反対に、カッパが馬に引きずり出されて捕らえられ、危ういところで一命を助けられたなんて失敗譚まであるとか。
助けてもらったお礼に、魚を届けたり接骨薬や血止め薬の秘伝を伝授したとするのや、カッパが書いた詫(わび)証文を保管している家まであるらしい。
ええ、カッパが書いた証文ですから、カッパ文字で書いてあるとのこと。
「カッパが文字を書けるか?」なんてことはあんまり詮索しないほうが、愉しいんでしょうねぇ。
先年、人魚のミイラをレントゲンで透視して、猿の頭と鮭の尻尾の組み合わせだなんて発見(?)した学者がいたけど、こんな詮索もヤボ。
        
ああ、河童駒引譚は、柳田国男先生の説では、馬を水神に捧(ささ)げた儀礼の名残(なごり)だとのことですよ。
農耕社会では、雨乞いは切実な儀礼だったんでしょうねぇ。
そう言えば、雨の前に落ちるカミナリは水の神ですねぇ。
カミナリの雷光を龍が登る姿に見立てて、雷(イカヅチ)とか龍神って各地の神社名に残っていますねぇ。
カミナリは「神なり」だったんでしょうか?