イソップの宙返り・14
   
犬と子羊をあやすキツネ
狐が羊の群に紛れ込んで、子羊をあやすふりをしていました。
「何をしているのか?」と犬が訊きました。
「子守をして遊んでやっている」とキツネが答えました。
「いますぐ、放さないと、犬のあやしかたを教えてやるぞ」と犬がいいました。
寓意・小悪党や間抜けな泥棒に、この話はあてはまる。
            
これで、思い出すのは、阪神大震災直後の話。
一つはテレビのワイドショーで出会った話。
震災の被害を見学に行ったレポーターがこんなことを言っていました。
「車で出かけて、壊れた家を背景にVサインをして写真を撮っているヤツがいた。非常識にもほどがある」って。
もう一つは、隣県の岡山に住んでいる叔父が憤って言うのに、
「震災でポリタンクが1000円もしている、って聞いて、6個買い集めて神戸へ行ったヤツがいる。ひとの不幸につけ込んで悪辣なことをする」って。
          
震災直後には神戸の市街に入ってくるには数十時間かかりました。
しかも、魚崎浜の天然ガスのタンクが爆発寸前までいったり、都市ガスも漏れている危険な状況にありました。
こんな処へ、誰が酔狂で記念写真だけを撮りにくる?
大渋滞のガソリン代を考えれば、ポリタンク6個売って「ボロ儲け」になる?
        
って、考えれば、こいつらは、あわよくばコソ泥をしようとした連中ですよね。
車でやってきて、壊れた家の跡に入ってうろうろしているのがいましたね。
被災者は自警団をつくって自衛までしました。
「何をしているのか?」と訊きますと、まさか、キツネみたいに「子守をして遊んでやっている」とは答えませんでしたが、記念写真を撮るふりをするんですよ。
時として「ポリタンク、いらんか?」ってね。
         
記念写真もポリタンク売りも、コソ泥のカモフラージュ。
岡山の叔父の方は善意の人って納得できるけど、テレビのレポーターには驚きましたね。
「おまえの目は節穴か?」って、テレビの前で、思わず怒鳴ってしまった。
          
これを書いている前日(11月13日)に北部同盟軍が首都カブールに入城しているのが、テレビの画像でレポートされていました。
「タリバンは首都を放棄して前日に撤退しておりまして、無血入城です」と言っておきながら、すぐ次に映し出された画像では、道ばたに死体が転がっているシーンでして、数人の死体の上に銃らしいものが乗せてありました。
レポーターは「タリバン兵の死体と思われます」って、ガナるんですね。
         
見ている方は、「ええ? タリバン軍は、前日に撤退していたんではないのぅ。なんで、タリバン軍の遺体が街路にころがっているの? それに市街戦で殺したものであれば、危険な銃を死体の傍に放っておくはずないでしょうに」って思った。
        
レポーターであれば、これは市民の虐殺の跡ではないかと疑うのが常識ではない?
もともと、北部同盟軍が首都を占拠していたときには略奪虐殺が多かったのでしょう。
それが人気をうしなった原因。前歴のある連中。
           
それに、アメリカは北部同盟軍が首都に入るのに反対していましたわなぁ。
戦略上重要でない首都に入ったってのは、兵士への慰安的な目的とも考えられますよね。
兵士への慰安は略奪陵辱に決まっている。戦争の歴史は、そういっている。
あの状況ではメディアは、虐殺略奪がおこなわれた痕跡がないか、に注意がいったはず。
           
もう一つ気に入らないのは、2,3人を映して「市民は歓迎しております」って報道。
2,3人で歓迎もないだろうと思うけど、軍隊が入城してくれば、歓迎のふりをするのは、虐殺略奪を防ぐ行事。
むかし、日本軍が南京に入城したとき、市民は、いち早く日の丸の旗をつくって、うち振っていました。
あれは、戦乱に明け暮れた庶民の智恵。
少しでも、虐殺略奪を防ごうとする智恵。
あのときに「市民は日本軍の入城を歓迎しております」って報道した、先輩達の前車の轍を踏むつもり。
          
こんな姿勢では、アフガンのマスコミ報道は「戦争オモロイ。やれやれ番組」だと言われてもしようがないんでは?
それとも、「小悪党や間抜けな泥棒に、この話はあてはまる」ことも見抜けないアホなのかなぁ。マスコミの智恵の程度は。