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                               癌/ガン基礎知識  

 

                           

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  wpe89.jpg (15483 バイト)INDEX                              wpe18.jpg (12931 バイト)             

プロローグ            事務担当で採用された、二宮江里香です 2006. 9.25
No.1 〔1〕 ガンという病気の概要 2006. 9.25
No.2    <遺伝子に突然変異を与える原因> 2006. 9.25
No.3    <ガン細胞とは・・・幹細胞ガン細胞の類似点>     2006. 9.25
No.4    <幹細胞とは、> 2006. 9.25
No.5    <腫瘍血管新生・阻害薬> 2006. 9.25
No.6 〔2〕 ガンという病気への対策 2006. 9.25
No.7    <検査技術> 2006. 9.25
No.8    <ガンによる死亡率の推移> 2006. 9.25

                                                  

    参考文献   東京新聞サンデー版  がんの基礎知識

                日経サイエンス /2006 - 10   

                    幹細胞の暴走がガンを招く

                         M.F.クラーク  (スタンフォード大学)   M.W.ベッカー(ロチェスター大学)

 

プロローグ        wpeA.jpg (42909 バイト)<二宮 江里香>

think tank=赤い彗星の、事務担当で採用された、二宮江里香です。よ

ろしくお願いします。

  think tank=赤い彗星の初仕事として、“癌(ガン)の基礎知識”を担当

することになりました。所長の片倉正蔵と、関三郎厨川(くりやがわ)アンが参加し、

“危機管理センター”里中響子さんが進行役を務めます。どうぞ、よろしくお願いし

ます」

           

           <片倉 正蔵>             <関 三郎>           <厨川 アン>

片倉正蔵です。新設された think tank=赤い彗星の所長に就任しまし

た。まだまだ、勉強不足ですが、以後よろしくお願いします」

「ええ、関三郎です。よろしく。夏が去り、秋が本格化してきましたね」

厨川(くりやがわ)アンです。どうぞよろしく。ニックネームは、赤毛のアンです」

       wpeA.jpg (42909 バイト)  wpe8.jpg (3670 バイト)  

「里中響子です...

  夏が過ぎ、秋になりましたが、“危機管理センター”“癌/ガン/cancer”

部門を新設しました。これから、“ガンの考察”が、本格化していきます。今までは、人

員不足で実現しなかったものです。これからは、シンクタンクという強力な頭脳集団が

始動します。スタッフもどんどん採用していきます。

  ガンといえば、ボスの小説に普遍時間という、末期ガン患者を扱った小説があ

ります。ボスの力作です。若い頃に書いた小説ですが、今回さらに読みやすいように、

文章の字体と形式を整理し、画像も挿入しました。そちらの方も、よろしく...」

 

〔1〕 ガンという病気の概略

           

 

「ええ...」響子が、 think tank=赤い彗星スタッフを見回した。先任とし

て、落ち着きのある微笑を作った。「よろしくお願いします...

  日本では、高齢化社会の進行と共に、ガンの死亡率が上昇しています。現在は、

人に1人ガンで死亡しています。2015年には、およそ2人に1人は、ガンで死亡

することが予想されます...

  日本人の寿命が長くなり、他の病気ではなかなか死ななくなったとも言えるわけで

す。これは決して、悪いことではありません...でも、長寿の高齢者だけが、ガン

なるわけでないのです。多様なガンが、様々な年齢で発症しています。アスベストによ

“中皮腫”や、放射線被曝などでも、ガンは発生します。こうしたガンも、年齢に関係

なくはありませんが、リスクを受けるのは、年齢とは関係がありません...

  ガンは、潜伏期間が長いと言うか...加齢という要素が強く影響するようです。

という時間的要素に加え、高齢化して免疫機能が低下してくるという事がありま

す。

  一方、アメリカの同時多発テロのあったニューヨークのグランド・ゼロでは、直後に

救助に当った消防士が、現場の濃密なダストを吸い、1週間でガンが発生したようで

す。これは、つい数週間前に、【9.11同時テロ/5周年】のテレビの特集で見たもの

ですが、本人が証言していました...そうしたことも、あるようです。

  ガンは、“正しい知識”を持ち、予防することで、“かなりのリスクは回避”できる病

と言われます。今回は、そうしたことも含め、まずガンという病気ガイドラインを考

察します...

  ええ、片倉さん...ガンとは、そもそもどのような病気なのでしょうか?」

「はい...」片倉は、やや緊張し、作業テーブルの上で、両手を固く結んだ。「まず、

人体は、およそ60兆個の細胞で構成されている、と言われています...」

「はい、」響子がうなづいた。「よくそう言われますね...と言うと、国家予算なんか

の数字で使われますが、日常的には、想像を絶する単位ですね、」

「そうです...

  人体は、そうしたと言う単位の精密な細胞が、有機的に結合して、構成されてい

ます。結合と言うよりは、本来は1個の受精卵卵割から始まり、細胞分裂によって、

60兆個という膨大な数まで膨れ上がった...いわゆる多細胞からなる生物体です」

「それが、人体ですね...」響子は、片倉の緊張をほぐそうと、首をかしげ微笑した。

「はい...

  その60兆個の細胞が、猛烈な速度で呼吸し、それぞれの細胞活動をしています。

そして、その60兆個の細胞自身も、新陳代謝して生滅して行きます。古い細胞が

ポトーシス(プログラム的な死)で死に、新しい細胞が細胞分裂によって生まれてきます。

は無限にコピーされ、不要になった残滓は、皮膚排泄物などとして、廃棄

されます」

「...」

60兆個の細胞も、数日から数ヶ月程度で、すっかり入れ替わるようです。皮膚は

ヶ月、腸の上皮は2〜3週間、血小板などは10日ほどの寿命と言われます。神経細

心筋細胞は、例外的に長い寿命をもちます。それから、記憶をつかさどる脳細胞

などは、どうなのでしょうか...実際の所、人体については、まだそれほど詳しくは

分ってはいないのでしょう」

「はい...」響子が、うなづいた。「ともかく、60兆個の細胞が、一糸乱れずに働き、

生滅をくり返しているとなると...まるで、自動制御の、膨大な化学工場のようです

ね」

「まさに、そうですわ!」厨川アンが言った。「私たちの知っている最新の化学工場

比べて...スケールにおいても、複雑さにおいても、斬新さにおいても、はるかケタ

違いに進化しています...それが人体ですわ...

  私たちの相手にしているガンという病は、まさにそういう現場で起こっている、致命

的なトラブルだということです。コンピューターのソフトウェアーと同じようなものです」

「というと?」

「人間が手を突っ込んで、機械的に直せるようなレベルではありません。外科手術

ありますが...それでも直すには、基本的には“自己修復”という、生命体の“恒常

(ホメオスタシス)を使います...

  その機能なしには、生体の修復というものは、どのようなものであれ、不可能です

わ...

“ナノ・スケール(ナノは10億分の1のこと)の、ソリューション(問題解決)ということですね...

そのプログラムを起動し、上手にトラブルをコントロールするということですね?」

「そうです...」厨川アンが、赤毛を耳の後ろに撫でつけた。「細胞は、命の最小単位

ですが、ガンとの戦いは、そうしたスケールでの、総合戦略的な戦争ですわ...」

「うーん...戦争ですか、」

1つのガン細胞は、」厨川アンが、指を1本立てた。「強力な兵器で武装した、1人の

不死身の戦士”のようなものです。そうした強力な戦士が集まって、“悪性腫瘍”にな

るのです。“悪性腫瘍”というのは、強力な悪性の軍団です...」

「厨川(くりやがわ)さんは、その方面の研究者ですの?」響子が聞いた。

アンです。アンと呼んでください。ニックネームは、“赤毛のアン”で通っています。

  私は、特にガンの研究者ではありませんわ。しいて言えば、生物情報科学(バイオ

インフォマティクス) です。ここの先任の、外山陽一郎さんは、若い頃から存じ上げてお

ります」

「あら、外山さんをご存知ですの?」

「はい...先輩でしたが、同じ講義を受けた時期もありました」

「そうですか...生物情報科学の他には?」

「そうですね...分子生物学電子工学熱力学なども修めています。 think tank

では、そうした総合的な知識が求められますわ」

「うーん...頼りにしています」響子は、口元に笑みを浮かべた。片倉正蔵と関三郎

の方にも、あらためて会釈した。「関さんは...得意は、どの方面でしょうか?」

「好きなのは、システム工学ですね...“人間の巣”の創設などは、大いに興味が

あります」

「あら!」響子は、顔を輝かせた。「それは、皆さん、喜びますわ!よろしくお願いしま

す!」

「こちらこそ、お願いします」

「ええと、話を進めましょうか、」響子が言った。

「はい...」片倉が、うなづいた。「ええ、人体の60兆個の細胞が...非常に短期間

で生滅を繰り返しているわけです。したがって、細胞分裂の時、DNAがコピーされて

いく正確さは、気の遠くなるほどの完璧さと言えます。

  これは、とても電子工学などで管理できるレベルではありません...まさに、“神

の完璧さ”で進行していきます...」

「はい、」

「そして、ごくまれにミスがあります...“神のプログラムミスです。

  そうしたミス蓄積され、、突然変異を起こります。この突然変異が、生命進化の

ベクトルにもつながるわけです...が、しかし、大概は、いわゆるミスとなります。そ

して、ミスとなった細胞は、多くの場合は自然に死に絶えて行きます。

  ところが...“ある遺伝子”ミスがあり、細胞はとめどもなく分裂を繰り返すこと

があります。普通の細胞は、細胞分裂する回数制限があります。それが、実質的

に、人間の寿命というものを決めていくわけです。しかし、ガン細胞の場合は、その

制限がはずれ、無限と思われる細胞分裂をくり返して行くのです。つまり、暴走するわ

けです。

  こうしたガンの原因となる遺伝子は、数百種類あると言われています。最初に言っ

たように、日本人の寿命が長くなり、細胞分裂の回数が相対的に増えれば、こうした

遺伝子に突然変異が起こる確率もまた、高くなるわけです...」

「はい、」響子がうなづき、腕組みをした。

「最近の研究では...健康な人でも、ガン細胞1日に数千個発生しているといい

ます。しかし、発生早期に、免疫細胞がそれを退治し、消えて行くことが分って来てい

ます」

「うーん...そうなんですか、」

「何らかの原因で...例えば、加齢とかで...その免疫メカニズムの機能が弱まる

と、ン細胞の増殖があるようです」

「はい、」

「それから...いわゆる、発ガン性原因物質というのもあります。遺伝子に、突然

変異を与える原因となるものです...そうしたものでも、ガンが発生するわけです」

加齢は、予防できないでしょうが、発ガン性物質は、リスク回避のポイントになりま

すね」

「そうです...まず、それを話しておきましょう...ええと、関君、お願いします」

「はい」関三郎がうなづいた。

 

<遺伝子に突然変異を与える原因> 

                   

「ええと...」関が、自分のノートパソコンを覗きながら言った。「ガン細胞を作ってしま

う原因となる...遺伝子突然変異を起こさせる要因は、さまざまなものが判明して

います。ここでは、概略ということで、主だったものを上げておきます...

  まず、“感染症型のガン”の要因として、“ウイルス”“細菌”があります。次に周

囲の“環境から来るガン”の要因として、“放射線”“紫外線”“公害”“発ガン

性物質”などがあります。それから、“生活習慣に起因するガン”の要因として、“タバ

コ”“飲酒”“食生活”“発ガン性食品”などが上げられますね...」

「うーん...ストレスなどは、違うのでしょうか?」響子が聞いた。

「そうですねえ...どうですか、所長?」関が、片倉の方を見た。

「そうだねえ...ストレスは、影響はあるかも知れませんが、ここでは直接的なもの

に限定しておきましょうか、」

「はい、そういうことです...

  ええ...これまでの日本では、胃ガン子宮頚ガン肝臓ガンなど、“ウイルス”

“細菌”が原因となる“感染症型のガン”主流でした。しかし、最近は、衛生環境

の改善などがあり、こうした“感染症型のガン”による死亡は、減少傾向にあります。

  一方、増加傾向にあるのが、肺ガン乳ガン前立腺ガン大腸ガンなどです。こ

れらは、“喫煙によるガン”や、動物性脂肪の取り過ぎが原因の“欧米型のガン”

す」

「やはり日本人は、和食があっているということでしょうか?」

「そうですね。どうも、遺伝子がそうなっているようです。こうした傾向は、生活習慣病

/メタボリック症候群(糖尿病、高血圧症、高脂血症が併発)などにもはっきりと表れているようで

す。欧米型の食生活になったために、日本人の場合はさほど太っていなくても、非常

“U型の糖尿病”になりやすいようです。これには、日本人が本来もつ民族固有

倹約遺伝子(β3-アドレナリン受容体遺伝子など)が関係しています。欧米人に比べて、2〜3倍

も持っているようです」

「うーん...」

「ともかく、」片倉が、作業テーブルにひじを立てた。「ガンは、生活習慣に密接に関連

した病気です。また、一部の例外はありますが、“基本的に、遺伝する病気ではない”

と言うことです」

“感染症型のガン”には、どういうものがあるのでしょうか?」

「よく知られている所では、C型肝炎ウイルスから、肝硬変になり、肝臓ガンになると

いうものや、ピロリ菌慢性胃炎のもとになり、胃ガンに発展するものなどです」

「はい、」響子は、うなづいた。「では、そうしたものを除いて、生活習慣に気をつけて

いれば、ガンになるリスクを、ある程度までは回避できるということですね?」

「その通りです...“環境から来るガン”は、個人的には、対応は難しいですね。した

がって、“生活習慣に起因するガン”の対応が、個人レベルでは、最も重要になりま

す。ガン個人発生的な疾患ですから、それが総合的にもガンのリスクを回避する重

要なポイントになります」

「はい...」

「まず、“禁煙”、そして、“野菜中心のバランスの良い食事”“適度な運動”など

が、ガンのリスク回避では重要になります。喫煙者が、必ずガンになるというわけでは

ありませんが、ガンの原因の3割は喫煙です。したがって、“禁煙”は非常に効果的

です。特に、若い人は、やめた方がいいですね。10代で吸い始めた人は、吸わない

人の6倍肺ガンによる死亡率が高くなります」

「うーん...ボス(岡田)は、1日に3〜4本吸うのですが、それもやめた方がいいでしょ

うか?」

「私は、まだ、ボスにはお目にかかったことはないのですが...ボスは、多分、承知

しておられるのでしょう。ご自身で判断されると思います」

「うーん...分りました。私の方から、一言いっておきます。医者の不養生というよう

に、知っているだけでは何もなりません」

「まあ、そうですね...

  “感染症型のガン”“環境から来るガン”“生活習慣に起因するガン”は、社会

的、個人的に、“リスクを回避”が可能です。まあ、杞憂(きゆう/取り越し苦労)なのかも知れ

ませんが、発症する確率を下げるようにすることは大事でしょう。

  一方、どんなに注意しても、ガンを完全に克服することはできません。寿命が長くな

れば、それだけ遺伝子が突然変異を起こす回数が増えます。しかも、それに対抗す

疫機能は低下します。

  これが、日本社会が急速な高齢化によって、ガンによる死亡率が急増している理

由です...まあ、ある意味では、仕方のないこととも言えます。人間は、寿命が来れ

ば、いずれ死を迎えるわけですからねえ...」

「そうですね...」響子が、口に手を当てた。「そして、原因不明の、突然発症してくる

ガンもあるわけですね?」

「そうです...詳しく調べれば、原因はあるのかも知れませんが、そうした難しいガ

もあります」

「うーん...」

「ではアン、ガン細胞について説明してください」

「はい...」アンが、自分のノートパソコンをつついた。

<ガン細胞とは> ...幹細胞ガン細胞の類似点  wpeA.jpg (42909 バイト) 

                 

「先ほども、片倉さん言ったように...」アンが、眼鏡の縁に手をかけながら、顔を上

げた。「健康な人でも、ガン細胞1日に数千個発生しています。それを、免疫細胞

早期発駆除していることが分って来ています。

  では、そのガン細胞とは、どのようなものかについて、概略を説明しますわ」

「お願いします」

「まず...

  <ウイルスや細菌><放射線や紫外線><ニコチンなどの生活習慣の中での

発ガン物質>...こうしたものによって、細胞の中にある遺伝子が傷つけられます。

つまり、ヒトゲノムやその周辺が傷つけられ、設計図が書き換えられてしまうわけで

す。

  こうした異常細胞は、細胞として適応ができません。ほとんどが自然に消滅したり、

免疫細胞の攻撃で消滅します。ですが、ここで生き残った異常細胞が、ガン化するの

です。つまり、ガン細胞になるわけですね...大雑把に言えば、こういうことですわ」

「その異常細胞が、増殖して行くわけですね、」

「そうです...

  危険な設計図をもつガン細胞は、分裂を繰り返し、異常な速度で増殖し始めます。

そしてまず、ガン細胞の塊“悪性腫瘍”となって“原発巣(げんぱつそう)を形成します。

それから、“浸潤(しんじゅん)“転移”によって全身に広がっていきます...」

「うーん、専門用語が出てきましたが、」響子が言った。

「はい、」アンが、うなづいた。「徐々に説明して行きますわ...

  ええ...“幹細胞”は別ですが...ほとんどの細胞は、肝臓腎臓というよう

に、それぞれ決まった場所で生まれ、その場所を離れずにそこで専門的な仕事をし、

その場所で死んで行きます。それが普通の細胞の一生です。

  ところがガン細胞は、その生まれた場所を離れます。非常に特異な性質です。つま

り、周囲の組織に“浸潤して行きます。あるいは、血管リンパ管を通って、他の臓

器に次々と“転移”して行きます。これが、恐ろしいわけです。この非常に特異な性質

がなければ、ガンは本来は治る病気なのです...」

「先ほど、幹細胞は別だと言いましたが、」響子は、自分の掌を見つめた。「この幹細

というのは...韓国で、論文データ偽造事件のあった、ES幹細胞(胚性幹細胞)など

のことでしょうか?」

「はい、その幹細胞ですね...」関が、顎をつかみながら言った。「新しい言葉に、

“ガン幹細胞”というのがあります。これは、幹細胞もどきの細胞と言うことですが、

実はガン細胞幹細胞は、性質が非常に似ているのです。

  例えば、無限とも思える増殖能力や、様々なタイプの細胞を生み出す分化する

能力などですね...現在では、慢性骨髄性白血病(CML)などでは、新たなガン

組織を作る能力”を持つ細胞は...ガン組織の中の、ほんの数%しかないことが分

って来ています」

「つまり...」アンが、顎を上げた。「その特殊な数%の、“ガン幹細胞”を取り除け

ば、より効果的に、ガンを根絶できるわけです...大量の抗ガン剤等で、ガン細胞全

を攻撃しなくても...例えば女王蜂を殺せば、全滅できるわけです...」

「うーん...もう少し、詳しくお願いします、」

「つまり...

  私もまだ、十分に理解していないのですが...本来、幹細胞だったものが、ガン

したということでしょうか...幹細胞は、自分自身をコピーする能力と、臓器などの

特定機能をもつ細胞に分化する能力とを、あわせ持った細胞です。ES幹細胞(胚性幹細

胞)は、胚性ですから、そこから“生物全体へ分化する能力”があるわけです...」

「はい...幹細胞とは、そういうものだということですね」

「そうです...

  本来、正常であるこの幹細胞が、その“子孫細胞”未分化な段階にある細胞が、

悪性化したものと考えられていますわ...どうやら、腫瘍組織の中では、ガン細胞

“階層性”があるらしいのです」

「生物的なヒエラルキーがあると言うことですか?」

「そうです...“悪性腫瘍”の中のヒエラルキーです...つまり階層構造をもつという

ことです...専門ではないので、詳しいことは分りませんが...」

「そうですか...」

<幹細胞とは、>             

             

 

幹細胞について、」関が言った。「もう少し、説明しておきましょう...

  体のほとんどの組織では、新旧の細胞が入れ替わることで、細胞数一定に保っ

ています。このメカニズムの大もとになっているのが、実は少数の幹細胞なのです。

細胞寿命が長く、新たな細胞を補充する生産工場としての機能を担っています」

「はい...」響子が、脚に頭をこすりつける、シャム猫のチャッピーに手を伸ばした。

チャッピーを、膝の上に乗せた。

「ええ、それで...幹細胞からできる“子孫細胞”は...細胞分裂するたびに、特殊

化(/分化)が進んで行きます...

  例えば、骨髄にある“造血幹細胞”は、血液細胞免疫細胞の全てを作り出す、

共通の“親細胞”です。この“親細胞/造血幹細胞は、骨髄細胞全体の0.01%

かないわけですが、この1つ1つから、少し分化の進んだ“前駆細胞”が幾つも作ら

れるわけです...」

「あの...」響子が、チャッピーの頭を撫でながら言った。「1つの、“造血幹細胞”

ら、幾つもの“前駆細胞”が作られるわけですか?」

「そうです」

「細胞分裂だと、それが難しいのではないでしょうか。そのあたりの幹細胞の風景と

いうものを、もう少し詳しく説明していただけないでしょうか、」

「はい...

  まず、“造血幹細胞”から作られた“前駆細胞”は...何回か細胞分裂を繰り返

し、“成熟細胞”となります。これが、ヘモグロビンや、血小板各種の免疫細胞など

で、それぞれ専門の仕事を持つわけです。

  つまり、幹細胞のように、何にでも分化する“未成熟な細胞”ではなく、ちゃんとした

仕事をもつ“成熟した大人の細胞”です。こうした細胞では、もう別の系列に変化する

能力は失われています。こうした細胞は、“最終分化細胞”と呼ばれています...」

「はい...」響子が、チャッピーをそっと下に降ろした。

「さて...

  “幹細胞”は、細胞分裂によって、2つ“娘細胞”を作ります。しかし、“幹細胞”

場合は、 分化が進むのは片方だけです。もう片方の“娘細胞”は、細胞分裂前の“幹

細胞”と、同じ特徴を維持し続けます。これが自己複製です...そのために、分裂に

よって失われることなく、“幹細胞”の数は一定に保たれるのです...」

「そして、」響子が、指を立てた。「分化した“娘細胞”の方は、少し分化の進んだ“前

駆細胞”になるというわけですね?」

「そうです...まさに、分化が少し進むわけです」

「うーん...

  “幹細胞”は、細胞分裂の時に、自分をコピーできるわけですね。一方を、分化させ

ずに、自己複製によって再生させるわけですね?」

「その通りです...

  それが、“幹細胞”の重要かつ特徴的な性質です。したがって、“幹細胞”だけは

無限の寿命をもち、細胞を供給できるわけです。これは、実は、ガン細胞共通する

性質なのです」

「うーん...」

「マウスへの移植実験では...」アンが言った。「“前駆細胞”は、4〜8週間で寿命

が尽き、消滅してしまいます。ところが、“造血幹細胞”なら、たった1個で、血液系全

体が回復し、しかもその効果は一生続きます...」

「はい...“造血幹細胞”というのは、すごいパワーですね」

「そうです!」関が言った。「ES幹細胞(胚性幹細胞)ならば、胚性ですから、その威力の

ほどが分かると言うものです。それで、あれほど騒がれ、生命倫理などで問題にもな

り、論文データ偽造事件という、“科学界の悪性腫瘍”ができてしまったわけです」

「まあ、」片倉が言った。「今回は、基礎知識ということですので、詳しいことはそのくら

いにしておきましょう。まず、基礎的なことの説明を進めてください」 

「はい...」アンがうなづいて、ノートパソコンのキーボードを指で打った。

<腫瘍血管新生・阻害薬>                 wpeA.jpg (42909 バイト)

                                 wpe8.jpg (3670 バイト)  

「ええと...」アンが、アゴを上げて言った。「ガン細胞は、ともかく異常な速さ分裂

増殖を繰り返して行きます。そして、そのために、猛烈な勢い栄養分酸素を奪っ

ていきます。ブドウ糖の場合だと、正常細胞の3〜8倍も取り込むようです」

貪食(どんしょく)ですね...」響子が言った。

「はい...

  当然、栄養分酸素も不足して来るわけです。そこで、ガン細胞は、血管の成長を

促進する物質を分泌します...そして、新しくできた血管“悪性腫瘍”の中に導き

入れます。軍事用語でいう、兵站(へいたん)の確保ですね。そして、補給が十分となり、

ガン細胞は、無制限に増殖して行くわけです」

「新たな抗腫瘍薬として...」関が、言った。「そうした血管ができるのを阻害する、

“腫瘍血管新生・阻害薬”というのが開発されています。まあ、今後期待されていま

す」

「それは...」響子が、頭を揺らした。「かって、スモンという薬害を起こした、あの薬

でしょうか?」

「そうだと思います...」関がうなづいた。「最近は、キノホルムという言葉は禁句に

なったのでしょうか。詳しい事情は分りませんが、ともかく“腫瘍”血管新生阻害

するという新しい攻略法が開発されているようです」

「はい、」響子が言った。「今後、注目ですね」

「そうです」

〔2〕 ガンという病気への対策  

            

「では、」片倉が言った。「ガン対策として、全般的なことを説明しておきます。

  まず、“腫瘍”とは、自己制御を失った細胞が、増殖を繰り返すことで生じます。そ

の大量の組織が作り出す、“しこり”のことです」

「はい、」響子が、うなづいた。

「この“腫瘍”には、“良性腫瘍”“悪性腫瘍”があります。

  まず、“良性腫瘍”の方は、成長が遅いのが特徴です。そして増殖はしますが、“浸

潤”“転移”はしません。それに、正常組織の栄養を奪ったりもしません。首の後ろ

に大きな腫瘍をもった、有名な政治家がいましたが、“良性腫瘍”なら、ただちに命に

影響することはありません。

  しかし、“悪性腫瘍”の方は、まず成長が非常に速いのが特徴です。それから、周

囲の組織に“浸潤”し、血管リンパ管を通って遠くの臓器に“転移”します。つまり、

きわめて攻撃的で、能力が高く悪質です。したがって、早期の発見と、早期の治療

が重要になります」

「はい、」響子がうなづいた。「禁煙や、暴飲暴食等に気をつけると共に、早期発

が、ガンのリスクを引き下げるということですね、」

「そうです。“浸潤”“転移”がなければ、ガンの多くは治る病気といわれています。

早期においては自覚症状がないので、検診是非必要です。

  関君...それでは、検査技術の方を説明してもらえますか」

「はい」

<検査技術>                                 

              

「ええ、今回は、基礎知識ということなので、“検査技術の概要”を示しておきます。ど

のようなものがあるかということです。次のようなものがあります。

 

【肺ガン】.....胸部X線検査、CT(コンピューター断層撮影装置)、他

【乳ガン】.....触診、超音波検査、マンモグラフィー、他

【胃ガン】.....バリウム検査、内視鏡検査、他

【肝臓ガン】 ...腫瘍マーカー、超音波検査、他

【大腸ガン】 ...便潜血検査、大腸内視鏡、CT、他

【子宮頚ガン】 . 細胞診断、超音波検査、子宮頚部内視鏡、他

【卵巣ガン】 ...超音波検査、CT、MRI(磁気共鳴撮影装置)、他

【子宮頚ガン】 . 腫瘍マーカー、直腸診、超音波検査、他

 

  ...と、まあ、こんなものです」

「はい、」響子が言った。「一般的知識として、こうした技術があるということを、知って

おくということですね」

「そうです」片倉が、うなづいた。

<ガンによる死亡率の推移>    

                     

 

ガンによる死亡率の推移は、」アンが言った。「私の方でまとめてあります」

「お願いします」響子が言った。

「ええと...ですね...

  厚生労働省の、2004年人口動態統計によると、ガンによる死者約32万人

です。これは、年々増加傾向にあります。急速な高齢化社会と、無縁ではありません」

「どんなガンが増えているのでしょうか?」

「男女とも共通して、肺ガン増加傾向にありますね、」

食生活の欧米化が言われていますが、胃ガンはどうなのでしょうか?」

「ええと...胃ガンは、横ばいか、やや減少傾向にあります...

  大腸ガンの方は、肺ガンと同じように増加傾向にあります。食生活の影響は、

腸ガンの方に影響しているのだと思います。男女別では、男性は前立腺ガンが増加

傾向にあります。女性では、子宮ガンは減少していますが、乳ガンが増えています

ね」

「うーん...はい!」

                         wpeA.jpg (42909 バイト)  wpe8.jpg (3670 バイト)  

「ええ、響子です...

  ザッと、走るように解説してきましたが、理解していただけたでしょうか。ガンという

病気のガイドラインとしては、とりあえず、こんな所です。今後、順次説明を加えてい

きます。

  次は、日経サイエンスの論文から、最新のガン研究の情報をお伝えします」

 

 

 

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