イソップの宙返り・107
                
ゼウスと大地の神
ゼウスは男と女を造ると、どこで穴居を掘って暮らせばいいか教えるようにヘルメスに命じました。
大地の神は、穴を掘ることに反対しました。でも、ヘルメスがゼウスの命令だと言うと、大地の神は、しかたなく命令に従いましたが、
「では、好きなだけ掘らせるがいい。しかし彼等は掘ったことを嘆きと後悔の涙とともに返すことになるのだ」と言いました。
寓意・自然を破壊すると、嘆きと後悔の涙となる。
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極東の凡俗といたしましては・・・
イソップの時代から人間の自然破壊に警告がなされていたんですねぇ。
人類のやった自然破壊っていうと焼き畑でしょうかね。
「畑」が火篇なのは、焼き畑の歴史からだと言いますね。
         
焼き畑についで、ボクらが知っている自然破壊は砂鉄と木炭で作られる製鉄・タタラ(鑪)製鉄ですね。
ええ、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治。
タタラ(鑪)製鉄は砂鉄と大量の木炭を使います。
中国山地は、降雨に恵まれたモンスーン亜熱帯の日本でも、雑木の生育には恵まれた地域でしたからタタラ(鑪)遺跡がおおいですね。特に出雲。
タタラには大量の木炭を使いまから、いくら雑木の生育に恵まれた山地でも、山林の伐採はひどいものだったようですね。
タタラ(鑪)製鉄業者といいますか、技術集団ですが、彼等が出雲に渡ってきたのは、朝鮮半島で山林伐採して製鉄をはじめたものの、雑木再生力の弱い朝鮮では、すぐに禿げ山になってしまったから、移住してきたといいます。
          
タタラ製鉄のもう一つの公害は、砂鉄採取。
これは鉄穴(かんな)流しとよばれて、砂鉄を含んだ風化岩盤を掘り崩し、沈殿池中で土砂を洗い流し、砂鉄を池底中に残す比重選鉱法で採取されました。
これは下流の農業に深刻な被害を与えたようですね。
            
八岐大蛇(やまたのおろち)は、八つの頭を持つ遠呂智(オロチ)は、八つの尾根にタタラ(鑪)の炉が燃えさかる火を遠望した印象だと言われています。
タタラ(鑪)の炉は降雨による湿気を嫌って、尾根に、しかも露天でしたから、里から観ると殷々と光り輝いていたんでしょうねぇ。
          
そして、このオロチに襲われるのが稲田姫。
名前が稲田ですから、農業者が被害者であったことを象徴しています。
神話は、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が八つの酒瓶を並べて、酒に酔ったオロチを退治して、万歳バンザイの結末。
        
ですが、鉄はボク達に多大の恩恵を与えてくれたことも確かですよね。
煮炊きすることで、食べ物の範囲を拡げてくれたし、鉄製農機具による灌漑で水田を増やしてくれたことも確か。
自然破壊が文明の進歩につながったんですよね。
          
ところで、今の自然保護団体は、単純に公害企業が悪と断定してしまいますが、記紀神話の八岐大蛇(やまたのおろち)退治は、それほど単純な割り切り方はしていないんですよ。
ええ、退治した英雄が、素戔嗚尊(すさのおのみこと)。
       
神話の素戔嗚尊って、こんな人。
天照大神(あまてらすおおみかみ)の弟で、粗暴な神。
素戔嗚尊は天津罪(あまつつみ)とよばれるさまざまな乱行を重ね、ついに天照大神は天岩戸(あめのいわと)に隠れ、全世界が暗黒となります。
この罪により素戔嗚尊は神々に追放され、根の国に赴くことになります。
神話では、天上、中津国、根の国の三つに分かれておりまして、根の国は、まあ、地下の国。冥宮。
八岐大蛇(やまたのおろち)退治は、根の国に行く途中の出雲国での出来事。
         
記紀神話に書かれている素戔嗚尊は、一人の人格ではなく、複数の国ツ神を象徴すると言われていますが、現世である中津国の支配者ではありません。
タタラ(鑪)製鉄公害を糾弾したのは、いわば闇の支配者なんですね。
これは、記紀神話では、タタラ公害を単純な悪とはきめつけていないように、ボクには思えるですが。
でも、イソップ寓話の「しかし彼等は掘ったことを、嘆きと後悔の涙とともに返すことになるのだ」は身にしみますねぇ。