濡れ衣
         
梅毒は、コロンブスがアメリカから、持帰り、ザビエルが日本に持ってきた、って言う三題噺は、登場人物の奇抜さもあって、人の口に登りやすいことから、いまだに信じられていますねえ。
               
でも、これは真っ赤な嘘。
だいたい、新大陸に梅毒菌なんて、猛烈な細菌がいたはずはない。
アステカ、インカのミイラの歯には、虫歯がないことが知られています。
虫歯は細菌性のものですが、コロンブスが行った15世紀の新大陸は、虫歯菌すらもいない無菌の大陸であったらしい。
                 
細菌どころか、ウイルスもいなかったといいますねえ。
だから、ヨーロッパ産の細菌とか、ウイルスをたっぷり保菌したスペインからの野蛮人が中米に侵出して、このバイ菌が南に流れて行き、ピサロが攻める前に、免疫を持たないインカの人々は、ヨーロッパ製のバイ菌で、壊滅的な打撃を受けていたといいます。
                  
ピサロが40人の軍隊で、インカを征服したということになっていますが、本当は天然痘、結核、それにハシカとかの細菌、ウイルス連合軍がインカの軍隊を滅ぼしたらしい。
               
なにしろ、スペイン本隊が首都クスコを攻撃したときには、インカ軍は20分の1になってしまっており、残り5パーセントでは戦闘能力がなくなっていたといいます。
だから、コロンプスでないとしても、新大陸から梅毒がヨーロッパに入ったはずがない。
               
実際は、コロンプスが新大陸を発見?した1492年と同じ年に、ナポリを攻撃していたフランスのシャルル8世側の兵隊に、突然梅毒が蔓延したことが、起こりだと、今ではハッキリしています。
           
梅毒トリポネーマ・バリドウムは、螺旋状細菌(スピロヘータ)の一種ですが、梅毒菌と同じ細菌である、イチゴ腫(フランペシア)は有史以前からヨーロッパにある伝染病であったらしい。
ただ、イチゴ腫は小児の皮膚病で、皮膚から伝染するかぎり、伝染力も弱く、感染しても皮膚止まりで、血液に乗るにまではいたらないで、永年ほそぼそと暮らしていたらしい。
           
ところが、どうしたわけか、シャルル8世軍の兵隊さんがイチゴ腫を血液路にいれてしまった。
まあ、細菌を直接血液路にいれてしまうのは、性交ででしょうねえ。
これで梅毒が突然蔓延したことはハッキリしている。
       
ヨーロッパ産スピロヘータを南蛮船の水夫あたりが、日本に持ち込んだのを、来日と時期的に一致した、著名人のザビエルに言い換えたものらしい。
でも、覚えやすいので、選りももよって、ザビエルになったとか。
ザビエルさん、あらぬ濡れ衣、御免なさい。
                   
だいたい、15、6世紀のヨーロッパ人って、不潔だったことは、木村尚太郎先生の話にもありますが、バリの街では、朝オマルの中身を窓から表の道に捨てていたらしい。
だから、ぼんやり街路の端を歩いていると頭から被ったとかいいますねえ。
アア、汚ナ。
        
そういえば、ベルサイユ宮殿の中にはトイレがありませんねえ。
添乗員が、入口で用をたしておくように言ってくれますね。
でも、入口の建物に一つしかないから朝は長蛇の列だったりして…。
             
ところで、ベルサイユ宮殿ではどうして用をたしていたかというと、庭でやっていたらしい。
さすが貴婦人は困るので、あんなに拡がったスカートを使っていたとかいいますねえ。
             
ヨーロッパ人の不潔といえば、いまだにレストランでは、パンを皿に乗せないで、テーブルに直に置きますねえ。
お風呂では、濯ごうにも流し場がありませんねえ。
最近は日本からの旅行者も増えて、苦情が出るのか、汚されるのか、絨毯の上にポコンとバスタブを置いた風呂場ではなく、タイル張りの流し場がつきはじめましたが。
            
それに、教会には、有名人の墓があります。それも、教会の真ん中の床下に。
ヨーロッパは土葬でしょう。いくら大昔のものにしても、死体の臭いがしてきそう。不潔。
               
ヨーロッパではペストが猛威を奮いました。
それも、定期的に蔓延した時代があったことはボクたちでも知っていますね。
ペストが家畜の糞便から伝染するのは、腺ペストですから、清潔にさえすれば、それほど伝染したはずはなかったといわれています。
糞便とか血液感染を防止するには、鼠が運ぶ蚤虱の駆除でしょうが、どうしたことか、ペスト防止に蚤虱の繁殖をした。
        
まず、風呂に入るとペストになるってんで、風呂に入らないようにしたらしい。
いまだに、風呂に入ると病気になるって不潔な体臭を漂わせて、体臭防止に高価な香水をつける習慣が残っていますねえ。
         
それに、泰西名画でお馴染みの山高ヘヤースタイル。しまいに、鳥籠まで乗っけたのまである。
これだと、髪は洗えない。髪を洗わないから虱がボトボド落ちていたと言いますねえ。
まあ、泰西名画でボトボド落ちていたのまでは描き込んではありませんが。
        
始まりは腺ペストですが、人間の間を伝染していると、そのうち肺ペストになり、空気感染しますから、都市人口は4分の1になったといいます。猛威ですねえ。
中世のヨーロッパを嗤うけど、今のボクたちも嘲われるようなことをしています。長くなりすぎたので項を改めます。
次項で。