イソップの宙返り・36
         
マムシとヤスリ
マムシが銅工場へ入って道具類に施しをねだってまわりました。
最後にヤスリのところに来て、「何かください」と頼みました。
ヤスリが、こう答えました。
「俺から何か貰えると思うナ。刮げ取るのが俺の仕事だ」
寓意・守銭奴から儲けを期待するものではない。
         
極東の凡俗は、この話からは何も考えつきません。
ヤスリが何で、守銭奴になるのかよくわかりませんが、これが文化の違いなんでしょうね。
それだけが面白いので、記載しました。
        
父親と二人の娘
二人の娘をもった父親が、一人を庭師、もう一人を焼き物師に嫁がせました。
庭師に嫁いだ娘に出会うと、何も不足はないが神々に雨が降るように祈ってほしいと言いました。
もう一人の焼き物師に嫁いだ娘に出会うと、焼き物がよく乾くよう晴天が続くように祈ってほしいと言いました。
父親は「お前は晴れを、妹は雨を望むとは、私はどちらを祈ればいいのじゃ」といいましたとサ。
寓意・異質な仕事に手を出す者は、二つながらに失敗する。
        
極東の凡俗が考えまするに・・・
娘を嫁がせるのに同業とか、異業とかにさせるのが里の父親にとって、どんな利害があったのか婚姻形態の違う文化のことですから、ボクにはよくわかりません。
それに、「神に祈る」ってのが重かった時代のことなんでしょうね。
これも良くわかりませんが。
       
一時代前には多角経営がはやりました。
本業から一歩外れた隣の分野では成功した企業もありましたね。
でも、本社に人材がおれば離れた分野でも成功している例がありますね。
だから、二股をかけるのが何時も悪いわけではないんでしょうね。
        
ただ、それに適った人材もいないのに、不動産とか金融業に手を出したがために、今になって難儀している企業が多いですね。
はじめたころは計算上の利益が出て有頂天になっていた企業も多かったけど、人まねの業種では大火傷をしてしまいました。
でも、これは事業とは言えない虚業だったんですよね。
          
でも、息子に職業を選ばせるってのは世の中がこんなに変転する時代では、難しいですねぇ。
ボクは今でも忸怩たる思いをするのは、30年ほど前に事務所に勤めていた女性達に邦文タイプを習わせたことです。
「手に職をつけていれば、将来助かることがある」なんて言って、終業後タイプ学校に通わせたんですよ。
10年もして、ワープロが出てきたので、何の役にも立たなくなってしまいました。
その後出会うと「あれは無駄でしたね」って皆に嘆かれた。
          
ボクの知人には、自分の勤めている銀行に息子を呼んだのがいまして、「固いだけが取り柄だと思って苦労したのに・・」って嘆くんですよ。
その銀行が倒産しましてね。
親戚縁者に頼んで、その銀行の株とか抵当証券とかまで買ってもらっていたんです。
           
将来を見越して息子の職業を選ばせるのは難しい。
ボク達の就職した時代では「今をときめく会社は避けヨ」って言う単純な選び方があったけど、今はそんなに単純じゃあないもんね。
       
まあ、娘を庭師と焼き物師に嫁がせる以上に良い智恵なんてないですよ、イソップさん。