イソップの宙返り・99
         
旅人とプラタナス
夏の盛りの昼下がり、旅人達はぐったりしてプラタナスの木陰で、寝そべっていました。
「このプラタナスは、役に立たない木なんだ。実も付けないし」と言い合いました。
すると、プラタナスは、こう言いましたとサ。
「恩知らずどもめ。私の恩恵にあずかって日陰にいる今でさえ、私を用なしと呼ぶのか」
寓意・人に親切をしてもらっても、その善意を理解できない人がいる。
☆     ☆
極東の凡俗といたしましては・・・
エエー、かく言う私も、ひとの善意を何時でも理解してきたか、というと自信のないほうでして、恥ずかしいから、木の話にかえようっと。
              
プラタナスは鈴懸木(スズカケノキ)ですねぇ。
鈴のように球形になって垂れ下がるのは、痩果(そうか)が多数集まってできる集合果ってものらしい。
プラタナスの名前はギリシア語の幅広いを意味するプラトス(platos)に由来するとか。
そう言えば、葉は目立って巾広いですねぇ。
古代のアテネにはスズカケノキの並木道があって、哲学者が木陰で語ったそうです。
まあ、銀閣寺の哲学の道って姿だったのかなぁ。
           
ところで、日本でも街路樹にはプラタナスが多いですねぇ。
ボクらは街路樹のことを並木って言いますが、やかましく言うと、市街の並木は街路樹と呼び、北大の導入路のようなのを並木と言うらしい。
まあ、どっちでもエエことにしましよう。
            
日本の並木は、6世紀に難波の都の街路にクワが植えられたのが記録に残る最初だといいますねぇ。
桑はなかなか有用な木で、まず絹糸を作るカイコのエサですねぇ。
                
漢方薬で桑白皮(そうはくひ)と言うのは根の皮。
葉は桑葉(そうよう)で解熱、鎮咳薬。
果実は桑椹(そうじん)で、これも薬。
和漢薬屋では、果汁を麹(こうじ)で発酵させた桑椹酒を強壮酒として売っていますが、効用はどうなんかなぁ。
            
桑の実は、地方によって桑苺(くわいちご)、ドドメ、椹(じん)などとよばれて食べられているそうです。
都会に住むボクらでも、ジャムとか果実酒ではお目にかかりますね。
桑は高さ十数メートルに達し、その木材は、黄褐色ないし黄白色と美しいので昔から床柱や家具調度品に利用されてきました。
             
ところで、雷が鳴ると、「くわばら、くわばら」で難波の都ではクワが植えられたのかなぁ?
いえいえ、これはデマ。
雷神になった菅原道真(すがわらのみちざね)が、菅原家所領の桑原という土地には雷を落とさなかったからだと言うのが通説。
ええ、これもデマらしい。
本当は、雨水をつかさどる雷神と桑樹との養蚕習俗から生まれた中国の呪(じゆ)的信仰がもとらしい。
               
街路樹のことですが、8世紀はじめに平城京にタチバナとヤナギが植えられ、759年(天平宝字3年)には国道の街路樹に果樹を植えることを定めた格(勅令)があります。
平安京の街路にはヤナギとエンジュ(いまのイヌエンジュ)が17メートル間隔に植えられたとか。
エンジュは槐と書きますが、これも有名な和漢薬。槐花(かいか)、槐実(かいじつ)、槐角(かいかく)といって和漢薬。
それにクワと同じで材が床柱や家具調度に使われます。
          
この時代の街路樹は桑にしてもは槐(エンジュ)にしても、何より薬なんですねぇ。
貧しい病人には、お助けの木だったんだろうなぁ。
何とも、やさしい思いやりのある行政。
           
その後、鎌倉時代には街路樹にはサクラ、ウメ、スギ、ヤナギが、江戸時代になると、各地にマツ、スギ、ツキ(ケヤキの古名)などが植えられたそう。
イチョウとスズカケが街路樹になったのは、1907年(明治40)のことと文献に見えます。
             
これからすると、日本で、プラタナス(スズカケ)が街路樹になったのはそんなに昔のことではないらしい。
そう言えば、イチョウとプラタナスの街路樹はモダーンな感じがしますねぇ。
でも、ケヤキは最近はやりの樹のように感じていたけど、江戸時代からの由緒ある街路樹だったってことは、ボクには意外でした。
          
全国の街路樹の樹種で多い順は、まずプラタナス、次にイチョウとか。
ついでシダレヤナギ、ニセアカシア、カロリナポプラ、ソメイヨシノ、アオギリの順番のようです。
東京の銀座通りには明治のはじめサクラとクロマツが植えられたそうですが、木の成長が悪く、すぐにシダレヤナギに植えかえられたようですねぇ。
             
そう言えば、サクラとクロマツの街路樹は見たことがないですねぇ。
あれは並木としては人気があるけどね。
ああ、やっぱり街路樹と並木はちがいますねぇ。
ボクらの意識としてもね。