イソップの宙返り・119
       
出家と盗人
法師が、道を行っておりました。
ぬすっとが、行きあいまして、法師に頼みました。
「やんごとなき法師さま、私は、どうしようもない悪人でございます。何とか、御祈りで私の悪心を翻して、善人になるようにしてください」と言いました。
「法師には、いと易いこと」とうけおいました。
        
それから、ズーッと経ってから、あの法師と盗人が行き合いました。
盗人が法師に怒つて言いました。
「あんなに頼んだのに、その甲斐がないぞ。祈らなかったのか?」と言いますと、
「私は、あの時から片時の暇もなく、あなたのことを祈ってきましたよ」と法師は答えました。
         
盗人は「あなたは出家のクセに、そら言をおっしゃるのか。あの日からは悪念ばかりが起こっているぞ」と言いました。
法師は「にわかに喉が渇いてきた」と言いました。
盗人が「ここに井戸があります。私が縄を付て、井戸の底へ入れますから、タップリと水を飲みなさい。上りたいと思ったら、引き上げましょう」と約束して井戸へ入らせました。
法師は水を飲んで、「引き上げてください」とおっしゃいました。
盗人は、力を入れて「エイヤ!」とかけ声を掛けて引きましたが、一向に上がりません。どうなっているのかと不審に思って、井戸の底を見ると、法師は側にある石に、しがみついていました。
盗人は怒って「あなたは、何とバカな人なのか。そんなことでは、どんなに祈ってくれても、効果がなかったはずだ。その石を放しなさい」と怒鳴りました。
            
法師が盗人にこう諭しました。
「だからこそ、私が、あなたの為に祈っても、これと同じですよ。どんなに祈っても、まず、あなたが悪念の石を放さないかぎり、鋼の縄で引き上げても、あなたのような強い悪念は、善人になれないのです」と。
盗人は、なるほどとわかって、髪を下ろして 法師の弟子になって、尊い善人となりました。
☆     ☆
これは、古活字版の伊曽保物語の最後の話だそうです。
この話はイソップ寓話の「罪人のために、聖者は祈る」にそっくりだそうです。
ええ、こんなこと。
罪人の頼みをきいて、聖者が罪人のために祈りを捧げました。
しばらくして、罪人は聖者のもとへ戻って来てこう言いました。
「尊師よ、私は未だに罪人のままです。あなたの祈りは何の役にも立ちませんでした」
すると聖者は男にこう言いました。
「私と一緒においでなさい」
             
 彼らは共に旅へと出かけました。ある時、金の入った袋が馬から落ちました。
聖者は言いました。
「さあ、袋を拾うことにしよう」
罪人はその金の入った袋を持ち上げようと必死になっているのに、聖者は下の端を地面に向かって引っ張り続けました。
聖者は罪人に、「どうして、あなたはこの袋を持ち上げようとしないのですか?」と言いました。
「あなたが下へと引っ張っているから、持ち上がらないのです」と罪人が言いますと、聖者が彼に言いました。
「それは正に、あなたが私にしていることなのです。祈りによって、あなたを引き上げようと必死になっているのに、あなたはいつも罪を犯して、下へと・・・ 地面の方へと引っ張るのです。もうそろそろ、私と共に努力して下さい。共に協力すれば、あなたを持ち上げることができるのです」 
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ボク達の、まあ、神道のことですが、祈りは祭りですよね。
カミの加護を祈り、怒りを和らげる、お祭り。
お祭は、みんなでやるお祈りですが、個人的な祈願っていうと、お百度詣(ひやくどもうで)は今でも、おこなわれていますね。
子供の病気回復を祈願して、寒い冬の早朝に女性がお宮で、お百度詣をなさっているのをみると、その姿そのままが神々しいですねぇ。
日本のカミは、ヤッパリ母なんでしょうか。
          
カミと言うと、母の優しさとゴッチャになってしまうのは、ボクだけでもないみたい。