邂逅
其の終



 力を封ずる結界内であるにもかかわらず、女はその圧倒的な力でセファーを防戦一方に追い込んでいた。
 もしも結界がなければ、一瞬で決着はついていただろう。
 それほどに、強い。
 セファーの攻撃は女を掠りもせず、逆に女の攻撃は確実にセファーの身体に傷を刻んでいく。
「さすがにバケモノじみていますね」
 女の空中からの斬撃を苦悶の表情を浮かながら槍の柄で受け止めたセファーが言う。
 女は斬撃を防御されると空中で身を捻って跳ね返るように着地した。
 同時に身を低くして反転し、刀を振り上げる。
「そのバケモノの力が欲しかったのではないのか?」
「小癪ですね!」
 セファーはその攻撃も槍で受け止め、今度は柄を回して突きを繰り出す。
 しかし、その攻撃は空を切り、女の反撃の刃がセファーの胸元を浅くではあるが切り裂いた。
 血が飛び散り、セファーの胸が赤く染まる。
「この結界内で、これほどの力を出せるとは思いませんでしたよ」
「雑魚に用はない。そう言ったはず」
「しかし、私は負けはしませんよ。ここ数日間の観察で、あなたの身体データはすべて把握させてもらっているのですから」
「そのわりには手も足も出ないな」
 女がセファーに向かって神速で駆ける。
 再度の刀による攻撃を警戒していたセファーの顔面を女の後ろ回し蹴りが打った。
 さらに腹に蹴りを浴びてよろめくセファーの顎を、打ち上げるような女の肘が割る。
 呻き声を上げて仰け反るセファーの目の前で、女が気合いの声を上げた。
 女の刀身が真紅に発光する。
 そして、重い踏み込み。
 地面が砕け、破片が飛び散る。
 渾身の力を込めた一撃がセファーの槍の先端部分を砕いた。
「役にも立たんデータを頭に入れただけで勝てると思っていたのか!」
「ぬ、ぬう!」
 刃部分を失った槍を手に後退るセファー。
 だが、さすがに凄まじい速度の攻めを続けている女も肩で息をしている。
 しかし、その眼光はまったく衰えない。
 やや息を整え、女はじりじりと間合いを縮めてセファーを壁際に追い詰める。
 再びの強烈な女の踏み込み。
 床に亀裂が走る。
「はあっ!」
 そこから全力で斬り上げる。
 セファーは咄嗟に先端の折れた槍で防御を取る。
 がきんっ。
 鋭い金属音が響き渡り、女の刀が容易にセファーの防御を弾く。
 無防備な状態で大きく仰け反るセファー。
 女の持つ刀が死色を帯びた。
「終わりだ」
 絶対零度の声が響き渡った。

 しかし、女の刀は振るわれなかった。
 刃に血の雫がぽたりと落ちた。
 セファーの血ではない。
 女の唇から滴った血。
「うくっ、ごほっ……ごほっ!」
 紅の塊が女の口から吐き出される。
 大量の吐血。
 唐突に胸を襲った激痛に女の動きが完全に止まった。
「フ、フフフ、ようやく、ですか。危ない危ない。一瞬このまま殺されてしまうかと焦りましたが。クックックッ、発作持ちは辛いですね、『織田家』の者よ」
 左胸を押さえて咳き込む女を見て、セファーは笑った。
 彼はこの瞬間を待っていたのだ。
 女の身体が限界を超え、刀を振るえぬほどの発作を引き起こす瞬間を。
「全力で動き続ければ、身体への負担が過度になる。そして、この結界の中ならば、その負担は普段より格段に増す」
「くっ……」
 ケルベロスの主である男と戦い、この研究室に入るために警備兵たちと戦い、ここでは結界により負担の増した身体でセファーと戦い続けた。
 その身体を酷使した連戦が、身体にかかる負荷を増し、女に発作を起こさせていた。
「限界を超えさせるのに予想以上の時間がかかりましたが、これで私の勝ちです!」
 自らの吐血で染まった女が、よろめきながらも刀を翳した。
 だが、動作に力が入っていない。
 その隙を突いてセファーが折られた槍をぐるりと持ち直し、その柄尻でドスンと女の腹を打った。
「かはっ!」
 槍の柄尻が深々と、細く柔らかな女の腹部を抉る。
 発作と打撃。
 内部と外部から圧力が、女の身体を責めたてる。
 セファーは槍を女の腹に埋めたまま、女を背中から壁に叩きつける。
 さらに残忍な笑みを顔に貼り付けたセファーが、女の腹をすり潰すように鳩尾に槍を押し込む。
 ごふりっ。
 女は目を見開き、大量の血を吐き、がくりと俯く。
 力が抜けた女の指がだらりと垂れ、握っていた刀が乾いた音を立てて床に転がり落ちた。
 膝からも力が抜けるが、腹に杭のように打ち込まれた槍が、女が地面に倒れ伏すことを拒否している。
「フフフ、打たれ弱いですね」
 セファーが、もう一度、槍の柄尻をぐりぐりと女の腹をかき回すように捻じ込む。
 腹筋を抉られ、内臓を掻き回される激痛に、女の目が零れ落ちんばかりに見開かれる。
「がっ、ふっ、ごぼっ……!」
 女は再び血の塊を吐き、激しく咳き込む。
 手も足も出ない女の様子に、セファーは満足そうな笑みを浮かべる。
 そして、床に転がった女の刀を蹴り上げ、槍を握っていない左手で柄を掴んだ。
「『織田家』の伝家の宝刀。素晴らしい霊力ですね」
 セファーが柄を握り締めると、刀身が眩く光った。
 満足そうにセファーが頷く。
「フフフ、心地良い。この刀は研究とは別に、このまま我が肉体の一部としても良いかも知れません」
「ごほっ、……驕るなよ」
 地獄の苦しみを与えられても尚、女の目は冷ややかな光を称えて、セファーを見下していた。
「それは貴様のような下郎が扱える代物ではない」
「それは、どうですかな」
 セファーがそう言うと、彼の左腕に刀が柄から取り込まれていく。
 刀の先端までが完全に肉に覆われると、セファーの左腕に血管のような筋が一瞬だけ蜘蛛の巣のように浮かび上がった。
 くふぅ……。
 セファーが大きく息を吐く。
 と、セファーの左腕が肥大化し、一体化した女の刀が腕から切っ先を見せた。
 セファーが左腕を振るった。
 空気を切り裂く音ともに、女を磔にしている壁を刀を突き立てる。
 そして、そのまま壁を切り裂きながら、女の首の横まで左腕の刃を滑らせた。
 僅かに触れた切っ先が、女の首筋の薄皮を傷つけ、血を滴らせた。
「素晴らしい切れ味ですね。どうです、これでも私に扱えないと?」
「……器を知れ、下衆が」
「何?」
「それの切れ味はその程度ではない」
「まだそのような口を」
 セファーが壁から左腕を引き抜く。
「ならば、あなたの身体でこの刀の切れ味試してみましょう。苦痛で実験に邪魔な思考を破壊するのも悪くはない」
 そして、女の右肩を狙って、左腕の刃を振り下ろした。

「オゴォ!?」
 セファーは突然飛び込んできた黒い影に突き飛ばされていた。
 女の腹から槍が抜け、磔から解放された肢体が崩れ落ちる。
 ごほっ、ごほっと激しく咳き込みながら、セファーを突き飛ばした黒い影に目をやる。
 獅子の如く雄雄しい体躯。
 魔獣、ケルベロス。
「ケルベロス……」
「(我、汝の力とならん)」
「……手助けなど無用だ」
「(……そう言うな。地獄の番犬とはいえ、血に塗れた女を捨て置く趣味はない)」
 吹き飛ばされたセファーが憤怒の表情で立ち上がる。
「おのれ、……魔獣ごときが!」
 セファーが左腕から取り込んだ刀の刃を出した。
 そして、その刀身に気を収束させる。
「よくも邪魔をしてくれましたね。真っ二つになって後悔するが良い!」
 左腕を振りかぶる。
 そして、左腕が弾けた。
 真っ赤な血が吹き上がり、千切れた腕が宙を舞う。
 勢いよく弾け飛んだそれは、ケルベロスの横まで血で床を濡らしながら転がった。
 そして、蒸気を上げて消滅した。
 そこに残ったのは、セファーが左腕に取り込んだはずの女の刀。
「ウォオォォォォ!?」
 セファーは何が起きたのか理解できず、苦痛の声を上げて左腕の傷口を押さえる。
 だが、腕の傷はどんどんと彼の身体の中心へと侵食してくる。
「グオォッ、……私の腕が! ……な、何だ。どうしたというのです!?」
「下郎に扱える代物ではないと言ったはずだ」
 女が刀を拾い上げ、セファーに冷たい声を浴びせた。
 刀から発せられる青白い霊気が、柄を伝わって女の腕を駆ける。
 焼けるような音がして、女の腕から煙のようなものが上がった。
 だが、女は刀の力で腕が焼けることなど気にした様子もない。
 そのまま、女が柄を握る手に力を込めると、刀は死んだように大人しくなり、女の腕から上がっていた煙も霧散した。
「器のないものが握っても、貴様のように耐え切れずに侵食されるのが関の山だ」
「くっ……!」
 セファーが血走った目で、自分の左肩を引き千切る。
 びちゃびちゃっ。
 腕の肉の塊と、溢れ出た鮮血が、床を赤く染める。
「不覚でした。ですが……」
 セファーは半身を赤く染めたまま、女とケルベロスを睨みつけた。
 息を整えると、左肩の傷口がみるみるうちに塞がっていく。
「この超回復力も研究の成果です。あなたの力を取り込めば、失った腕の蘇生すら容易でしょう」
 完全に出血が止まり、セファーは落ち着きを取り戻した。
「それに引き換え、あなたの身体はボロボロのはずです。私には勝てはしませんよ。いくら地獄の番犬の手助けがあろうとね」
「貴様などに負けるつもりはない」
 女が無表情に言う。
「ずいぶん強気ですが、ここの結界があなたの力を封じていることをお忘れなく」
 ぶぅんと大気を切るようにセファーが右腕に握った槍を振るうと、部屋中を染めている黒い瘴気が女とケルベロスを取り囲んだ。
「その身体では、この結界内で先程のような動きはできはしますまい」
 確かに、平静を装っているものの、顔色が尋常でないほどに青白い。
 発作と、槍で腹を潰されたことによる吐血の量も激しい。
 発作自体は収まっているようだが、身体の内部はボロボロのはずだ。
 それでも、女の瞳は、凍てついた炎を宿して敵を寸時も見逃さない。
 その横で、ケルベロスがゆっくりと前半身を屈めた。
 牙の隙間から獰猛な息が漏れる。
「(……セファーよ、汝の結界などは我には意味をなさぬ)」
 ケルベロスが咆哮を上げた。
 研究室が揺れたと錯覚するほどの猛々しい咆哮。
 大気が震動し、研究室を包み込んでいたどす黒い霧がかき消される。
 重い空気が晴れ、胸を焼くような瘴気が散じ、研究室はただの薄暗く広いだけの部屋に戻っていた。
「結界を打ち破っただと!?」
 セファーの顔には信じられないという表情が浮かんでいる。
「犬の咆哮には退魔の魔力が宿る、か」
 女がケルベロスの逞しい背を見ながら呟いた。
 古来より犬の吠え声には悪霊や魔物を退散させる力があるといわれている。
 ケルベロスはただの犬ではない。
 地獄の番犬の異名を持つほどの高等魔獣だ。
 彼の吠え声ならば、瘴気の結界陣を破壊できてもおかしくはなかった。
「(セファーよ、貴様たちの野望はもう終わりだ)」
 相手の力を封じる結界は破壊され、武器は折れた槍のみ。
 しかも、相手は、傷を負っているとはいえ結界内でさえ自分を追い詰めたほどの使い手と、地獄の番犬ケルベロス。
 セファーが勝てる要素など微塵も残っていなかった。
「死にぞこないどもめ」
 歯軋りして、自分の敵を睨みつける。
「だが、ラッツェル所長さえ、『Alice』の力を手に入れれば、貴様らなど……」
「(セファーよ、ラッツェルは死んだぞ)」
「な、何だと!?」
 ケルベロスの言葉に、セファーの顔に動揺が走る。
「バカな」
「(我が主とともに、な)」
「ラッツェル所長がいなければ我々の計画は……」
 セファーは全身を憎悪と喪失感に、わなわなと震わせていた。
 ラッツェルが死んだと言うだけならば、セファーも信じなかっただろう。
 だが、ラッツェルだけではなく、自分の主人である男も死んだと従者のケルベロスが言い放ったのだ。
 ケルベロスの言葉は真実を語っているのだ。
 このことに衝撃を受けたのはセファーだけではない。
 女の瞳の光彩も僅かに揺らめいていた。
「あの男が死んだ……」
「(我も直接見たわけではないがな。呪縛の鉄塔が崩れると同時に気配は消えた)」
「……」
「(我は主の命で助勢に来たのだ)」
 女が両目を瞑る。
 静かに佇む女の姿は、神聖なもののようにケルベロスには見えた。

「……そうか。あの男は死んだのか」
 一瞬の間を置いて、女が双眸を見開く。
 その真紅に染まった冷酷な瞳に、ケルベロスは心臓を射抜かれたが如き衝撃を覚えた。
 今までも冷酷な印象を受ける目をしていたが、今の真紅の瞳は、『死』そのものように冷たく、昏く、深い。
 その『死』が、セファーに向けられる。
「貴様は『神』になると言ったな。生憎と貴様にとっては不幸なことだが……」
 ごくりと、セファーの喉が恐怖に鳴った。
 女の全身から異質のオーラが立ち上る。
 邪悪に禍々しく立ち上る紅。
「──私は『神』を斬る為にいる」
 大気が鳴動した。
 空気の色が真っ赤に染まる。
 殺気。
 女の恐るべき殺気に、セファーは戦慄していた。
 化物だ。
 やはりこの女は化物だ。
 セファーは女の尋常ではない殺気に、それを確信した。
 同時に肉体が恐怖に慄き、無意識に痙攣する。
 殺される。
 殺される殺される殺される。
 セファーの思考が自分の死のイメージで埋め尽くされる。
 だが、唐突にセファーに向けられていた莫大な殺気が突然、消失した。
 息ができる。
 セファーは空気を必死に喰らい、そして、見た。
 女の殺気は消えたのではなかった。
 一点に注ぎ込まれ、収束されていた。
 女の持つ刀の刀身に。
 そして、女の全身からは、今まで発せられていた禍々しい霊気の代わりに、神々しい青白い霊気が立ち昇っている。
「天武夢幻流・禁断奥義……!」
 女が腰を捻り、刀身を後ろに下げた。
 今、だ。
 これが最後の機会だ。
 もう一度、あの殺気を向けられたら死んでしまう。
 だから、今。
 動ける今のうちに殺らねばならない。
 セファーの本能が、そう告げる。
 残っている右手に持つ先端部のない槍に全力を込める。
「オオオオオオオオオオォォ!!」
 セファーは錯乱した雄叫びを上げて、その槍を打ち出した。
 女が、その神の形をした怪物へと、刀を振るう。
忌邪奈深(いざなみ)!」
 莫大な量の殺気が、紅の龍となって、セファーを飲み込んだ。
 龍は牙を突き立て、セファーの全身を咀嚼する。
 全身という全身を紅い邪気が喰らい尽くす。
「ヌグオゴガァァァアアアアアアオオオォォッ!?」
 セファーの断末魔が研究室内に響き渡った。
 女の放った一撃はセファーの身体を簡単に消し飛ばし、その後ろの壁を爆裂音とともに粉砕した。
「はぁ……、はぁ……」
 女は乱れた息を整えて顔を上げ、前方に目をやる。
 濛々と立ち込めていた煙が晴れると、女の目の前には唯、壁に穿たれた大穴だけがあった。
 セファーという存在を形作っていた物は何も残っていない。
 跡形もなく消滅していた。
 神を名乗ろうとしていた男の肉体も魂も大気へと消えたのだ。
「『神』に似合いの末路だな」
 女の握った刀からは紅い邪気が消え失せており、刀身は元のように青白い透き通った霊気に満たされていた。
 女は刀を鞘に納めた。

 穿たれた壁の穴から、日の光が差し込み、薄暗かった部屋に明かりを与えている。
 そこからは崩れ去った欲望の鉄塔の跡を覗くことができた。
「……」
 女はゆっくりと大穴に近づく。
 大穴から吹き込んだ風が、女の髪を後ろへ流した。
 女の真紅の眼差しは瞬きもせずに、崩れ去り黒煙を上げている鉄塔を凝視している。
 長い間、微動だにせずに、見つめていた。
 その表情は氷の彫刻のように硬い。
 呪縛の解けたあの男は、崩れた欲望の鉄塔を墓標代わりに眠っている。
 女はやがて、懐から男に貰った丸薬の入った巾着袋を取り出した。
「……」
 そして、それを大穴から外へと投げ捨てた。
 流星のようにそれは落ちていく。
 それが視界から消えると、女は目を伏せ、踵を返した。

 研究室の片隅にはケルベロスがうずくまっていた。
 女が近づいてくると、魔獣はゆっくりと立ち上がった。
「(女よ)」
 呼びかけられ、女はケルベロスの真横で、その足を止めた。
 目だけを魔獣へと向ける。
 相変わらず、その瞳には凍てついた炎が揺らめいている。
 ケルベロスは、その真紅の眼差しを受け止め、穏やかな声で言う。
「(身体は大丈夫か?)」
「気遣われる覚えはない」
 女はいつものように無表情に応えた。
 平然としているように見える。
 だが、女の胸元は自らの吐血で赤く染まり、抉られた腹部には痛々しく青黒い痣が浮かんでいる。
 平気であるはずがない。
 だが、ケルベロスは、あえて女の言葉に逆らわなかった。
「(そうか……)」
「主の仇は取ってやった。もう用はあるまい」
 女の視線が興味を失ったようにケルベロスから外れ、正面を向く。
「(いや、まだ用はある)」
 ケルベロスは女の横顔を見ながら、首を横に振った。
「(我は、この後も汝の力となろう」
「……?」
 女の瞳が疑問の色を浮かべながら、魔獣に戻される。
 ケルベロスは再び、その視線を穏やかに受け止めた。
「(我が主の遺言でもあったが、今は我自身も、神をも斬らんと言う汝の行く末を見届けたい)」
「……私を新たな主とするというのか?」
「(否。我が主は未来永劫、唯一人)」
「あの男か」
「(いかにも)」
「では、契約はしない、というわけか」
「(それでも、我は汝の刃となり、盾となるだろう)」
「……」
「(我はそれを望むし、我が主もそれを望んでいよう)」
 女は俯いた。
 微かに乱れた髪が女の顔の上半分を隠す。
 その表情を伺うことはできない。
「……好きにしろ」
 一言だけ魔獣にそう言うと、女は研究室を後にする。
 その後ろにケルベロスが従うが、女は振り返りはしなかった。


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あとがき
 ホームページ開設六周年記念です。
 霧刃とケルベロスの出会いの話を書いてみました。
 何だか調子に乗って書いているうちに長くなってきて、どうしようかと思いましたが(笑)
 最近はシギュンばっか書いてたけど、霧刃も、やはり良いですね。
 敵役の『ラッツェル』と『セファー』は、大天使ラジエルから。『セファー・ラジエル』で宇宙の神秘についての知識が書かれているという『ラジエルの書』になります。