イソップの宙返り・82
      
オオカミと鷺
オオカミが喉に骨をたてて困っていました。
そこで、オオカミはサギに、お礼をするから喉の骨を取ってくれるように頼みました。
サギはオオカミの喉に首をつっこんで取ってやりました。
サギが約束のお礼をくれと言ったら、オオカミはこんな風に答えました。
「オオカミの口から無事に首を引き出せたことを幸運と思え。それにお礼を求めるのか?」って。
寓意・悪人に親切をして、何もヒドイ目に遭わなかったら、それが最大の返礼である。
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極東の凡俗といしましては、この話は「ヤーさん贔屓」を思ってしまいます。
ええー、関西で「ヤーさん贔屓」って言うのは、ヤクザ贔屓のこと。
ヤクザを引き連れて飲屋街をノシ歩くのを粋とする気風がありまして、これは困ったもの。
       
こんなお人は、賭け事の小銭の貸しを取り立てるのにまでヤクザを使いますねぇ。
ヤクザは別名極道とも言いますが、極道って言うのは、親を喰いものにし、兄弟を泣かせ、親切にしてくれる友達に迷惑をかけてのあげくを極めるワルのこと。
           
こんな手合いに貸し金の取立を頼むと、取り立てた金を取り込むだけではすまず、手間がかかったからってんで、余分の礼金までタカリに来る。
         
山口組の会報なんて見ると美辞麗句が並んでいます。
「義理人情に生きる」とかね。
あれはカツ揚げ(恐喝)に行ったときのセリフの床本。
あの美辞麗句をまともに取る人があるんだから、関西人は困るんですよ。
         
何か、ヤーさんと親しくしていると偉くなったような態度になってねぇ。
暴力団のフロントの祝い事でもあると、「祝いを持っていってやりますねん」なんて、これ見よがしに格好を付ける企業人までいるもんねぇ。
フロントって、暴力団の表の正業部門のこと。
神戸には表通りに堂々と暴力団の事務所がありまして、ああ恥ずかし。
これは世界に珍たるもの。
       
20年も前には神戸地方裁判所の門前に、堂々と山口組の事務所がありまして。
暴力団の抗争がありますと、この山口組の事務所の前に道路に向かって盾をもった警官が並んでいました。
何やら、極道の保護の為にか、暴力団の三下みたいに警官が盾をもって並んでいたんですよ。
         
並ばされている若い警官があんまり可哀想なので、会合でたまたま出会った県警本部の幹部に「並ばされている若い警官の親が見たら、どう思う?」って抗議してやったら、さすがに翌日からは、道向こうに並ぶことにしたけどね。
          
暴力団の事務所の前に盾をもって警官がヤクザの手下みたいに何時も並んでいることに、神戸市民も違和感がなかったんですから、ヤーさん贔屓も極まれりってこと。
         
覚醒剤の取り締まりとかで警官とヤクザの癒着がよく問題になるでしょう?
でもねぇ、アメリカのテレビドラマのように情報屋にカネを渡せる制度がないでしょう?
日本ではねぇ。
覚醒剤の取り締まりなんて内部情報がないと、とても出来ないんじゃあない?
タレコミ屋にカネが渡せないとなると、お目こぼししかなくなるもんねぇ。
             
ヤーさん贔屓の気風のある街で、内部情報を得ようとすると、つい癒着に繋がってしまうんだよね。
むかしはヒドかったんですよ。
民事事件をやっていると、ちょっと大きい事件だと、暴力団が絡んできていました。
怪しい相手なので、県警に身元を照会すると、半日もしないうちに相手は照会したことを知っているんですよ。
         
警察の情報はバッチリ漏れていたんですねぇ。
こんなだから、巣を急襲しても前日には暴力団は知っていて、もぬけの殻。
捜査の実効はないし、警察組織はガタガタ。
本部に赴任してきたキャリアーも苦労するでしょうねぇ。
             
何やら、反対側だったボクがこんな同情をしたら、困るなぁ。
でも、これ実情。