魂を貪るもの
其の序 惨劇

 壮絶な光景だった。
 血の海の中に全身を紅に染めて姉貴は跪いていた。
 姉貴の周りには、化け物どもの見るも無残な残骸と、人間の肉片らしきもの、そして、血染めの日本刀が転がっていた。
 そして、少し離れた所に親父と母さんが血を流して倒れていた。
 あたしは声も出なかった。
 叫ぶ気力すら出なかった。
 そして、姉貴に視線を戻した。
 後悔した。
 姉貴は、かつての恋人だった人の生首を、さも愛しそうに抱きしめていた。
 瞳に光はなく、顔に精気がなかった。
 姉貴はあたしの自慢だった。
 誰よりも美しく、誰よりもやさしかった。
 今の彼女は、あたしの知っている姉貴とは思えなかった。
 執念のように生首を抱きしめていた。
 無表情に涙を流しながら。
 それは何よりもあたしに現実を感じさせた。
 親父は死んだ。
 母さんは死んだ。
 あたしにやさしくしてくれた姉貴の恋人も死んだ。
 そして、姉貴は……。
「いやよ、いや」
 拒絶。
 あたしは、はじめてそこで絶叫した。
「いやああああああああああああああああっ!!」

 気がついたのは病院のベッドの上だった。
 姉貴は姿を消していた。
 それから、あたしは一人で生きた。
 数年後、風の噂で姉貴の消息を知った。

 


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