ぼくの心に響くもの



もしもという言葉。

これほど便利な言葉はない。

もし、君に会えなかったらどうなっていただろうか?

それはわからない…。

だから人生なんだと強く感じる。

でもこれだけは変わらない。

君と会ったその日を……。

そしてぼくが生まれ変わった日を。



君と一緒に……。






 ぼくが彼女を好きになったのはいつのころだったか……。
 桜が散り、木に葉っぱがでたした頃、たしか五月。



【猫ヶ崎高校登校中】



 ぼくの名前は東京と書いて【アズマ・キョウ】という。
 現在は一年生であり最初のテストが近づいてくる頃だった。


 名前で分かる通り、よく小学校のころ名前で馬鹿にされていた。
 親を憎んだこともあったが、高校に入ってからは別に気にしなくなった。
 猫ヶ崎高校に入学したのは別に何の考えもない。
 ただ、ぼくの学力に合わしただけである。
 友達もここにはいない。
 ぼくはこの街に引越してきたばかりである。
 だから何の印象もない。
 ただ学校にいっているだけといえるかも。

 両親は今は自宅にはいなくなっている
 仕事といって海外へ出かけているからである。
 何やら親戚を守りにいくとかなんとかいっていた。


 そのせいでぼくは一人で育っていた。
 暮らしていけるだけのお金は預金通帳にある。
 先祖代々からのお金。
 それがぼくの宿命だから。


「今日も授業か……。終わったら部活。そして帰るだけ。いつも通りか」
「よおぉー。空手部の期待の星じゃないか」


 迅雷先輩……この学園の最強をほこる人物。
 いや、世界に誇れるかもしれない。
 あらゆる人物が戦いを挑み敗れ去っていった伝説の人。
 なぜか知らないけどぼくにいつも話しかけてくれる。
 まったく知らないぼくになぜ話しをしてくれるのだろうか?


「おはようございます。京さん」


 天之川香澄先輩。
 迅雷先輩のお目付け役。
 迅雷先輩を止められる唯一の存在。
 この人もぼくに挨拶をするだけだけどよく声をかけてくれる。
 迅雷さんが話し掛けてくるからかな?


「おはようございます」
「お前のところ部員集まりそうか?」
「……部長が必死に集めています」
「もし、五人揃わないと廃部でしたわね」
「そうですね。あと一人いれば」


 現在、空手部は四人という存亡の危機にさらされている。
 昔、暴力事件によって部活の活動を停止させられていたからである。
 剣道部と互角の勝負を毎年やっていたがここ数年空手部は負けている。
 異種格闘大会の敗北者は何でも一ついうことを聞くというものである。
 ただし迅雷先輩がきてからこの戦いは無益なものになっている。


「よかったらうちの部員を貸そうか?」
「い、いえ?」
「迅雷主将、ずるはいけません」


 香澄さんの目が冷たく光る。
 迅雷先輩は慌てて言葉を訂正している。
 二人は付き合っている。
 なんとなくぼくの心に響いてくる。


「なんとかしますよ。異種格闘大会まではと部長がいっていましたから」
「今年はお前と戦いたいだよな」
「負けますよ、ぼくの方が……」
「迅雷主将、早くいかないと授業に遅れますよ」


 よくみてみるともうチャイムが鳴り響いている。
 慌てて三人で教室まで走っていた。


【一年教室】


 教室にいる周りの人々が互いに話している。
 他愛のない話。
 でも人にとっては心地よい話になるらしい。
 そうやって互いにコミュニケーションをとっていくのが不思議である。


「あっ京♪ おはよう♪」
「おはよう……」
「またまた暗いんだから」


 七瀬琴美さん。空手部の部員の一人である。
 小さいころから空手をやっているらしく人間的には強い部類にはいる。
 ロングの髪を三つ編みしているせいか幼い顔に見えるときもある。
 しかし組み手になると顔つきがかわっていく。
 彼女の場合、空手を本当に好きなのだろう。


「そうそう部員見つかった?」
「……」
「そうなんだ……」


 七瀬さんはがっくりした様子で落ち込む。


「やっぱり迅雷先輩が相手じゃね」
「そうだね」


 最後の部員が集まらない理由。
 迅雷先輩の圧倒的強さが原因であった。
 誰もやられる覚悟までをして空手部にははいってこない。


「後、二日だよ。どうしよう?」
「……」


 どうしようもないさ。
 あの人に勝てる人は絶対いないから。
 それにこのままあの部活がなくなってもぼくには関係のないこと。
 何も感傷もない……。



【お昼休み】


 ぼくは七瀬と共に部室にいく。
 剣道部の隣にある小さな道場。
 実はこの場所はぼくのお気に入りだった。


「うん? 二人で仲良くここに来てなんのようだ?」
「そんなじゃないです!!」


 七瀬さんが慌てて否定する。
 赤木部長。この空手部の部長で今年で三年生である。
 この人も空手暦が長いらしく七瀬さんと互角の戦いを繰り広げている。
 坊主頭に背が高く、バスケ部によく誘われたらしい。


「部員見つかったかなって」
「残念だが、いない」
「やっぱり」
「あの主将がいる限り部員が入ってこない」
「誰かいないかな……」


 そう簡単に物事は進むはずはない。
 簡単に……そう簡単にできたら誰だって幸せになることだってできるはず。
 そんなことはない……絶対にない



「あの〜部員募集って聞いたんですけど」
「!?」


 お昼休みに部室にやってきたのは一人の女性だった。
 ぼくは思わず見惚れてしまった。
 ポニーテールで髪をアップしているのがとてもよく似合っていている。
 顔を見てみると彼女は微笑み返してくれた。
 きれいな女性だ……。
 隣で、むっとなっている七瀬さんの顔にぼくは気がつかなかった。


「わたくし、聖 桜花と申します」
「『ひじり おうか』さん?」
「そうです。一応三年生ですの」
「桜花さん……」


 ぼくの心は激しく揺れ動く。……なんでだろう?
 この感情はわからない。
 でも……いい気持ちだ……。


「でれでれしないの!!」


 そういってぼくの後頭部を叩く。
 なぜに叩くんだろう?


「で、本当に空手部に入りたいのか?」
「ええ、とても暇ですから」
「暇ね……」
「しかし、この空手部に入るにはそれなりの強さが必要だが」
「どうすればよろしくて?」
「そうだな。京と試合して勝ったら部員として認めてやろう」
「なぜにぼくが!?」
「そんな無茶ですよ!!」
「京はこの空手部の中で一番弱いんですよ」
「……誰でもいいですのよ」
「いいよ、このままでいいの?」
「本気なの?!」
「別に、試合するだけだろう?」
「決まりだな」


【空手部道場決戦】


 ぼくと桜花さんは制服姿で挨拶をする。
 桜花さんは自然体の構えをしているみたいだ。
 あまりやる気がないぼくはいつものやっているように弱弱しく構える。


「はじめ!!」


 赤木先輩の声が響く。
 しばらく互いに睨み合う。
 やがて……。

「風神流<雷光闡明>」


 猛スピードでぼくの間合いに入ってくる!!
 両手で気をためぼくのお腹に接触。
 そしてぼくは後方に吹っ飛ばされたのだった。


 ずとぉぉぉぉぉぉぉん!!



 衝撃音が辺りに響いた。


「京!!」
「あら? 思いのほかに飛びましたわね」


 ぼくは壁に激突して意識をそのまま失ったふりをした。
 七瀬さんんの声が聞こえてくるが、答えられる余裕がなかった。


(飛び過ぎたかな。結構この人も強い人だったみたい)



 この日、空手部最後の選手として聖桜花が部員として加わる。
 そしてぼくの恋に気がつきはじめる鐘が鳴り響く前の出来事であった。




INDEX 後編



 後書き

 とりあえず前編なので簡単に終わらせます(笑)
 これが京の初めて出てきた作品です。
 とりわけ少しリメイクされています。

 あまりされていないような感じかもしれませんがね(笑)
 とりあえずは前回のよりも見やすくしています。
 もし初めて見る人だったら…気にしないで下さい(笑)

 では後編に♪