ぼくの心に響くもの






 そういえばどうしてぼくは空手部にはいったのだろうか。
 あれほど戦いを嫌っていたのに。


 そうか……彼女のせいか。
 いや、彼女のおかげかもしれないな。

 ぼくがこの学園で生きていこうと思ったのも。
 ささいなことでも重要なことがある。
 他人のほんの小さな言葉でも……生きていこうとする源にさえ……。


 でも、ぼくはまだ彼女のおかげだとは知らない……。







 部員が揃ったことで空手部はなんとか廃部を免れることに成功した。
 こうして異種格闘大会が開かれることになった。
 例年になく今年は盛り上がっているそうだ。
 謎の美女を見るためにみんな席を争って取っているらしい。
 桜花先輩の噂は一日で広まっていった。
 実は空手部にきた日に転校してきたらしい。
 そのため空手部は誰も知らなかったのだった。


 彼女は聖財閥の一人娘であり世界有数の御金持ちである。
 そして風神流という古武術をマスターしているらしかった。
 あくまでも噂で聞いた話だ。
 ボクはあれ以来彼女と話したこともない。
 今まで味わったことのない感覚がぼくの心を縛り付けられる。
 彼女と話したいのに声が出ない。
 近づきたいのに近づけない。
 ジレンマがぼくに襲い掛かる。
 誰も助けられない……誰も治療してくれない病気。



【大会広場(校庭)】


「大将が京!! なんでーーーー!?」
「あら、よろしくてよ。私が全員倒しますから」
「桜花先輩…本気ですか?」
「本気ですわよ」
「俺が決めたことだ。いいな京!!」
「……わかりました」
「ぼくが京までにはまわさないよ。だから心配しないで」
「……」
「先鋒が七瀬さんで次が倉光さんで…」
「中堅に赤木先輩。そして副将に桜花先輩ですね」
「今年でなんとか連敗を食い止めたいのだが……」
「迅雷先輩ですね」
「わたくしが見事に倒してくれますわ」


 ……どうだろうか。迅雷先輩に勝てる人間…。
 あのバニッシャーを防げる人間はいるのか…。
 桜花さんでも……。



「……知っているの?」
「何が?」
「彼のことよ」
「ふっ……」
「そう」



【大会開催】


『今から異種格闘大会剣道部対空手部の試合をはじめたいと思います。ルールは3ラウンド。決着がつかない場合は判定になります」


 アナウンサーと声が高々と聞こえてきた。
 授業の放課後にセットされたリングに太陽の光が照らし合わせる。


「ほら、ここいい席だよ、悠樹」
「ホントだ。さすが、ちとせはこういうイベントでは席取りとか早いね。ところで、葵さんはこないの?」
「う〜ん、家の用事が忙しいって」
「家の用事ね……」



 迅雷先輩は派手なパフォーマンスをして花道を歩いてくる。
 他の部員は……!?
 
 
「……迅雷さんだけ!?」
「どういうことだ。迅雷」

 ぼくたちはすでにリングの上に上がっていた。
 迅雷先輩は悠然として上がってくる。

「おう、ハンデだよ。ハンデ」
「ハンデってどういう意味なの?」


 なるほどね。どうせ迅雷さんとみんな戦うなら一人でくるほうが手っ取り早い。
 無駄な時間を切り捨てたんだ。
 先輩らしいよ。


「いいだろう。とっととやってしまおうぜ」
「部活の時間がなくなってしまうからな」
「許しませんことよ」


 桜花先輩が怒っている。


「私たちも一人で十分ですわ」
「おい、桜花君?!」
「わたくしが先鋒です。かかってきなさい!!」


 戦闘態勢に入る桜花さん。迅雷先輩も気合を入れる。
 観客席が静かになっていく。

「格闘大会!! READY――――GO!!」


 アナウンサーの大きな声が響き渡った.


「ぼくの先鋒返してよ」
「やめといたほうがいいよ。無駄だから」
「そんなことない。やってみなくちゃわからないよ!!」


 迅雷先輩はゆっくりと近づいてくる。
 桜花先輩は気を練っている。


「風神流<胡蝶の舞い>」


 気を固め石つぶてのように飛ばしていく。
 迅雷先輩はガードをしてそれを防いでいく。
 それを見た桜花先輩が一気に間合いを詰める!!


「風神流必殺<鳳凰>!!」


 ?!
 桜花先輩の体が真っ赤に燃え上がっていく。
 体に炎をまとい攻撃するのか?
 迅雷先輩に向かって猛スピードでつっこんでいく。
 だが……。


「甘い!! この拳で十分!!」


 真っ赤に燃えた桜花先輩の拳を左手で受け止める。
 残った右手で裏拳!!


「無駄!! 無駄!!」


 ズドォォォォォン!!


 派手な音を立ててふっとんでいく桜花先輩。
 観客席まで飛びこんでいった。
 あっけない幕切れ。


「次、出てこい!! すぐに終わるからよ」


 観客席の声援がひときわ大きくなっていった。
 誰もが迅雷先輩の強さに惹かれ応援している。


「ぼくが戦う!!」
「いや、棄権しよう」
「なんでですか!!」
「俺は負ける戦いはしない」
「……」
「迅雷以外と勝負をみんなとやらせたかった」
「部長!! やるまえから負けると思ってどうするんですか」
「やってみなくちゃわからないでしょ」
「しかし……」


 ぼくの方をちらっと見る。
 何かを訴えている目……。
 先輩は、もしかしてぼくのことを知っている!?


「どいてください。ぼくがやるから」


 七瀬さんはリングに上がり構えを取る。
 無茶だよ。
 君は普通の人間なら戦えるけど、先輩は違うんだ。


「……また女性か。おい、京! おまえ上がれ! 恥ずかしいと思わないのか?」


 恥ずかしい? ぼくが?
 なんで?負ける戦いをしても意味がない。
 やる前からわかっていることのに。
 そうやってぼくは生きていた……。
 無駄な戦いをする奴らを横目で見ながら。



 でも……。


「やってみなくちゃわからない!!」



 どうして彼女の声がぼくに響いてくる。
 ぼくの心がドクドクと鳴り響く。


「また逃げるのか。運命から……」



【格闘大会(第二戦)】


「せい!!」

 七瀬さんの正拳が迅雷さんにあたる。
 でもびくともしない。
 かわす必要もない。
 あきらかに力の差がでているのは誰の目にも分かる。


「無駄、無駄」
「うるさい!!」


 必死に攻撃を繰り返している七瀬さんだが一度も効果的な攻撃がきまらない。
 どんどんスタミナを減らされていく。


「もう、おしまいか?」
「はぁ、はぁ……」
「だったら、これで終わりだ!!」


 迅雷先輩の正拳が七瀬さんの腹部にあたる!!
 そして、ぼくの目の前に飛ばされていった……。


「くやしいよ。京」
「本気を出していない人に負けるなんて」
「七瀬さん……」



 本気を出していない人に負けるなんて。
 なんで心が痛む。
 心が痛む。経験のないこと……。


「ごめんね。約束守れなくて」


 ぼくの事をなんでここまで気にしてくれる?
 ぼくは七瀬さんに何もしていないのに……なぜ?
 七瀬さんはそのまま気絶する。


「君の事が好きだから」
「えっ?」
 
 
 桜花さんが七瀬さんの状態を見ている。
 さっきかなりのダメージを受けていたのに……。


「やれやれね。まったく手加減しないんだから」
「七瀬さんがぼくのこと?」
「わからなかったの?」
「……」


 あきれた顔でぼくを見る。
 ……なんだか先生に説教される感覚になってくる。


「憧れはただの憧れよ」
「えっ?」
「あなたは私にただ憧れを抱いただけよ」
「……」
「本当の心はどこにあるのか知っている?」
「?」
「彼女よ」


 そういって七瀬さんの方を向く。
 彼女は気絶をしているために何も聞こえていない。


「まぁ、本当の気持ちを知らないのは私だけでもないか」
「……いっている意味がわからないのですが?」
「まぁ気にしない」
「で、君。やるのやらないの? また逃げ出すの? いつもみたいに」
「!?」
「君のことは迅雷から聞いている。草薙流分家正統後継者」
「どうしてそれを?!」
「ちょっとね」
「前の学校でも不良にからまれ半殺しにあわせて転校。そのせいで力を出すことを極端に恐れているって。彼、君に会えるの楽しみにしていたんだから」


 迅雷先輩が!?
 ぼくの過去を知っていて……。


「ありあまる力を持つものが恐れをなすのわかる。でもね、君もわかるでしょ?彼は強いってこと」
「力か」
「あなたが全力出してもそれでも勝てない相手」
「……」
「どっちかに決めなさい。逃亡生活か運命に立ち向かうか? 誰も君を責めやしない」
「……」



 逃亡生活するか、運命に立ち向かうか。
 つまり……このまま逃げるか……戦うか……



「やってみなくちゃわからない!!」


 七瀬さんの言葉がぼくを動かす。
 これほど簡潔にわかりやすい言葉はない。
 彼女らしいといえばそうか。
 ……ぼくの憧れ。
 でも本当の心は彼女にあった?
 それはわからない。
 でも……。
 ぼくはポケットから長いグローブを出す。
 いつも使っているもの。



「やる気ね」
「……はい」

「やっとやる気になったか」


 ぼくはゆっくりとリングに上がっていく。
 赤木部長の声が聞こえてくる。
 
「京!!」
「はい?」
「しっかりやれ!!」
「……はい」


 赤木先輩の応援も今のぼくには素直に受け止められる。
 普通の女の子でも運命からでも逃げない。
 やるまえからあきらめてはいけない。
 ぼくは彼女からそう教わった。

 そう……。

 もうぼくは逃げない。
 ぼくは草薙家正統後継者。


【格闘大会(最終戦)】


「やっとおまえと戦えることになったか」
「手加減はしませんよ。あなたは強いですから」
「こっちもだ」



「READYGO!!」


 ゴングは鳴った。


「どのくらい強いのか確かめてやる」


 迅雷先輩の闘気が急速に高まっていく。
 周りの空気がピリピリとしてきた。
 先輩の奥の手であるバニッシャーか?


「まだ出さないぜ。80%の力だ」
「……これで80%」


 闘気の大きさが凄すぎる!!
 リング全体をおおいつくしている。
 さすが…迅雷先輩……。


「頑張って…」

 気絶から回復した七瀬さんが声が聞こえてくる。
 ……やるか。



「<焔>!!」

 手から炎を出して投げつける。
 迅雷先輩は余裕でかわしてこちらに向かってくる。


「おらおらおらおら!!」


 無数の拳がこちらに向かってくる。
 落ち着いて拳を見切ってかわしていく。
 一発が重いために攻撃を受けるとダメージが大きくなるな。
 ぼくは後方にジャンプをして間合いを取る。


「<寸打>」


 迅雷先輩の勢いを利用した技。
 前に向かってくる勢いとこちらのスピードをぶつけることで威力が増す!!
 迅雷先輩のふところにもぐりこむ!!

 拳が目の前にやってくるが大丈夫。
 ちょっと体をずらして拳をかわしお腹に右肘を思いっきり叩き込む!!
 迅雷先輩は場外に吹っ飛んでいった。


「すごい……京ってあんなに強かったんだ」
「彼は本気を出さないからね。私のときもそうだったし」
「桜花先輩?」
「寸打ね。カウンター気味に打つ技ってとこかしら」


 まだこれでは終わらない。
 落ち着けるために集中する。


「静まりかえれ。我が心の化身」
「はっはっはっ!! やっぱり強いな。よっしゃ、100%いくぜ!!」


 ぼくは心を落ち着けていた。
 次にくる攻撃が分かっていたから。
 最強の攻撃がやってくる。


「はあああああああああああ!!」


 先ほどよりもはるかに強烈な闘気が広がっていく。
 大地は震え、風は吹き荒ぶ。炎は業火に燃え上がり、雷が落ちそうな感じ。
 
 だんだん具現化をしてくることがわかってくる
 先輩の守護霊バニッシャー<消滅者>。
 一度だけ見たことがある。
 たしかスパコン君との戦いだったかな?


「お待たせしたな。やるぞ!!」
 
 
 バニッシャーの刀。
 これに注意をしなくてはいけない。


「おらおらおらおら!!」
「くっ!! スピードが桁違いだ」


 ガードするしか間に合わないぐらいに迅雷先輩の攻撃が繰り返される。
 このままだとこちらのスタミナが消耗していく!?
 一瞬の隙を狙ってしゃがみこむ!!


「<炎龍>」


 右手に炎を出し、高々と飛び上がる。


 迅雷先輩は守護霊で炎龍を止める。
 よし!!
 かかった!!


「<嵐>、<焔>」
 
 
 両足で先輩を蹴り飛ばしそして連続攻撃を繰り出す。
 
 
「<海>、<空>、そして、<結>」


 着地と同時に炎をだした左手で攻撃。
 のけぞったとこで右手でアッパーを出す。
 空に浮いている先輩に向かって炎を乱射!!

 豪快な音を立てて先輩は倒れていった。


「はあ、はあ、はあ」

 ……ちゃんと修行をしておくべきだっかな。
 すぐに疲れるのは計算違いだったよ。
 あまり立って欲しくないんだけど……先輩のことだからな……。


「これでおしまいか。だったらこっちも真の闘気を教えてやる!!」


 体力のなくなったぼくにはガードする力もなかった。
 次、次と浴びせられる拳。
 重い拳が体に刻み込まれる。
 
 
「こんなものか。後継者というやつはよぉぉ!」
「京――――――――――――!!」



「負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 七瀬さんの大きな声が聞こえてくる。
 なにかいい気持ちだ。
 桜花先輩には感じられなかった感じだ。
 そうか。どこかで彼女を意識していた部分もあったのかもしれない。
 そうでなかったら、彼女と話したりも何もしなかったはずか。
 なぜか笑いが出てくる。


「そろそろ終わりにするか、続けるか、京!!」
「はぁ、はぁ……ええ」



 最後の気力。
 迅雷先輩のバニッシャーの刀がこちらにやってくる。
 全力攻撃するしかない!!
 
「最終奥義【草薙の剣】」
 
 
 両手を先輩にセットする。
 巨大な焔が出てくる!!


「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ぼくたちは互いにぶつかりあい………。


「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」






【猫ヶ崎高校登校中】



「あいたたたたた」
「無茶するからだよ」


 結局、ぼくは迅雷先輩に負けてしまった。
 当然の結果か。
 でも、観客のみんなはぼくに拍車を送った。
 鳴り止まない声援。
 初めて、戦いが楽しく思えた。


「でも、迅雷先輩すごいよね。ピンピンしてるし」


 先輩は戦いが終わった後、平気な顔して部活に出ていった。
 やっぱり強かった。でもあまり悔しくない。
 あの人にいつか……もう一度戦いとさえ思うぼくにびっくりする。


「桜花先輩……じゃなく先生か。私たちを騙していたんだね」
「迅雷先輩の差し金だったのはびっくりしたけど」
「まさか、京と試合させたいために空手部に入るなんてね」


 七瀬さんは笑った。
 ぼくもつられて笑う。
 ひさしぶりにぼくは笑った。


「あっ初めてだね。笑った顔!!」
「?!」


 顔が一瞬で真っ赤になる。
 それを見てさらに七瀬さんは笑う。

 ぼくはこの学園にはいってよかったと思う。
 大切なものを二つも手に入れたから…。
 一つは勇気。
 そして……。

「何しているの?はやく行かないと遅刻だよ」


 ぼくにふりそそぐ笑顔。
 これを守っていきたい。


「わかっているよ」


 まだぼくの気持ちはわからない。
 でも、彼女のそばにいたいと思う心はある。
 それが本当かどうかはこれからの生活でわかるはず。
 そう……ぼくの学園生活はこれから始まるのだから。




前編  INDEX



 後書き
 
 
 どうも♪
 ぼくの心に響くもの後編です。
 これまたリメイクしています。
 
 今回、なぜにこれをリメイクしようと思ったのか!!
 
 …昔のがあまりにも見られないものだったからです(爆)
 結構、めちゃくちゃな部分や誤字などありましたし……。
 何よりも…見てくれが悪いのかなって(汗)
 
 とりあえずこれが京の最初の登場です。
 これから京の日常、そして夢幻の記憶に繋がっていきます。
 まぁ実はいうと最初は葵姉とはまったく関係のなかったんですけどね(笑)
 私が気に入ったから出したら…現在のようにと。
 
 初心に戻ることをしてかなり昔を思い出したこともあっていいのかなって。
 とりあえず今度は【夢幻の記憶】でお会いしましょう。
 あっ初めて読まれた方は【京の日常】を読んでね(笑)
 では♪