イソップの宙返り・84
       
オオカミとおばあさん
オオカミが腹を空かせて、歩き回っていました。
と、ある家の前にくると、家の中でお婆さんが泣き喚く子供に手こずって「泣きやまないと、オオカミにやってしまうよ!」と言うのが聞こえてきました。
オオカミは餌がもらえると期待して待っていましたが、何時まで待っても餌にする子供がもらえませんでした。
「ここの婆さんは、言うことと、やることが違う」と言いましたとサ。
寓意・言葉と行いを一致させない人がある。
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極東の凡俗といたしましては・・・
ええー、関西人は、「ドブに捨てた方がましじゃ」なんて表現をします。
無駄遣いされる税金を払うくらいなら、「ドブに捨てた方がましじゃ」って風にね。
まだ丁寧に毒づくと、「税務署にカネを持っていっても、ありがとうとも言わん。ドブに捨てても、ドブンぐらいは言うわ」なんて下の句が続きます。
          
ええー、これをイソップのオオカミじゃあないけれど、まともに取ってはいけませんよ。
よその土地の人は、関西人がベラベラ減らず口をたたくので、ついつられて「ドブに捨てるぐらいなら、頂戴!」なんて言うと、これは喧嘩になります。
         
土地ごとに、軽妙なやりとりがありますよね。
まあ、ボクらも知っているのは、「どさゆさ語」。
あれ津軽弁でしたっけ?
「どさ?」って言うのは「どこサ 行くのサ?」.の省略形。
「ゆサ」は「湯(銭湯)へ行くのサ」の、これまた省略形とか。
        
あれ、関西弁と同じ、掛け合い冗談かと思って笑っていたら、真面目な会話だそうですねぇ。
いえいえ、税金払うぐらいなら「ドブに捨てた方がましじゃ」も深刻な社会風刺なんですがねぇ。
「まあ、カネに恨みは数々ござる」は娘道成寺のセリフでしたか?
           
ところで、オオカミの話なんですがね。
オオカミって、狼も、大神も同音でしょう?
あれ語源が同じなんですってね。
日本狼はヨーロッパ狼とは別種だそうで、あんなに大型で獰猛な種類とは別のリカオンに近い動物だとか。
              
狼を山の神として祀(まつ)る神社では、古くは神そのものが狼の姿だと考えられていたようです。
東京青梅(おうめ)にある武蔵御嶽(むさしみたけ)神社では、今でも、座った狼を描いた「大口真神(おおくちのまかみ)」のお札を出していて、盗人除(よ)けや農作物の害獣除けなどになるとしたらしいですねぇ。
それに、万葉集でも「大口真神」は出てきます。古くからの信仰なんですねぇ。
          
秩父大滝村の三峯(みつみね)神社では、オオカミはお産の神さんだそうだし、それから来たんでしょうが、赤子の夜泣きを止める祈願までしていたんだそうですねぇ。
今でも、そうかも知れない。
              
静岡の朝比奈家も、山形は鶴岡の朝比奈家も、祖先はオオカミの連れてきた赤子だとの言い伝えがあるようですねぇ。
そう言えば、ジンギスカンにも同じような伝説がありますね。ええ、蒼き狼なんてねぇ。
それに、日本古代の文化を今に残すと言われているアイヌでも、狼を神とする信仰があるんですよね。
              
それにしても、日本では狼が子供を食べるなんて伝説はないそうですね。
子供を食べる話は、西洋伝来の説話らしい。七匹の子ヤギなんてね。
ヤッパリ、日本の自然は優しいのか、日本人が自然と共に生きるって思いから優しく感じてきたのか、でしょうねぇ。
狼だって優しいもんねぇ。害獣ではなくて、神さんですもんねぇ。