イソップの宙返り・44
      
ゼウスと狐
ゼウスは狐が才気煥発なのをみて動物たちの王にしました。
ところが、輿に乗って行くキツネの前にセンチコガネが飛び回りましたところ、煩がって、辛抱できなくなって、なりふり構わず捕まえにかかりました。
この浅ましい姿をゼウスが見て、キツネを元の身分にかえしてしまいましたとサ。
寓意・卑しい者は、いくら輝かしい衣装をまとっても本性は変わらない。
          
極東の凡俗が考えまするに・・・
昔の諺に「権力は人格を腐敗させる」ってのがありますが、これは人間の本性なんですよね。
でも、歴史を見ると権力を握っても、極端には腐敗しなかった人格もあるようですが、メチャクチャに人格崩壊をする人がありますね。キツネみたいに。
      
腐敗するのに、自分独りのためでない、なんて弁解を与えると、それが利己的なものだとまではわからなくなるグループが出てきます。
役人の天下り先の拡張、天下り先の利権の確保はレッキとした汚職。
利権の乏しい役所の場合は「これこれの利権をやるから、今度勇退する某局長を役員に迎えろ!」なんて露骨な斡旋をやるけど、天下りの歴史の古い役所の場合は、出入り業者の方で、自発的に「お願いします」なんて、気の利いた誘い方をしていますね。
          
この天下りの狡猾で広範なのは税務署。
この分野では汚職は制度化してきました。
まず、税務署に20年勤めれば、自動的に税理士の資格が与えられます。
税務署で20年勤めたって言っても所得税係で20年経験を積む職員なんてまれ。
中には人事分野とか、酒税の直税の経験しかないのまでいるんですからね。
        
税法も堪能でないのが顧問税理士に迎えられる不思議。
税務申告とかの実務は試験を通ってきた税法に詳しい税理士が処理しています。
元税務職員は飾り物なんですよ。でも、ただの飾り物ではありません。
             
で、税務署長クラスの勇退で、20社の顧問先が用意されます。
札幌とかの国税局長クラスだと100社以上でしょうか。
このクラスだと顧問料も一社年額100万円ぐらいが用意されます。
100社としても、年額1億円ってことになる。
        
ところで、この税務署アガリは全く何にもしない。
たまに調査があるときには、チョロッと顔をだすだけ。
お帰りにはズシッとしたお車代が包まれます。
むかし査察とかマルサって呼ばれていた強制調査だと、この包みは100万から1000万円に飛び上がるのは、去年、ほかから芋蔓式にバレて来た不運な元札幌国税局長でご存じの通り。
            
あの局長は「仕事が出来ることで評判がよかった」っていうでしょう?
あの仕事って何のことかわかります?
みんなの為に退官後の顧問先が段取りできたか、どうかの「仕事が出来た」ってこと。
     
こんな「仕事が出来る」優秀な人は、みんなで盛り上げますよね。
定年後のことを考えれば、ホクだって「盛り上げない」とは限らない。
あんた、どう? やらないって自信ある?
        
あの元札幌国税局長はノン・キャリだったでしょう。ノン・キャリアで頭角を現す人って特殊な才能と功績のある人なんですよ。
で、昔風に言うと高等文官のキャリア・システムは、超然とできるトップでこれを押さえるシステムなんでしたがね。
今は、キャリアまで、利権漁りになってしまったから、浄化作用も期待できないしね。
         
こんな話を知ったかぶりに言うかといいますと、ボクはリタィアするまでは弁護士をやっていました。
弁護士は税理士の資格がありまして、「税理業務をします」って各国税局に通知すると「通知弁護士」って登録してくれます。
ヒョンな経緯で札幌国税局でも通知弁護士って名前で稀に税務業務をやっていたんですよ。
だから、遠い札幌のことも全く不案内であったわけではありませんで、彼が「ヤリ手」だって事ぐらいは耳にしていたんです。
         
まあ、彼も局の皆のためにガンバったんでしょうねぇ。
システム自体を変えないと、「権力は人間を腐敗させる」ことからは逃れられないでしょうねぇ。
特別卑しいキツネでなくても腐敗する。