京の日常
−最終劇 時の流れは二人の祝福のために−
猫ヶ崎の歴史の闇に葬られた事件が終わってすでに半年がすぎていた。
高校が一晩でなくなったと街中で大騒ぎになっていたが、次第ににその噂もなくなり他の噂へと変わっていった。
校舎が全壊していたために休校になるかと思われたが、仮の校舎が一晩で建たせた吾妻ほまれの強引さと吾妻コンツェルンの財力によってすべては解決した。
生徒は通常通りに登校して、下校していく風景は何も変わらなかった。
ただ剣道部主将の驚きを除いて……。
「なんだこれは!!」
「……校舎がなくなっていますね」
「俺が部活の遠征に行っている間、何が起きたんだ!?」
「……それでも授業はあるみたいですね。迅雷主将行きましょう」
「香澄はどうしてそういつも冷静にいられるんだよ。校舎がないんだぞ!!」
「……勉強ができる空間があれば問題ありません」
「……そういうもんなのか?」
という光景が事件があった三日後に起こったことだけは記しておく。
その後、学校の中は平和に過ぎていった。
軽音部『Lunar』のバンド活動再開。
凍結されているスパコン君の改良型が登場したこと。
迅雷の破壊活動がさらに広がったこと。
新しく転入してきた帰国子女が大騒ぎを起こしていくこと。
など、いつものにぎやかな状況が繰り返される日々が続いた。
そんな中、七瀬琴美は部の部長になり空手部を盛り上げていた。
大会をすべてを制覇して一躍、有名になった。
対戦した選手たちは声を上げてこう言う。
「彼女の出す技に燃える炎のように熱く鋭い」
今では七瀬のトレードマークになっているグローブを真似するほど、人気も上がっていった。学校の中でも有名な女生徒として活躍している。
もちろん、男性からの人気が上昇していったのは当然である。
しかし、彼女は誰とも付き合わなかった。
「君のような女性は僕が捜し求めていた人だ。ぜひ、僕とデートしてくれよ私の女神!!」
「……ごめんね。ぼくさ、そんな気分じゃないからさ。他の人なんてどうかな。あっ、スーさん。秀一郎君がデートしてって!!」
「なっ?! 七瀬さん……それはないよ!」
といった会話が多く見えていた。
友人たちは「なぜ恋人をつくらないの?」と聞く。
そうするといつもこのような返事が帰ってくる。
「ぼくにもわからないけど……待っているんだ。遠くに行った人を……」
その会話のせいか七瀬の恋人は外国にいて、長距離恋愛している。
と噂が立った。七瀬は苦笑するしかなかった。
ぼくだってなんで見知らぬ人を待っているのかわかんないよ?
でもその人と約束した気分になっているんだ……。
姿も顔も知らないけどさ……。
あの事件が起きてからぼくの頭の中で回っているんだよ。
そんなこと他の人に話しても誰も信用してくれないよね。
でも、ぼくはなんだかいつか来るんだって信じているんだ。
その日まで……。そう、ぼくは待たなきゃいけないんだ。
そして、また時は過ぎて……。春がやってくる。
ぼくは二年生になる。桜の花が満開になり、花びらが舞う。
今年も先輩が卒業していく……。
この学校で一番インパクトのあった迅雷先輩も卒業した。
なんか学校に永久にいるんじゃないのかなとか思ったけど、時の流れに例外はないらしい。
迅雷先輩が去っていった学校はなんだか大穴が開いたような感じ。
残った香澄先輩が少しさみしそうにしていたのが印象的だった。
その香澄先輩もついに三年生。風紀委員長としての取り締まりが厳しいのは気のせいかな?
この前も遅刻寸前で説教を受けたけど。
ぼくの方はというと新入生の勧誘をやっていた。
空手部には現在、先輩はいない。
空手部は一時はつぶれそうになっていたが、どういうわけかなくらなかった。
なぜかはわからない。ただ部員は前より増えたには確かだ。
今じゃ、剣道部ぐらいはいるかな。
ぼくが大会で優勝したおかげだ、と後輩は言ってくれる。
でも、ぼくだけの力で勝ったのかなと本当は疑問に思う。
誰かが力を貸してくれていた……そんな気がする。
そう、このグローブを嵌めてから……。
これはぼくの大切なもの。
なんだか知らないけどいつのまにかそう感じるようになった。
「さてと、おーい。そこの人。うちの部に入らない?」
「七瀬先輩!!」
「うん? 何かな……」
「桜花先生が先輩を呼んでいますよ」
「桜花先生が? また何か問題ふっかける気じゃ……」
「ここは私たちに任せて行って下さい」
「ごめん。そんじゃ行ってくるよ!!」
−神代神社−
その日、神代葵は神社の掃除をしていた。
別になんてことのない。ただの日課である。
ほうきで桜の花びらを集めてちりとりに取る。
「さてと、掃除も終わったし……かくれんぼでもしようかしら? それとも猫ちゃんでも追いかけようかな。きつねさんのパジャマでも洗濯しようかしら」
と、かなりボケたことを独り言を言っている。
喋らなければとても優雅に見えていたはずだったのだが。
石段を上がろうとした時。
「すいません。猫ヶ崎高校ってどこにあるのですか?」
葵はその声にびっくりして石段を踏み外す。
「きゃあ!!」
「危ない!?」
声をかけた少年が慌てて葵を抱き止める。
「大丈夫ですか?」
「すみません。あらあら?」
「どうかしましたか?」
「……どこかでお会いしませんでしたか?」
「えっ?……いいえ、僕はこの街に今日、初めて来ましたから」
「はぁ……。なんででしょうね。あなたを思いっきり叩きたい気持ちと抱きしめたい気持ち。その両方があるんです」
「は、はぁ。叩かれるのは……」
「ふふ、おかしいですね。初めてあった人にこんなこというなんて」
「……でもあなたにならそう言われてもいいなと思いますよ」
「そうかしら? そうだ、お茶でもいかが?」
「いえ、今日は学校に転入届を出しにいかないといけないので」
「そう……また来て下さいね」
「ええ、暇があればまた来ます。ところで……」
「何でしょうか?」
「学校の場所は……」
「……すっかり忘れていました」
「……はぁ」
それからその少年は学校の方へと向かっていった。
高校生なのだろう。
腕に黒のグローブを嵌めていた。
「初めて会ったような感じじゃなく、親しい人が尋ねてきたような……そんな感じがする。また来てくれるって言っていたわね。さ、洗濯しなきゃいけないわ。たぬきにきつねさん」
『ただいま、葵姉さん』
「何か、ただいまって聞こえたような……気のせいかしら?」
葵はふと空を見上げる。空は青空で、雲がゆっくりと流れている。
桜の花びらが、ひらひらと舞い上がる。
「そうね。気のせいね。でも……おかえりなさい。私を知っている人がそう言ったかも知れないしね。今日もいい天気……ほんとに……」
葵の目からうっすらと涙がでてくる。
それは風に乗ってそっと地面に落ちていった。
葵は、自分自身でも気づかない涙を流していた。
そしてしばらくの間、地面は濡れ続けることになる……。
−猫ヶ崎高校正門前−
僕が正門前に来た時、男子生徒と女子生徒の二人が何か数人に囲まれていた。
……猫ヶ崎高校の制服だね。あれは。
「そっちが悪いんだろ!!」
「俺はただ、ぶつかった詫びに俺達に付き合えといっているだけだぜ」
「そうそう、そんなやせ細った奴なんかと遊ばなくてもな」
「あんたちなんかに付き合いたくないね!!」
「つ、つるぎさんに手を出すな!!」
「なんだこいつは? 俺とやろうというのかい、あん?」
「あ、あんたたちその人に手をだしたら承知しないよ」
「なんだ? おまえらカップルかい。笑わせる!!」
「あなたなんかに笑われる筋合いはないです」
「余計なことは言わないほうが……いいんだぜ!!」
男の拳が男子生徒を殴りつける。
男子生徒は両膝を地面に落として殴られた腹を抱えた。
「トキちゃん!」
「トキちゃん!? 変な名前だな」
「あんたたちよくも!!」
「おい、やるっていうのか?」
「迅雷がいないのにいいのかい?」
女子生徒は一番近くにいた男を蹴り飛ばす!!
だが男はそれを受け止めそのまま前に押す。
女子生徒は男子生徒と一緒のところに倒された。
「くっ!!」
「大丈夫? つるぎさん」
「さてと、おまえらを今からいいところに連れてってやるよ」
「いいところにな」
「そこで楽しもうぜ」
男たちは二人を抱え上げようとしていた。
やれやれ、いきなり転校早々にトラブルか……。
「あんたたちそこまでにしないかい」
「誰だおまえは?」
「なんだ、おまえも仲間に入れてもらいたいのか?」
「きみたちの仲間に入るつもりはないよ。でもね、この状況は見逃せないから……」
「……おまえどこかで見た顔だな……」
「たしか隣街の学校にいた……そうだ京だ!!」
「僕の名前知っているの? だったらその二人を返してくれる?」
「暴力団を一つ潰したといわれているあいつか?!」
「……だが噂は噂だろ」
「おまえ達、そいつをやっつけろ!!」
「……どうしてもやるのかい」
そして一分後、男たちは全員道路に倒れることになった。
その光景を見て男子生徒と女子生徒は呆然としている。
僕は二人に近づき話しかける。
「あの……職員室はどこかな?」
「……職員室?」
「そうです。僕、今日からここに転校するので」
「あっ……付いて来てください」
「ありがとうございます」
「いや、私たちを助けてくれてありがとう」
「最近、迅雷先輩がいなくなってああいう人達が多いのです」
「そうなんだ……どこにだっているもんだね、あんな人達は……」
「何か武術でもやっているのかい?」
「うん。草薙流という古武術をね」
一緒になって職員室に向かう。
その間、僕はこの学校のことをいろいろ聞いた。
いろいろな人達が集まる学校としてこの学校は有名だ。
この二人はなんかバンドをしているらしく、今度、僕を招待してくれることを約束してくれた。
話している間に僕たちは友達みたいに話をするようになった。
なんだか、前に話したことがあるような感じで。
「ここだよ。職員室」
「ありがとう」
「ううん。僕たちの方こそ君にお礼いわなきゃいけないし」
ぼくはそのまま職員室に入った。
別れ際に二人の会話が耳に入った。
「なんか……前にも会ったことあるような人だな……」
「あっ、つるぎさんもそう思う?」
「トキちゃんも?」
「不思議だね……」
☆
職員室で僕はこってり怒られた。
理由は簡単。大遅刻をしたかたらさ!!
場所が解からなかったと言ったらさらに怒られるよね、きっと。
……むなしい理由だよね。
無事ここの生徒となった僕は校舎を歩き回る。
比較的新しい校舎みたいで嬉しい。
なんでも一度立て直したらしいが……。
さてと、部活はどうしようかな……。
もう二年生だからな……。今からやるとなると……。
ちらほら歩き、やがて外に出る。
外ではそれぞれの部活が必死に新入生を勧誘しているみたいだ。
部活が盛んな高校だからね……。
☆
運命は二人を同じ場所へと導き会う。
「こんな雑用を押し付けるなんてひどいよまったく!」
「……空手部か…」
二人は惹かれ会うように一歩、一歩近づきはじめる。
「ここに看板を置いてと。さぁ、みんな勧誘を再会するよ!!」
「ふーん。元気な女性が部長みたいだね……」
そして二人の希望通りにやがて引き合う。
誰にも邪魔されずに、誰にも気兼ねせずに……。
「ねぇ、きみ!!」
「さてと、他に行こうかな」
「きみだよ!! キ・ミーー!!」
「……もしかして僕のことかな……」
「ねぇ。空手部に入……らな…い……」
彼女は僕を見た瞬間、言葉を失う。
じっと見つめて何かを確かめるような感じで見つめてくる。
「……。あれっ? 君さどこかで……」
「?!」
突然、僕の目の前に何かが飛んでくる。
気が付くと僕は……この人とキスをしていた……。
とても懐かしく、とても気分が良くなっていく……。
周りの人たちは突然のことで何も声を出せなかった……。
二人の再会は必然のもの。
もう一度、彼女に会いたい。それが最後の彼の望み。
神は二人を祝福する。剣が光輝きそれを示す。
二人は抱き付合い、長い時間キスをしている。
互いの顔を見詰め合い、感触を確かめる。
お互いの顔を見て……。
やがて自分がやった行為に七瀬は気が付く。
「……って、ぼくは何しているの!!」
「い、いや僕はよかったけど……」
「初めて会ったのに、きみとはそんな感じがしないよ……」
「僕もそう感じるよ」
「ねぇ、ぼくときみってどこかで会わなかった?」
「僕はここに今日、転校してきたばかりだし……」
「あ、あの部長……この人は恋人ですか?」
「えっ? ……きゃ、きゃあーー!!」
「な、なんで僕はこの人を抱きしめている!?」
悪いことがあった後には良いことがあるかもしれない。
それは君たちの努力しだい……。
消えた運命はまた作り直せばいい。
二人で手を取り合って、協力して……。
「僕の名前は東京<アズマ・キョウ>。きみは?」
「ぼくの名前は七瀬琴美だよ」
「ねぇ、一緒に部活入らない?」
「ぼ、僕がかい?」
「そうそう。きみも何か武道やっているんでしょ。ほらっ、おそろいのグローブしているし」
「ほんとだ……まっいいか。僕、今は二年生だけどいいの?」
「いいよ。やる気がある人はいつでも入部してくれていいのさ」
「部長。勝手に……」
「お願いよ。副部長!!」
「その人が私より強かったらいいですよ」
「きみと戦うの?」
「はい。ここでお願いします」
「そんな今やらなくても……」
「……いいよ」
「では!!」
「……てぃ!!」
京が相手の蹴りをかわすと同時に後頭部に蹴りを入れる。
そして後頭部直前で動きを止める。
「こんなものでいいかな?」
「す、凄い!!」
「まいりました……」
「それじゃ、空手部に僕は入部します」
「やった!!」
二人の未来は光輝く。
どんな困難でも手を取り合っていけば突き進める。
そう信じて……。
☆
その後、僕はなぜか部長になった。
初めての練習で七瀬さんを簡単に勝ったからである。
部員もやがて次第に僕の力を認めて部長と認めてくれた。
ただ困った噂もある。
僕がなぜか外国帰りということになっているらしい。
理由は誰も教えてくれないのが少しつらかった。
そういえば、七瀬さんの恋人ということにいつのまにか認知されいる。
どうやらあのキス事件が発端となっているみたいで……。
二人は公然の仲だと……。
僕たちはあれから数週間たってから付き合い始めた。
好きともいわずに自然と……。
そして時は過ぎて……また梅雨がやってきて夏がやってくる。
そんな折りにある日、僕は七瀬さんに誘われて実家にいく。
誰もいない家に僕たちが二人だけ……。
僕たちはその晩、二人で一緒に過ごした。
「好きだよ。七瀬……」
「琴美でいいよ」
「……琴美。……なんか恥ずかしいね」
「ふふ。そうだね」
これから二人の新しい物語がはじまる。
そして新しい京の日常もはじまるのである。
さようならはただいまをいうための呪文。
またお互いに会うために放たれる言葉。
二人は遠い、遠い時間をかけてその言葉を放つ。
二人の未来はセピア色に包まれる。
幸せに暮らしていくために。泣いたり笑ったりしていくために。
たまにはケンカをしたりするかもしれない。
でも、そんな困難を乗り越えて二人の未来は輝く。
いつかこの高校生活を思い出すたことは必ずあるだろう。
二人は笑ってアルバムを見て記憶を思い出す。
互いの思いが彼らの心を思いやる。
いつまでも、いつまでも……。
後書き
ついにこのお話も終わりました。
どうでしたか? 京の日常は……。
この小説を読んでくれた人達が幸せな気持ちになってくれたら、
とても嬉しいですね。
このお話を最後まで書かせてくれ、無理なお願いを聞いてくれたエルさんと応援してくれた皆様に感謝します。
と、私らしくない終わりかたですね……。
まあ、たまにはこんな終わりかたもいいですね。
また御会いすることがあれば…ってあるのかな?(笑)
それでは……。次回がありましたらその時に。